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第44話 受諾と拒否

 復興祈念式の後、ホーリードール宮に戻ったラクナマリアはクラウスとの面会に応じてくれなくなった。夜なら会ってくれるが、危険なので迂闊に近づけない。

誘惑に負けて決定的な所まで踏み込んだら全てのラクナマリアから了解を得るのは不可能になるだろう。

クズネツォフからはしばらく精神的に安定するまで訪問を控えるようにいわれ、西岸諸国訪問の旅から戻って来た後、日没直後30分だけの面会を申し込み、承諾された。


「皆、よく来てくれましたね。ご飯は食べて行ってくれるんでしょう?」

「いえ、夕食は不要です、とお伝えした筈です」

「夕食ってほどじゃないから軽いものだけ。準備してあるのだし、まさか捨てろっていうの?」

「ううっ」


哀しそうなラクナマリアの顔を見るととても断れなかった。

承諾して、嬉しそうに厨房に去って行くラクナマリアを見送るとカランが話しかけてきた。


「殿下、殿下」

「なんだ?」

「準備済みってことはお昼のラクナマリア様が用意して下さったってことですよ」

「そうか!」


食卓にパンとスープが並んでいく。


「あれ?」


クラウスの分が無い。


「貴方は私の部屋で、ね?」

「あの、ですね。二人きりだと何かあってしまっては昼のラクナマリア様に申し訳ないのでご容赦ください。私はラクナマリア様にもご自分の全てを大事にして欲しいのです」

「仕方ないわね。じゃあ向こうで」


少し離れたソファーに二人で並んだ。


「随分逞しくなったのね」

「そういう年頃ですから・・・あれ?アムルーラとかいう果物を食べられました?」


顔を掴まれ瞳を覗きこまれた時、あの甘い匂いがした。


「いいえ?時々置いてあるけれど、今日はべつに。どうかした?」

「ならいいんです。なんか中毒性ってのがあるらしいけど果物だけなら別に大丈夫らしいですし」

「そうなんだ。それにしても本当に長い間出かけてたのね」

「ええ、どうしても必要なことで。寂しい思いをさせてしまって申し訳ありません」

「いいのよ。私は何十年でも待つし。私から神秘的な所が無くなってもう魅力も感じないし

面倒で重い女だから避けようって思うなら別にそれでもいいし」

「そういった事はありませんが、誤解をさせてしまったら申し訳ないです」


悪戯っぽい笑顔を浮かべているので本気で文句を言っているわけではなさそうだ。


「でも留学する前にお昼のわたくしとは仲直りしなさい」

「はい、でもなかなか面会の許可を頂けなくて」

「今、変わってあげましょうか?」

「いま、ですか?」

「心の準備が要る?」

「いえ、でも悪霊の影響とか受けやすいんじゃ?」

「ここにはマーしかいないから・・・それにわたくしはそれほど弱くはない」


がらりと雰囲気が変わった。


「やっぱりホーリードール宮から出ると面倒な事が多いんですか?」

「悪霊も精霊もそこそこ居るからな。で、留学にいくだと?」

「はい、マナールから聞きましたか?」

「うむ」


少し沈黙が流れる。


「あの・・・婚約の件なのですが」

「もうよい。面倒だ。ドラブフォルトにはわたくしが受けたとでも適当にうまく言っておけ」

「私はそういった投げやりな選択はラクナマリア様の為にはならないと思います」

「他の男はもっと面倒だろう。合理的に考えてマシな選択をしただけだ。これ以上ガタガタいうならわたくしは・・・」

「お待ちください。確かに私はまだ未熟で納得して頂けなくても当然でした。ラクナマリア様に選択を後悔させないよう立派な男になると誓います」

「それでよい。後は勝手にするがよい。いつの間にか子供が出来ていてもちゃんと世話はしてやる」

「正式に結婚に同意していただけるまでそういった事はしません」

「そういう事をいうと”マー”が面白がって悪戯するぞ。もう一人の私も・・・わたくしはもう疲れた。あとは知らぬ」


すっとラクナマリアが切り替わる。


「なんだか、本当に元気がないみたいだから私も」


夜のラクナマリアも悪ふざけをせず、そのまま退室していき二階から音楽が流れてきた。

少々意外だったが、もともと世の中に執着心が薄かったのだしこんなものだろうと自分を納得させた。


乗馬していた時の雰囲気なら合理的に考えてまあ仕方あるまいとかよかろうとか言ってくれるかもしれないと思ったのだが、こんな風に受け入れられるのはあまり嬉しくなかった。


「これで誰にも取られる心配はしないですむし、これでいいんだよな]


そうひとりごちて自分を納得させたが、寂しいものだった。


 ◇◆◇


 ドラブフォルトに報告しにいくとそうかよくやったと褒められた。


「父上、婚約発表のパーティなどを開催するのですか?」

「いや、噂を流しておくだけだ。クズネツォフから彼女の調子が悪いとも聞いているし」

「そうでしたか。実際お元気がないようでした」

「彼女に認められたければいつまでも遠慮し過ぎるな。そんな調子じゃこの先もそのままだぞ。・・・そうだな。彼女から一万エイク借りて十倍に増やせ」

「なんですか、それは」

「ガドエレ家やアルビッツィ家ではそうやって息子達に商会を経営させて一定額稼がないと継承権を与えないらしい。最前線の兵士の余った貯金を元手に保険業を始めた奴もいる」

「私にもそれをやれ、と?」

「国家を経営する練習のようなものだ。大した額じゃない、やってみるように」

「はい」


十倍に増やす事より彼女にお金をせびらなければならない事の方が気が重かった。


「アスコットから報告書を受けとったが西海岸の様子は酷いものらしいな」

「はい。父上も是非足を運んでください」

「ああ、すぐ予定を組みたいところだが私は帝国議会に召喚されていて、しばらく忙しい。来年になるかもしれない」

「帝国議会に?」

「ああ、蛮族戦線に援軍を送らない理由について申し開きをせよ、と」

「人口がまだ回復途上だと説明されていたのでは?」

「しかし奴隷狩りをしているからな。暗にそれを使えといわれている」

「父上、それは・・・」


使えるとなったら奴隷狩りがさらに激しくなる。

帝国政府は奴隷制を禁止しているのに従属国にはやらせることになる。


「いくらか議員を買収して矛盾点をつく」

「いささか富が集中しているように思います。富裕層への増税を図ってもよいのではありませんか」


これ以上ラクナマリアの資産を毟り取るな、とは直接言えず財源を他に求めた。


「西方商工会なども帝国の銀行から借金をしてリスクをとって拡大してきた。なかなか増税には踏み切れん。こういう用途の金は裏金を使うしかない、今は呑み込め」

「はい」


親子そろってヒモというのは何とも情けない。


「ルクス・ヴェーネの資産は我が国の保護下にある。正当な報酬だ」

「私もそのルクス・ヴェーネを一度訪れたいのですが」


ブラッドワルディンに発見された伝説の国。

地図にも載っていない隠れ里。

本当に存在するのかもわからない。


「場所が漏れれば盗賊に襲われる。彼女も望んでいない」

「でも、私くらい構わないでしょう?」

「護衛は?従者は?彼女は里の者達をそっとしておいて欲しいと私に望んだのだ。お前が行く事に同意しないだろう」

「彼女が同意すれば構いませんか?」

「どうしても、というなら特殊部隊をつけるが本当に好奇心で踏み荒らす気なのか?」

「失礼しました。でもいつかは確認してみないと気が済みません」

「お前が王になるころには必然的に出向くことになる。お前に王位を譲る前に私が死んだらクズネツォフに相談するように」

「わかりました」


現時点では断念したが一応念のため、ラクナマリアの意思を確認しに行ったら「ならぬ」とのことだった。


今日はここまで

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