第30話 夜のラクナマリア
「昔の私が寂しさに耐えかねて精霊に名前を付けた事から全てが始まったの」
容姿は同じだが、いつもより優し気な表情のラクナマリアが現れた。
頑なさは無くなり、瞳には慈愛の色を湛えている。
「昼間のわたくしは”マー”が教えた事しか知らない。今の私は全て覚えていますけどね」
「では全て教えて貰ってもいいですか?貴女がいつ、どこから来て、父上とどのような契約を交わしたのか」
「それは駄目」
「何故です?こうして姿を現して下さったのに」
「だって何かも教えて神秘的な所が無くなったら、私に魅力を感じなくなってしまうでしょう?」
ラクナマリアは悪戯っぽく微笑んだ。
「そんなことはありません!」
「どうかしら?ドラブフォルトのように冷徹に利用できるだけ利用してやろうと思うんじゃないかしら」
「そんなことは・・・」
「お父様のようになりたいのでしょう?後を継いで西方に君臨したいのでしょう?」
「君臨したいわけじゃありません。父上だって」
「じゃあ、どうして?」
質問したいのはこちらだったのにいつの間にか問われていた。
「支配者なんて割に合わない仕事ですよ。何をやるにしても全国民に監視されて文句言われて、民には自分で責任取って貰いたいです」
「ふうん?」
「ガドエレ家のロックウッドさんもいってました。五億の民の人生を背負って、簡単に扇動される愚か者達に憎しみの刃を突き立てられる役割なんて馬鹿がやる仕事だって。真の支配者は支配者であることを悟らせずに支配するのだって」
「貴方はそうなりたいの?」
「はい!利権握って商船団経営して王制なんてぶっこわしてからラクナマリア様抱えて贅沢三昧してやります!」
クラウスは喋りながらあれ?と自分の口が回り過ぎる事に危機感を覚えていた。
政治思想の事はラクナマリアも承知なので暴露してもいいのだが、大声で言う事では無かった。
「ついでに他のお姫様も抱えちゃう?」
「そりゃもう!男ですから!」
「でもこの国じゃ堂々と側室たくさん抱えられないんじゃない?」
「南方圏にでも移住して向こうの後宮に習ってやります!」
やばい、どうにか口止まって!と祈りながらなんだか無性に気分がよくなっていた。
「そうかそうか、それが本心なのね」
「はい!ラクナマリア様!結婚してください!」
そんな事を言いながら彼女に抱き着いた。反応を待ったが返事が無い。
抱きしめた彼女の背中に垂れる髪が白く染まっていた。
恐る恐る背中から肩に手を移動させて体を放して顔色を窺った。
「出ていけ」
昼のラクナマリアに戻っていた。




