第50話 事後処理
ドラブフォルトとクラウスが着いた時にはラクナマリアは手当を受けて寝かされていた。
ホーリードール宮は荒れ果てており、何かの燃えカスが塵となって風に消えていく。
「クズネツォフ、容体は?」
部屋を変えてドラブフォルトが問う。
「危険です。ラクナマリアの力ゆえに即死は免れましたが・・・」
「治るか?」
「必要なものがあれば恐らく」
ならすぐに必要なものを取り寄せればいいじゃないか、とクラウスは焦る。
「いかがなさいますか、陛下」
「私は事後処理をしなければならない。お前が行ってきてくれ」
「はい、では殿下に同行して頂いても構いませんか?」
「そうだな。いいだろう」
「父上、どういうことです?」
「後でクズネツォフに聞け、今は急げ!」
◇◆◇
今回の事件で市街地における一般人の死亡者は奴隷商人三人だけだった。
西方諸国会議に参加するために集まった者達への被害はない。
とはいえ威信に傷がついた。
参謀役の西方商工会会頭アスコットと善後策の協議を始めた。
「王宮ではかなりの死傷者が出たとお聞きしました」
「ああ、ほぼ暴徒でこちらの被害は少ないがラクナマリアが危篤状態だ」
「なんと、例の方ですか」
「そうだ。それは最悪代わりがきく筈だからいいが、今回の件は政治的影響が大きい」
「王宮内で起きた事は小さく公表し、市中での被害は最小限に留まったのは陛下と殿下の功績だと報じさせましょう」
それだけでは足りない、と首を振る。
「今回の件で最も大きな被害を負ったのは造幣局のようです。破壊された印刷機は我々が購入代金を出しましょう。そして貧民への食糧配給やインフラ整備資金についても」
「後は富裕層に対し増税する。貧民が扇動されたのもかねてからの貧富の格差拡大のせいだ」
「それはテロリスト達を勢いづかせるだけかと」
「増税はほとぼりが冷めてからだ。方針は変わらない」
アスコットは黙って頷いた。
「報道の件ですが・・・」
「なんだ?」
「親しい国からテロリストへの非難声明と我が国に寄り添う旨の声明を出して頂けるよう働きかけて頂けますか?ある程度バランスを取る必要があると思います」
「そうだな。狂信者達に爆発物を提供した何者かの調査を強力に推進していくと宣言しよう」
「何者かについては帝国であると匂わせましょう。それで大分同情は変えると思います」
「うむ。経済発展が目覚ましいにも関わらず蛮族戦線の維持に協力しないことについて随分帝国議会でも絞られたからな」
事件を防げなかった不手際については素直に認めて、対策を強化すると発表するしかなく、他の点で不満を同情に変えていくことにした。
主犯は紙幣の使用は神への冒涜とするエイクの狂信者であり、他のグループは便乗犯であると報じさせた。