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第28話 鎮魂旅行③

「口を開くときは急な揺れで噛まないよう注意してくださいね」

「う、うむ。高いな」

「普段は空高く舞ってらっしゃるのに」

「誰かに体を預けるのとは訳が違う」


クラウスは空を飛ぶような魔術は使えないので感覚の違いはわからない。

初めて馬に乗った時、ちょっと怖かった思い出はある。

メアリーが乗馬服を持ってきてはいたが、今日は借りて着替える場所もないのでラクナマリアは足を揃えて横に座り、クラウスの背中に抱き着いていた。


吐息が耳にかかってどきまぎとしてしまう。

重くなっていた空気から一転してクラウスは幸せを満喫していた。


「わたくしはわたくしの事など気にせぬ男の方が好みだ」

「それはきっと男性の好みじゃありませんよ」


契約を果たせる男かどうかしか考えてない。


「ふむ、そうかもしれん」


柔らかい生地のドレス越しに背中の筋肉が強張っているのを感じる。


「落ちないようにもっと手を回して掴んでください」

「まあ、よかろう」


乗馬の先生がいうならとラクナマリアは言われた通りにする。

ぴくぴくと背中の筋肉が震えて伝わってくる。

伸ばして手を並行にするか、十字にするかで迷って胸をそっと撫でた。

掴みやすいところで落ち着いて胸を押し付ける。

するとまたぴくぴくと震える。


「少し好みがわかった気がする」

「え?」

「不動の大木のように安定感のある男だ」

「うっ、申し訳ありません」

「腕を回しても両手がつかないくらい太い幹が良い」

「それは大きすぎませんか?」

「そうか?そこの騎士、近うよれ。試してみよう」


え?私ですか?と近くの護衛騎士が自分を指で指した。


「待って、待って。君。下がって!」


クラウスは必死に止めて、騎士を移動させた。


「ははは、そなたは可愛いなあ」

「酷いですよ。からかうなんて」

「わたくしを連れ出した以上、旅の間は楽しませるが良い」


完全に子供扱いだが、それでもクラウスは幸せだった。

宿についてから母に乗馬服は出さなくていいと言って、道中ずっと彼女を独り占めにした。


 ◇◆◇


「船か、少し興味があった」

「そうだったんですか」

「うむ。アフドよ。そなたの故郷はこの海の向こうにあるのだったな」

「はい、反対側ですが」


彼らは西方大陸東岸にいるのでアフドの故郷の島は逆方向である。

今見ている海は内海といわれ、中央大陸で東西に分割されているうちの西側の海、サブレス海である。内海は二つの海峡で外海と通じていて二つとも事実上帝国が所有していた。


「む、そうか」


ラクナマリアは少しバツが悪くなった。


「故郷に帰りたくはないか?」

「いえ、物心もついてませんでしたから」


特に愛着は無かった。もう言葉もわからない。


「もし島出身の同胞に助けを求められたら助けるか?」


カランがアフドに問うた。


「え?同胞だからっていっても、ボクには知らない人だよ」

「でも世間一般では普通の奴隷より酷い扱い受けてるだろう?自分の助けになるかもしれないぞ」

「そんなのよくわからないよ。殿下が立派な王様になってくれるのが一番の助けだと思う」


それもそうだな、などと従者達が話している。

友人の中のひとりだけ奴隷というのは何かとやりにくいのだろう。


「船についてですが」

「む?」


従者達の話は横に置いてクラウスが再度話しかける。


「もし良かったら今度遊覧船にでも乗りましょうか」

「どんなものだ?」


クラウスは特に目的もない観光船について話した。

今見える港の船は忙しく荷の詰め込みを行っていた。


「気楽なものなら良いが」

「大丈夫ですよ」

「大丈夫なんですか?殿下、護衛とか。そこらの遊覧船に乗れないから王室の船を出して貰わないといけませんよ」


ラクナマリアにお忍びは難しいだろうし、一般観光客に混じったりは出来ない。

馬に続いて船の先輩としてちょっといい所を見せたかったが良く考えたら自由に出来る船を持っていなかった。王室の船は娯楽用ではない。


「ふ、ふ、ふ。まあ良い。今回乗れるのだから。興味はあるが自分の自由にできない乗り物に長く乗るつもりもない。馬で十分だ」

「では今度遠乗りでも」

「よかろう」


次のデートの約束が出来た。


「あの、私も乗馬を教わっても構いませんか」


ホスタがおずおずと申し出た。


「そうだな。誰か教えてやってくれ」

「はいはーい」


レドヴィルが自分がと手を上げた。


 ◇◆◇


 予め先行していた者達が準備を進めていたので船にはスムーズに乗りこめた。


「二時間ほどで到着するようです」

「近いのだな」

「はい。だから年寄りは皆、後悔しているようです。すぐ近くなのに助けに行かなかったから」

「そうか」

「この辺りの海は帝国海軍が封鎖をした時に大型船を沈めた為、小型船しか航行できません。撤去は進んだのでそろそろ本格的な復興事業を始めるそうです」


撤去が進んだ結果、各国の船も往来できるようになり、今回大規模な式典を開催することになった。


「そなたは怖くないのか?」

「怖い?」

「この海には、行く先には多くの怨霊が彷徨っている。そこに家を建て、再び住む事に」

「怨霊なんて僕には見えませんから」

「見えたら?」

「土地も足りませんし、今生きてる民と将来の為にもちょっとどいてくださいとお願いします」

「そうか、もし現れたらそのように謙虚にお願いするがよい。決して目を合わせて要求してはならぬ。彼らから何も奪ってはならぬ」

「ラクナマリア様には本当に見えるんですね」

「ああ。彼らを認識してしまえばこの世界でそなたに干渉しやすくなる。あくまでも別世界の住人であってそなたが関わる必要は無い」


酷く距離を取られた気がした。


「ラクナマリア様だってこちらの世界の住人でしょう?」

「わたくしにはよくわからぬ。お前達のようにこの世界にも肉体にもあまり執着はない」

「ご自分を大事になさってください」

「よしよし」


頭を撫でられた。

ラクナマリアの瞳は遠くをみていて、クラウスを見ていなかった。


※内海のイメージ的には地中海で、彼らはスペイン東岸みたいな場所にいると思って頂ければ。

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