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第39話 フォロー

「うぇ、お兄様」


ドナはラクナマリアの所に侍女をやり面会の調整を頼んだのだが、戻ってきたのは兄だった。


「僕が来なかったら父上のいいつけを破るつもりだったのかい?」

「それはその・・・ご迷惑をおかけしたラクナマリア様を助ける為に・・・」

「話してごらん」


カランの了解をとって先ほどの会話を話す。


「お前達・・・余計な事はするな。彼女は話以上の難物だ」


ドナの兄、ジェレミーは先ほどまで父と共にラクナマリアに謝罪に出向いていた。

何度も面会を拒否され、メアリーやドラブフォルトに仲介を頼んでようやくメアリー立ち合いの元、許可を取り付けたのだが。


「父に対しても『そうか』『もう良い』『下がれ』で会話は終わった」

「さすがですね」

「さすがヴァンダービルト王。三度も口を開いて貰えたたんですね」


『失せろ』としか言わないというカランの評は正しかった。


「お兄様は何かいわれましたか?」

「無表情に頷かれただけだった」

「あら、お珍しい」


ドナの兄ジェレミー・ヴァンダービルトは蒼面獣といわれるほど特異な顔立ちをしている。

鉱物神由来なのか青白い肌をしている西方人は多いが、ジェレミーの顔はかなり青い上に毛深い。

王子とはいえ獣人のようだと陰口を叩かれる事もある。


「初対面の人間なら誰でも何らかの反応は示すんだけどな」

「分け隔ての無い方で言動を危ぶまれているのでエスペラス王に隠されてきたそうです」

「ふうん、ちょっと興味はあるけどとにかく今はこれ以上父上に心労をかけないでくれ」

「でも仲を取り持てば、きっとお父様も喜んでくださると思うんです」

「他国の内情に首を突っ込むな、誰かに言われても意固地になるだけだ」


カランが同意するように頭を下げる。


「メテオラ殿も」

「はあい」


やれやれ、と言いながらジェレミーは出ていった。


 ◇◆◇


「納得されたんじゃなかったんですか!?」


ジェレミーが出ていくとすぐにドナとメテオラはラクナマリアの元へ向かった。

理解できない行動にカランは慌てる。


「いやね。あのくらいで諦めるわけないじゃない」

「なんでそこまで・・・」

「恋のさや当て次第で私達の人生が変わるのよ」

「運命の分かれ目なのに兄の一言くらいで諦められますかっての」


貴族の習慣にそって面倒な手続きで許可を取らずに直接訪問すると、本人は断らない性格なので二人ともすぐにラクナマリアは応じてくれた。


 ◇◆◇


「ねえ、ラクナマリア様は本当にクラウス殿下がお嫌いなんですの?」

「あれはもう駄目だ。少々油断しすぎたな」

「何かありましたの?」

「気が付いたら押し倒されて唇を重ねられていた」

「ま!」

「大胆ですわね。意外とおませさんでしたか」

「うむ」


カランやホスタは内心汗をダラダラとかいていた。

姫君に変な噂が立ったら社交界で大ダメージに繋がる。

ラクナマリアが正直に何もかも喋るとは思っていなかった。

普通恥じらうなりなんなりするだろうに、いつも通りの口調でするすると喋った。


「でもラクナマリア様がそんなに近づかれるまで許すなんて、普段は大分気を許していらしたんですね。うちの兄は口もきいて貰えなかったと伺いました」

「性分なのだ。それでも良いというものだけが話しかければよい」


腹心の侍女のホスタでも構って貰えない事が多いので初対面の他人などそんなものだ。


「でも年頃の少年なんてそんなものですよ。拒絶されたのが哀しいのか後悔したのか海に向かって叫んでたそうですよ」

「知った事ではない」


無感情に答えた。


「きっと早まった事をしたと後悔してますよ。年上の余裕で許して差し上げてもいいのでは?直前までは気を許していらしたんでしょう?」

「うむ、気を許していたようだ。だったら後悔などしなければよいのだ。無礼ではないか」


ドナとメテオラにはこの会話はちょっと分からなかった。

ホスタとカランには今のラクナマリアは夜の人格が許した事なら後悔などするな、と怒っているのだと察した。


「ら、ラクナマリア様」


カランが口を出す。

求められてもいないのに姫君達の会話に口を挟むのは論外だが、ここで、他国の人間の前で話がこじれては困る。


「殿下は先ほどこう申しておりました。『だが、俺は後悔しないぞ!彼女と想いが通じ合ったっていう確信がある。これで後悔するわけにはいかない』と。ですので後悔はされておりません。ちょっと今自信を喪失してしまっているのです。ラクナマリア様も今は気が動転していらっしゃるのだと思います。ラクナマリア様が約束を大切にされる方だというのは重々承知です。だからこそ、冷静になるまで極端な対応に出ず、これまで培ってきた日々の思い出をかなぐり捨てたりなさらないでください」

「フン、誰との思い出やら」

「もちろん全てのラクナマリア様との思い出です。昼も夜も晴れた日も雨の日も、優しく姉のように接してくださった時も、気の迷いが生じて理不尽な八つ当たりをしてしまった時も、例え表面が少し変わってみえたとしてもどのラクナマリア様にも根底に流れている気高くて優しくて強い部分は同じです。全てのラクナマリア様を愛し、支え、包み込み、納得して頂けるまで結婚を無理に進めたりはしないと申しております。ご不安かと思いますが、殿下はきっとそれを解消なさると思います」


あら、素敵とドナとメテオラは感激していた。

歳の差なんて数年で気にならなくなりますよ、とか的外れなフォローもしている。

カランとしてはラクナマリアに複数の人格があるというややこしい事情を二人の前で言えずにこういう風に話さざるを得なかっただけなのだが。


「フン、そなたに口説かれているようではないか」

「殿下にもう一度その機会を与えて下さい」

「あのような子供は相手にならぬ」

「では子供相手に極端に態度を変えなくてもよろしいでしょう」

「だが尊重するとか言っておいて押し倒したではないか」

「じ、事情がおありだったかと。是非話し合いの機会を」


食い下がるカランにラクナマリアはぐぬぬと苛立ちが高まっていく。

なんでこんな問答を続けているのか。

我慢する必要などあるか?

ここが宮殿なら・・・。

他国の人間がいなければ・・・。

何故こんなものに縛られているのだろう。

フラストレーションが高まり、行き場のない魔力が暴走し始めていく。


そこへ冷水を浴びせかけるような声がかかった。


”ラクナマリア”


「あ、先生」


いつの間にか姿を消していたマナールが宮廷魔術師クズネツォフを連れて来ていた。


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