第47話 ホーリードール襲撃
「後宮の備えは万全ですが、怪文書が出回っております。十分にご注意を」
お茶会を開いていたラクナマリアの所にも衛兵が巡回に来た。
ドナやメテオラも遊びに来ているので彼女達の侍女もいる。後宮内にまで護衛は連れてきていない。
巡回に来た衛兵は庭でそれだけ告げて、去ろうとしたがその胸を銃弾が撃ち抜いた。
「一緒に通してしまったか」
ラクナマリアは”マー”が踊るのを目で追いながら、ドナとメテオラの留学に纏わる不安などを適当に聞き流していた所、騒がしいなと思ったら強盗集団が入り込んでいた。
「こりゃいい。お姫様が三人も、いや四人か?」
「すげえ!金目のもんだらけだ!」
「お姫様達も頂いていこうぜ、ジャラジャラと高そうなもんつけやがって」
「足がつくだろうが!」
「んじゃ、中身だけはここで頂こう」「一時間もすれば軍が動くぞ」「すぐにはここまで来れねえよ。あっちこっちでお祭りしてるんだからよ。その前に終わらちまおう」
銃を持った男達がにじり寄り、ドナとメテオラの侍女が守ろうと間に入ると即座に撃ち殺されてしまう。
「ひっ」
ドナ達は銃を突き付けられ、長年仕えてくれた侍女の心配をすることもできない。
「ああ、もったいねえ」
「俺は金だけ貰ってく、じゃあな」
目ざといものは室内の物色を始めていく。
が、その男は起動した魔導人形によって殺された。
「なんだ、ありゃ」
「知らねえ、撃て!」
金属で出来た人形は銃弾をものともせずに盗賊を切り刻む。
敵わないとみた盗賊の一人がラクナマリアに要求した。
「お前ら!あれを止めろ!」
「断る」
ラクナマリアがホスタを含めた三人を庇うようにして前に出る。
「だったらてめえから殺してやる!」
銃を放つが風によってそれは逸らされる。
「下らん」
ラクナマリアによって銃が暴発し、持っていた者達は傷つく。
火薬は魔術で反応させやすく、触媒としても用いられる。
魔術師は自分で魔術に使うような触媒は封印して他人が干渉出来ないようにして持ち歩くが、強盗達にそんな能力はない。
「く、くっそ!」
(随分たくさん入り込んでいるな)
数人かと思ったら、門が閉じられても壁に梯子がかけられてさらに侵入者が増えていく。
「ホスタ、彼女らを地下室へ」
「ラクナマリア様は?」
「わたくしは強い。案ずるな」
「はい」
ホスタは短く答えて二人を地下倉庫へと導く。
ドナ達は気が気ではない。
「駄目ですよ、ラクナマリア様も!」
「私も簡単な魔術くらいなら」
「駄目です!足手まといです。行きますよ!」
ホスタは強引に二人を引っ張っていった。
◇◆◇
侵入者達はラクナマリアを取り囲み銃弾を浴びせかけるも次々と弾かれ、腰の火薬を爆発させられる。
「何故だ!どうして次々魔術が使える!」
魔術というものはその場にあるマナを変化させ、収束させて使う。
使えば使うほど現場からマナの濃度が希薄になり、効果が薄れ、いつかは使えなくなる。
術者本人の魔力から使う事も出来るが消耗が激しく実用的では無いので触媒を持ち歩く。
ラクナマリアの場合、精霊にやって貰っているのでいくら使っても現象界のマナは減らない。池の水が氷の刃となって侵入者を貫き、死体を量産していく。
ラクナマリアは水面に立つ事で男達が物理的に近づけないようにし、銃を持った男達は遠巻きになってラクナマリアと池から離れていくが、金と女が惜しいのでなかなか撤退しない。魔導人形は一人の剣士が防いでいた。
「なかなかやる。騎士崩れか」
「ちっ」
一体は動きが鈍くなったものの破壊しきれず、もう一体も接近していくと剣士は大きく飛び退って距離を取った。
「おっとここまでだぜ」
ラクナマリアの優勢かと思われたが、地下から引きずり出されたドナ達が人質に取られてしまった。
「お前も抵抗を止めな」
「一生治せない傷を残してやってもいいんだぜ」
男達はドナやメテオラの首飾りを引きちぎるようにして奪い、指輪も外した。
「ラクナマリア様、私の事は構いません」
ホスタも男に捕まえられているが、大したものを持っていないので体をまさぐられながら気丈にも自分は見捨てるように頼んだ。
「とはいえ、二人を見捨てればドラブフォルトが不味い事になろう」
「そうそう、大人しくしてれば別に殺したりはしない。こっちにこい」
「彼女達に手を出すな」
「分かった、分かった。約束するよ。さっさと来い」
抵抗を諦めたラクナマリアは池から庭へと移動し、手を掴まれる。
「あっ」
ラクナマリアを掴んだ男は意外と可愛らしい悲鳴に口角を上げ、にやりとした。
「そうだ。それでいい。この一瞬の為なら死んでもいいぜ」
「さあ、金庫とお部屋まで案内しな」
女性達は担ぎ上げられ、ラクナマリアも屋内へと連行されて行った。
心配かと思うのでひと段落するまでは投稿しておきたい。