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第36話 復興祈念式典

「え?夜のラクナマリア様への求婚に成功した?」

「で、昼のラクナマリア様に思いっきり嫌われた?」

「順番逆じゃない?」


これまで交流のあった大部分は昼間の方の人格で、なんだかんだいって親しかった。

何を考えているのかよくわからない方が攻略は難しい筈だった。


「最難関の攻略に成功して、昼のラクナマリア様に出入り禁止食らうなんて馬鹿みたい」

「しかも一足飛びに結婚の許可って・・・ひとまず婚約して時間稼ぎするって話じゃなかった?」

「重傷でろくに動けない人を押し倒すとか・・・」

「他の人が聞いたら王子の立場を生かして無理やり襲ったとしか思えないですよ」


違う、違うんだと弁解したかったが客観的にはどう考えてもそうだった。

今回は心を操られていた気がしなかったし、行動は全部自分の意思だった自信がある。

彼女も受け入れてくれていたし、邪魔が入らなければ最後までいっていたかもしれない。


「だが、俺は後悔しないぞ!」


おお、と従者達が見上げる。

クラウスは立ち上がり拳を固く握りしめた。


「彼女と想いが通じ合ったっていう確信がある。これで後悔するわけにはいかない」

「でももう二度と会えませんよ」

「そこは、ほら。お前達がとりなしてくれ」


部屋にもホーリードール宮にも出入り禁止でこの式典でも顔を合わせたくないといっていた。


「ラクナマリア様に嫌われたくないからパス」

「ボクも」

「今はちょっと」


味方はいなかった。


「まあ時間置くしかないですよ。ひとまずは」

「焦る気持ちはわかりますけど数か月は待たないと駄目じゃないですかね」

「そう思うか?」

「ええ。真面目に仕事に専念した方がいいと思います」


クラウスも納得し、ひとまず侍女に仕立て屋を探して貰って母と協力してラクナマリアの首筋を隠すドレスを調整して貰う。

街中で亡者の噂を打ち消し、実際それから二日間まったく現れなかったと人心を安定させた。船でやってくる来賓も増え、お祭りの雰囲気が高まっていく。



 ◇◆◇


 式典は旧リブテイン王国の王宮前広場で行われた。

激しく砲弾が飛び交い、引きずり出された王族が処刑された場所も今は新しい石畳が張られ、大きな噴水が作られ、各国から寄せられた慰霊碑が建てられていた。

王宮も再建され、今は総督が勤務する行政府に作り変えられた。


黙祷の後、エスペラス王であり西方の大君主、そして西方選帝侯ドラブフォルトから住民、賓客たちに再出発を誓う宣言が為された。


「戦後五十年が経ち、多くの犠牲者に、愚かな歴史に、憎しみに、怒りに、哀しみに囚われ、打ちひしがれる時代は昨日で終わった。有志による遺体の捜索、発掘作業は続けられるが、全ての亡者が倒され聖騎士は故郷へと帰り、彷徨う亡霊達も先日の雷雨で天に召された。惨劇の場は今日から未来への希望の場と変わる。我、エスペラス王たるドラブフォルトはリブテイン人から委任されたこの地を人々に返す。西方商工会が私に代わってこの地を管理し、貴族も平民も変わりなく誰もが投資し、土地を購入し、住む事が許される。機会は平等に与えられる。この権利を脅かす者はエスペラス王国が相手となる。復興までの五十年間、資金を投じてくれていたルクス・ヴェーネ聖王国に改めて感謝したい。今後の開発については諸外国からの投資も受け付ける」


戦前は帝国を除き最も発展していた都市が一度空っぽになり、再建のインフラが整い始め、再整備がある程度進んだ状態で開放された。中央大陸西海岸、北方圏南岸、南方圏、内海東西貿易の要衝として発展していく事が期待されている。


「これまでは犠牲者の眠りを妨げないようお祭り騒ぎは禁止していたが、今日からは違う。皆で祝おう!我々の、西方人類の再出発を!!」


歓声が湧き、それをさらに煽るように楽団が演奏を始める。

市中各所で露店が営業を開始し、あちこちで商談が解禁された。


 ◇◆◇


「お疲れ様でした、父上」

「ああ、ようやく肩の荷が下りた」


すぐに大宴会が始まるのでドラブフォルトもクラウスも出席しなければならないのだが、ほんの少しだけ休憩時間を取って宿舎に戻った。


「第二次市民戦争はお前達にとっては遠い昔の事だろうが、話しておこう。お前もいつか自分の子に話すがいい」

「はい」

「私の義父ブラッドワルディンは王座につく事を拒否して長く一介の学者に留まっていた。封鎖されたリブテインから脱出した人々の話が伝わり、親子で喰らい合う地獄絵図が報じられてようやく重い腰をあげた。それでも救援に行けるまで長い時間が必要だった」

「そして間に合わなかった」

「そうだ。一国丸ごと餓死に追い込むなど馬鹿げている。海も陸も帝国が封鎖し、水源も汚し、水道も破壊された。現場の帝国軍兵士も苦しんで発狂した者もいると聞いたが、命令を出すのは遠い海の向こうの帝国議会の年寄りだ。感性も想像力も耄碌した連中には人々の苦しみは伝わらなかった」


帝国政府の発表では大量の餓死者は飢饉の為、とされた。

隣の国のエスペラス人は帝国軍が田畑を焼いて、水源を汚染していた事を覚えている。

僅かな生存者、脱出者も自分達だけが助かった罪悪感から多くを語らなかった。


「ここを復興させる事は義父からの宿題だった。本当に肩の荷が下りたよ」

「はい、お疲れさまでした。ここを発展させ、守る使命は私が引き継ぎます」

「うむ。立派になってきたな」


実子のいないドラブフォルトだが、長年見守ってきて少しだけ親の自覚が出来て嬉しく、頼もしく思った。


「先代はどのような方でしたか?」

「恐ろしい方だったよ。自分の権力基盤の王権派も粛清した。西方商工会と手を組み、遠い東方大陸にまで陰謀の根を張り巡らせていた」

「陰謀ですか?」

「ああ、私は留学時に交流があったにも関わらずフランデアン王を妖精王を見誤っていたが、義父は一度も会った事が無いのに西方商工会が進めた工作の失敗にいち早く気付いた」

「スパーニアの件ですか」

「そうだ。東方の混乱の収束を悟り、義父はマッサリアに対して無理に援軍を送って戦死した。七十七歳の老王の戦死とエスペラス兵の犠牲によってマッサリアは救われて我が国の保護下に入った。義父は高齢の自分の体の価値を最大限に利用して使い捨てた」


クラウスは父の話を呑み込もうと、理解しようとした。


「では、東方の混乱と蛮族の襲撃は意図的に時期を合わせたものだったんですか?」

「そうだな。義父は手持ちのカードと自分の寿命から時期を合わせる事を思いついたんだろう」

「では、南方候の反乱まで?」

「あれは偶然だろうな。種は撒いていたと思うが連鎖的な反応だろう。結局、皆機会があれば帝国の支配から脱したかったのだ」

「父上も?」

「当然だ。皆、帝国に追いつき、追い越せ、打ち倒せと言っているだろう?」

「あれが技術力とか経済力の話かと」

「普段からそういっておけば本心は隠せるからな。だが、勘違いするなよ。勝算が無ければ戦わない。帝国が強大な存在である限り、仲良く付き合う。必要ならおべっかも使う。娘も差し出す。我々の肩には西方人全ての命がかかっている」

「父上は今も計画を練っておられるのですか?」

「当然だ。空想だけだがな、いくら帝国でも空想の中だけでなら反逆罪で私を逮捕はしない」


クラウスが父の後を継ぐならその計画も引き継ぐ事になる。


「もし私が老いて無謀な計画に固執していたら、お前はどうする?」

「父上を逮捕して帝国に突き出します」

「よろしい」


父は子の回答に満足した。


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