第37話 親子の会話
「ところでラクナマリアを口説き落す事に成功したそうだな。正直驚いたぞ」
少し休むだけのつもりだったが、せっかくなのでドラブフォルトは会話を続けた。
「え、何故ご存じなのですか」
「お前の従者の給料を払っているのは私だぞ」
全部筒抜けだった。
「恨むなよ」
「ええ、父上には逆らえないでしょうから」
「しかし半分は口説くのに失敗して嫌われたそうだな」
「まあ、はい」
「半分は成功したんだ。褒美に期限は一年伸ばしてやろう」
「はぁ、有難うございます」
「嬉しくなさそうだな?」
「だって父上も期限伸ばさないと不味いと思ったんでしょう?」
嫌われていない状態だったら無理に婚約させても必要な事だと納得して貰えたと考えていた。
「本気で怒ると何もかもかなぐりすてて出ていくかもしれないからな」
「それだと困るんですね」
「ああ」
「そろそろ具体的に父上達が交わした契約内容を教えてくれてもいいんじゃないですか?」
「ふむ・・・」
ドラブフォルトは思案する。
「そうだな。私は彼女の代わりにこの地に住む人々を解放し平等をもたらす。このリブテインのように平等に機会を与える。王も貴族も無い社会を作り、闘技場や実験施設で酷使される獣人をも解放する。私はこの地の主、西方の大君主として君主の権力を撤廃するまで彼女の全てを貰い受ける」
「財産やマッサリア、ルクス・ヴェーネ、リブテインの支持も行動の自由、つまりホーリー・ドール宮から極力出歩かない事を含む全て、ですね」
「そうだ。西方商工会、諸国の支持を得てリブテイン復興に先鞭をつけて利権も確保できた。元より強国だったが、西方商工会との協力関係のおかげで我が国は西方圏最大の勢力となった」
「しかし、あいまいな契約です。彼女は奴隷の存在さえ知りませんでした」
「箱入り娘だからな」
「いくらでも解釈可能な契約で彼女から全てを奪うなんて・・・」
「酷いと思うか?彼女が世間知らずなのはこちらの問題ではない」
後宮の奥深くに閉じ込められている以上、ずっと世間知らずなままだっただろう。
「でも父上は最近は侍女をつけたり、私に会わせたりして、少しずつ表に出していく方針のようです」
「大分、資金も使い込んでしまったし、利用する用途が変わってきたということだ」
クラウスとの間に血筋を残させて乗っ取ると言う事だろう。
「父上の事を暗殺したくなりました」
「それが出来るようになった時、お前は私より強力で冷酷な西方候として彼女の望みを叶えるに違いない」




