第33話 鎮魂の儀式②
「ラクナマリア様!」
壁に打ち付けられ朦朧としていたホスタが我に返った時、ラクナマリアの首に亡者が噛みついていた。
「問題ない」
ラクナマリアはあやす様に亡者の肩を叩いた。
「よしよし」
亡者はごくごくと血を飲む。
「こいつ!」
ホスタは花瓶を手に取って頭に叩きつけようとする。
「わたくしは問題ないといった」
ラクナマリアの冷静な声に動きが止まる。
「さあ、喉が潤ったのならもうおやすみ。家族の所に行かなくてはね」
亡者は満足して眠りにつき、その場に倒れた。
「予定より早くなったけれど、始めましょうか。ホスタは扉を固く閉じて待つように。私が呼びかけても開けては駄目」
「え、でも」
「ああ、死体と一緒じゃ嫌よね。メアリーと待ってなさい」
「そういう意味ではなくラクナマリア様はお怪我をなさっているではありませんか」
「このくらい大丈夫」
「でも凄い出血です」
「そうね。じゃあ後で貴女の血を貰ってもいい?」
「え?はい、お役に立てるのなら」
「じゃあ、メアリーの所へ行って大人しくしていなさい」
ラクナマリアが廊下に出ると、クラウス達も慌ててやってきた。
「ラクナマリア様、そのお怪我は?亡者が?」
逆に問う。
「外に出るなといわれなかった?」
「でも、亡者が暴れているんです!」
「だからなに?」
「倒さないと。僕らは剣の扱い方を習ってますし民を守らないといけません。それよりお怪我が」
「亡者というのは倒すとかそういう存在ではありませんよ。言われた通り屋内にいなさい。これは私の仕事です。初めからね」
どこからか悲鳴が聞こえてくる。
問答をしている時間はない。
「ラクナマリア様にはどうにか出来るのかもしれませんが、酷く目立つのでは?」
「嵐で誤魔化せるでしょう。それぞれ役割があるのだから余計なことはしないように」
ラクナマリアはバルコニーから外に出て空へと舞いあがっていく。
クラウス達が追いかけられるのはそこまでだった。
嵐に合わせて精霊達が奏でているのだろうか。
どこからともなく激しい曲が響き渡る。
暴れる亡者達の注意を引くためかいつもと違ってラクナマリアの歌声も天に向かって絶叫するかのように声を引き絞っていた。亡者達はその声に切なさと天へ込められた呪いを感じとった。雷鳴が轟き、稲光で照らされた亡者達は暴れるのをやめて視線が空へと向く。
次第に亡者の魂を月へと導くようにラクナマリアの歌声も穏やかになっていった。