表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/57

第4話 天女の正体を求めて③

 クラウス達は誰もいない庭園を通り過ぎて、城館の内部に入った。


「無体な真似をするな」


大広間の二階、階段の上にラクナマリアはいた。


「そこの者だけこちらへ」


蹴られていたアフドだけ呼んで、頭を撫でて菓子を与えてやった。


「何故この子に辛く当たる」


ラクナマリアはクラウスに厳しい視線を向けた。


「こいつは奴隷だからいいんだ」

「よくはない。二度と子供を蹴ってはならぬ」

「それは僕が決める事だ」

「お前は私に詫びに来たと言った。立場の弱い者に暴力を振るわぬと誓い、それを詫びとせよ」

「む」

「何も詫びの品を持参していないのであろう。他の者達は持ってきた物を置いていけ。それで前回の事を許す」


ははあ、と従者達はひれ伏した。

勝手に話を進められたクラウスは不満顔である。


「お前はそもそも詫びの心など持っておらぬ。己の好奇心を満たす為に来たのであろう。それがわからぬと思ったか」

「な、生意気な。お前は旧王朝の人間だろう。現代では不要の存在だ。僕の代になったらすぐに追い出してやるからな」

「好きにせよ。詫びる気がないのであれば失せるがいい」


ラクナマリアは手をかざし、またクラウスを吹き飛ばそうとする。

その前にアフドが立ちはだかった。


「のけ」

「い、いえ。どけません」


申し訳なさそうにアフドは両手を広げて主人を庇った。

ラクナマリアは困惑して手を下す。


「馬鹿者、お前が壁になっても吹き飛ばされてこちらが怪我をするだけだ。どいていろ」


クラウスはアフドの肩を掴んで横にどかした。


「無理やり人の家に押し入ってきて呆れた者達だ。もうよい、適当に座れ。何か用があるのなら申せ」


 ◇◆◇


 仕切り直し、ラクナマリアは茶と菓子の用意をしてやった。


「貴女は一体何なのです?」

「漠然とした疑問だな」


曖昧な質問にラクナマリアは答えなかった。


「ここに侍女はいないのですか?」

「おらぬ」

「いったいどうやって暮らしているのですか?」


貴人として身だしなみも整っているし、屋内も清潔で使用人がいないとは思えない。


「何をいっているのかわからぬ」

「食事とかはどうやって・・・」

「こうして用意しているではないか」


神秘的な女性だが、確かに今、普通に用意していた。

水道も整備されていて、魔道具もあれば火を起こすのも風呂を沸かすのも掃除もある程度は自動で出来る。魔術に長けた貴族の女性ならやってやれないことはないが、裕福な貴人が自ら家事をするという発想は普通出てこなかった。

それに魔道具は高価な魔石を大量に必要とする。


「庭園の整備で庭師などは・・・」

「おらぬ」

「随分美しい庭園ですが、一人でどうにかなるものですか?」

「暇ならいくらでもあるゆえ」


少し離れた席の従者達が茶を飲み終わったのを見て、席を立ちまた淹れてやろうとする。


「も、勿体ないです。自分達でやりますから」

「ここは私の家でそなたらは客だ。勝手に家の物を使われては困る」


そういわれると大人しく座っているしかなかったが、古王朝の血筋で神に最も近い血族の姫君かもしれない人に手ずから世話をされると落ち着かなかった。


「こんなところでお一人で暮らすなんて寂しくはないのですか」

「時折こうして訪問者は来る」

「正門の人形は襲って来たりするのでしょうか」

「無理に通ろうとすれば容赦せぬ。開かぬ時は帰りるがよい」


ラクナマリアは従者達の疑問にも答えてやった。


「いつから何のためにここへ?」

「ドラブフォルトに乞われてここに滞在しておる。理由は彼に聞け」

「父に対してそのような・・・」

「それも彼との契約だ。余人には話さぬ。後を継ぐ時にでも聞くがいい」

「ご結婚なさったり、どこか他所へ行く事はないのですか?」

「ない」

「ずっと閉じ込められたままでよろしいのですか?」

「別に閉じ込められているわけではない」

「しかし、ずっとここにいらっしゃるのでしょう?」

「たまに本を借りに後宮の図書室に行く事もある」


女官達の教育、娯楽用に小規模ながら図書室もあった。


「そ、そうですか?」


こんな美女が後宮をうろついていたらもっと大きな噂になっていそうだが、自分の眼で彼女を確認したという人物にはこれまで遭遇しなかった。


「さて、坊や達。夕食も食べていくなら準備しましょう」


ラクナマリアが立ち上がって外を見るといつも間にか日が暮れかけていた。

気が付くといつの間にか室内の明かりも勝手に灯っている。


「うわ、不味いですよ。殿下」」


後宮は男子禁制ではないが、夜間は七歳より上の男子には許可が下りない。


「何か不味いのですか?」

「ぼ、僕らは。殿下もこんな遅くまでいちゃ駄目なんです。いつの間に・・・」

「そう?私が口を利いて上げても駄目かしら」

「陛下でないと・・・」

「そう、今度会ったら叱らないように伝えておきましょう。外まで送ります」


クラウスや従者達を伴って霧に包まれた庭園を先導し、ラクナマリアは外まで導いた。

ホーリードール宮の正門の外かと思った場所は後宮の出入り口だった。


ラクナマリアは誰にも見つからぬようにと外まで運んでやったが、退出時間の記帳が無かったので結局クラウス達は怒られた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブックマーク、ご感想頂けると幸いです

小説家になろうに「いいね」機能が実装されました。
感想書いたりするのはちょっと億劫だな~という方もなんらかのリアクション取っていただけると作者の励みになりますのでよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ