第32話 鎮魂の儀式
翌日クラウスは父に伴われて西方商工会の復興計画会議に参加したり、礼拝堂や地下墓地など各所を訪問した。
西方商工会に任せるといっても土地を貸すだけで帝国からみればエスペラス王国のままである。遊びに来たわけではないので彼らを監督する必要がある。
会議ではカジノ計画や労働者としてさらに奴隷狩り艦隊を送る事には反対し、南方圏の難民に苦慮している東方圏から引き取る事を提案した。
「ふむ、東方諸国との和解ともなりますし。良き案かと」
「留学時代の知人にちょうど難民流入で困っていた王子がいる。尋ねてみよう」
会議に参加していた他国の代表者も賛成してくれた。
後で父からもいい提案だったと褒めて貰えた。
宿舎に戻ってくるとラクナマリアは母と庭で談笑していた。
一日ゆっくりとお茶を飲んだり、持参した楽器でホスタと演奏していたらしい。
「聞いていると思うが今晩は出かけるなよ」
「はい」
「お前達もな。約束を破った者は二度と門を通さぬぞ」
ラクナマリアは従者達にも警告した。
「はーい」
「はい」
「ちょっとくらい覗いちゃ駄目?」
「駄目だ。わたくしとの約束を軽く考えるような者はおるまいな?」
レドヴィルもはい、と今度は神妙に頷いた。
◇◆◇
陽が落ちて夜になると布告された通り、鐘が鳴り誰もが死者を悼み安らかな旅立ちを祈る時間となった。門番も港の船員も皆、屋内に入る。
とはいえ人の話を聞かない者、本気で考えない者、好奇心の強い者もいた。
復興祈念式典にやってきたドナ・パー・ヴァンダービルト姫も好奇心が強かった。
敷地内にある封印された古井戸が気になっていたものの、近づいてはいけないと言われたので皆の目が無くなってからやってきた。
「駄目ですよ、姫様。危ないですよ。ほら、鎖が腐ってます」
五十年前に封印されて腐食した鎖が簡単に崩れ落ちて蓋が開いた。
井戸の底には死体があった。
誰かが水を求めて覗き込み転落して死亡した。
底に水は無く、這い上がる事も出来ず、水を求めて彷徨う亡霊は封印されて誰からも忘れ去られていた。
「だ、誰かいるんですの?閉じ込められていたのなら引っ張ってあげますからいらっしゃい」
覗き込んだドナと亡霊の目が合い、彼女はナニカに呼びかけてしまった。
同じように救われず地の底で蠢いていた者達が動き始めた。
近年、復興が始まり彼らは騒がしさに苛立っていた。
ドナは彼らにきっかけを与えてしまったのだ。
◇◆◇
鎮魂の儀式は夜遅くに、という話だったのでラクナマリアはまだ自室にいた。
「何か騒がしいですね」
「ふむ。誰か悪ふざけでもしているのだろうか」
「ちょっと見て来ましょうか」
どたどたと何かが走り回るような音がしてホスタがドアに手をかけた瞬間、勢いよく開きホスタは壁に打ち付けられ飛び込んで来たモノがラクナマリアの首筋に噛みついた。
柔らかな彼女の首は簡単に食いちぎられ派手に血飛沫が吹きあがった。
※ドナ・パー
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