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第38話 従者達

 弱小勢力の西方候が帝国の支配から脱却できるほど強力な力を持てば彼女の望みは叶う。

だが、その時彼女の愛を得るに値する人間ではなくなっているだろう。


パーティの席上でクラウスは強張った笑顔を貼り付けたままずっと思い悩んでいた。


「約束ですよ、踊ってくださいまし」

「あ、はい」


ドナに誘われて最初のダンスの相手となる。

ぼんやりしていたのでメテオラが先に約束したのに!と怒り平謝りして二曲続けて踊った。


「そんな風に心ここにあらずのまま相手をされては私だって傷つきます」


二曲目の途中でメテオラが泣きながら離れていき、ドナに慰められていた。


「最悪だ、もう。帰ろう」


皆がお祝いムードの中、これではいけないと宿舎に戻ろうとしたが、怒り狂っているラクナマリアがいるので港に行って船を眺めた。


 ◇◆◇


「殿下、どうしたんです?さっきまで気を取り直していたのに」

「んー、まあ気にするな」


従者達にもしばらくそっとしておいて欲しかった。仕事柄、彼らは離れるわけにはいかない。やっぱ王制ってクソだよな、とひとりごちる。


「ああああああ!クソが!」


思わず叫んだ。


「どうしたんですか、殿下」


皆が心配して駆け寄ってくる。

通りすがりの港のおじさんは彼らを暖かい目で見ていた。


「なんでもないったら」


そんなわけないでしょう、とアフドやカランは心配する。


「ほっとけって。こういう時はうざいんだよ、お前ら」


レドヴィルは二人にこっちに来いと促した。


レドヴィル、カラン、アフド、マナールの従者四人は車座になって話し合う。


「だいたいさっき陛下と話してたのが原因だろ?」

「そうだろうね」

「大方ラクナマリア様をもっと利用して金をせびれとかいわれたんだよ」

「そうかなあ」

「別に殿下使わなくてもぽんぽん出しちゃいそうな気がする」

「だなあ」

「じゃあ、細かい理由は何でもいいけどとにかくもっと毟ってこいっていわれたんだよ」

「方向性は間違ってないと思う」

「だろ?順調な人生送ってる殿下が他に悩む事なんてあるか?」

「で?」


何が言いたいのか、とカランが問う。


「どうせそうするしかないから考えるだけ時間の無駄なんだよ。お前らだって相談されても何も答えられないだろ?」

「お前、身も蓋も無いな」

「もし俺達が大金持ってたって陛下の態度は変わらないよ。殿下にはさっさと大人になって貰うとして俺達がやらなきゃいけない事はなんだ?」

「なに?」

「いいから考えてみろ」


こいつ、実は何も考えてないかと思いつつカランはどうすべきか考えてみる。


「んー、ドナ様とメテオラ様にフォローしにいく、とか?」

「そう、それ!」


我が意を得たり、とレドヴィルが頷いた。


「じゃあ何て言う?」

「あー、そうだな。おい、マナール。起きてんのか?たまには何か意見を言え」


マナールはいつも眠そうな顔をしている。

ちょくちょく寝坊もして学校の遅刻もする。


「じゃー、半分は落ちたんだし二人は悲恋の真っ最中で思い悩んでるとかにしといたら?」

「いいね!」

「二人は愛し合ってるけど、引き離されそうになってて陛下に難しい課題を出された、とか」

「誰が見たって釣り合わないし逆の設定の方がいいんじゃないか?」

「逆?嫌ってるって?夜のラクナマリア様が出てきたらすぐバレるよ」

「じゃあ、二人は歳の差にも関わらず愛し合ってて、無理やりくっつけられそうになってる。でも殿下は自分に自信が無いからうじうじしてる。ラクナマリア様は歳を気にしてる。で、ほんとは好きなのにプライドが高いから二人とも自分の愛が認められないし、その状態で無理やりくっつけられるのが嫌」

「ややこしくない?」

「だいたい事実だろ?海に向かって『クソが!』とか叫んでんだぞ?恋人に人格が二つあって両方口説かなきゃいけないんだぞ?これ以上ややこしい騒動起こされるより、事実に近い事伝えてフォローした方がいいんだよ」

「確かに、何かボロが出ても修正しやすいかも」

「じゃあ、それで行こう」

「じゃ、カランが行ってきてくれ」

「僕が?」

「俺はこんなんだし、無難だろ?」

「仕方ないな、マナールも来てくれ」

「ほい」


かくしてカランは主人の非礼を詫びる為、ドナとメテオラの所に行った。


 ◇◆◇


「本日はクラウス殿下が無礼をしてしまって申し訳ありませんでした」


ドナはパーティに出席した後、父王から謹慎を食らって自室におり、メテオラも退屈しのぎに付き合っていた。


「ええ、何かありましたの?」

「実はですね。殿下とラクナマリア様は愛し合っているのです。でも訳あってあまり人前でそれを露わにできなくて」

「求婚の話は冗談かと思っていました」

「お二人が釣り合うとは思えませんけれど」

「そう!そこなのです!」


カランが我が意を得たり、と説明した。


「二人ともお互いが気になっているのに、釣り合うと考えてないから拗れてるんです。そこで、さらに・・・あ、これは内緒ですよ?」

「ええ、ええ勿論!」


姫君達は噂話に飢えていた。


「実は陛下はお二人に結婚を命じられているんです」

「まあ!」

「本当に愛し合ってるなら好都合じゃない」

「そこが面倒な、あ、御免なさい。厄介なお二人で・・・」


打ち合わせた設定を話していく。


「ラクナマリア様はもう会いたくないとか言ってるし、クラウス殿下はさっきなんか海に向かって叫んでたんですよ。僕らもどうしたらいいか困ってて」

「お可哀そう。でもラクナマリア様は本当に殿下の事が気になってらっしゃるのかしら」

「たぶん。ラクナマリア様は殿下以外の男性には『失せろ』としか言いませんけど殿下とは道中は一緒に乗馬を楽しんでましたし」

「あら、そうなの?」

「はい、ガドエレ家ってところの皇子様にも失せろと言ってました。普通の男性じゃ会話も出来ませんよ。まともに口を利く男性は殿下だけです」


後宮に匿われていて男性に会う機会自体がほぼ皆無ではあるが嘘はついていない。


「このまま意地を張って何年も会わなかったら二人とも後悔すると思うんです」

「そうねえ」

「じゃあ、私達からちょっと話してみますわ」

「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには」

「いいのよ。うまくいかなかったらそれはそれで私達にもチャンスが出来るわけだし」


無礼のフォローのつもりで来たら逆にフォローされることになった。


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