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第27話 鎮魂旅行②

 ラクナマリアの手料理をご馳走になった時、話し込んでいる内にアフドが酔って眠ってしまい、寝かせてやるようにと言われて断れずそのまま泊る事になってしまった。


翌日クラウスがドラブフォルトに確認を取ると確かに依頼しているという。


「後宮からお出かけされているとは知りませんでした」

「もともと外部から来たんだぞ、外にも出るさ」

「とはいえ珍しい事では?」

「ああ、実際知る限り一度も外出したことはない」

「あれ?でも定期的に出かけているんですよね」

「たぶん霊体の話だろう。冥福を祈ってやって欲しいとは頼んだ。どうやっているのかまでは知らなかったがね。彼女が出席してくれるなら少し式典の内容を見直す」


今年はかなり大きなイベントになるので、一人ねじ込むくらいは問題ない。


「お前の後輩や知り合いの子供らを連れて来てもいい。外国人が近づかないように常に周囲を固めて置くように」

「はい、私はどうしましょうか」

「お前は客人たちの挨拶周りだ」


鎮魂祭の会場はエスペラスの保護領内なのでこちらで仕切って客の応対をしなければならない。


「ところでラクナマリア様の事ですが」

「なんだ」

「時々、人が変わったように感じます。何か理由があるのでしょうか」

「なんだ、まだ教えて貰っていなかったのか。聞けば教えてくれるだろうに」

「不躾かと思って」

「彼女は周囲の霊体の影響を受けやすい。夜になるとそれが強くなる。そう聞いている」

「そんなことがあるんでしょうか。悪霊では無いんですか?」

「悪霊に取りつかれてるみたいな状態だったのか?」

「いえ・・・、普通にお優しい方でしたが」

「ならいいじゃないか。側には侍女もつけているしメアリーも把握している」


国王夫妻が把握しているならいいか、とクラウスもすぐに忘れた。


 ◇◆◇


「はあ、なんでわたくしが街の外まで行かなければならないのだ」


ぶつくさ言いながらラクナマリアは馬車に乗りこんだ。

自分では馬車は持っていないので、メアリーから借りる事になり、新車を購入した。

相場の1000倍くらいの値段を払った。

白く塗装され、聖王国の紋章と繊細な彫刻が掘られ、振動を可能な限り軽減すべく最新技術がふんだんに盛り込まれた西方商工会の自信作だ。


せっかくなのでメアリーもクラウスと共に同乗させて貰った。

ラクナマリアは反対側に座り、ホスタと腕を組んでいる。


「随分な出費ですが、よろしいんですか?」

「構わぬ。適当に理由をつけて王家に融通をしているのだ。相場は別にどうでもよい」

「御免なさいね。他国から大勢お客様も来るし、そろそろ西方の大君主として虚勢も張らないとって陛下がね」


ややこしいが、メアリーの馬車として納品されラクナマリアがレンタル費用として購入代金を払っている。紋章は今後必要に応じて付け替える。


「そなたも気苦労が絶えぬな。わたくしは別に会場で挨拶などはしなくてよいのだな?」

「ええ。いつも通りに霊を慰めて宿で待機して頂ければ」

「うむ」


乗りこんで走り出すとラクナマリアはそわそわし始めた。


「外が見えぬ」


はい、とホスタがカーテンを開けた。

透明なガラスの向こうに海が見えた。


「ほう、なかなかいい景色だ」

「昼には見晴らしいのいい所に着きますからそこでゆっくり御覧になれるかと思います」

「むう、では少し我慢しよう」


今すぐ、足を止めたかったらしい。


「ご褒美に手料理を頂いたのにデートまでして貰えるなんてね」


王妃がクラウスを冷やかす。


「なんでそんな気紛れをおこしたのやら」

「あら、気紛れだったの?」

「うむ。一人でさっといってさっと帰ってきた方が誰も無駄な時間と労力を使わずに済む。ごうりてきという奴ではないか?」

「あらまあ、貴方がそんな現代的な考え方をするなんて」

「よくカランという子が言っておる」

「カラン?」

「クラウスの従者でな、よく気が付く子だ」


王の許可もあって入り浸るようになり、自習していく事もある。

ラクナマリア様の事が気になって勉強に手がつかないならここでやればいいじゃないかとカランから提案があった。

礼法や古語の家庭教師の同意もあって厄介になっている。


「ご迷惑じゃないかしら」

「外堀を埋めるつもりらしいな。この子が将来どうするつもりなのか、興味はある」


女性に囲まれて居心地の悪いクラウスは嘆息する。

ホスタはあからさまに迷惑そうにしているし、メアリーは冷やかし、ラクナマリアは面白がっている。


「僕、ちょっと馬に乗って運動してきます」

「そうか。では代わりの話し相手を呼んでくるが良い。カランかレドヴィルか」

「え、いやいや彼らを同乗させるなんて無礼は出来ませんよ」

「本当の所有者が許してるんだから構わないでしょう。呼んでらっしゃい」


メアリーも口添えした。


「やっぱり昼休みまではいます」

「しょうのない子ねえ。ちょっとは勇気を出して口説いてみなさいよ」


やっぱり、という顔でメアリーはさらに冷やかした。


「あと、二、三年後にお会いしていたら踏み込めましたけど、今の半端な年齢では相手にして貰えませんし立場に物をいわせて嫌われたくありません」

「意気地なしね、ちょっと前は隣国の姫君達を口説いてたのに」

「ほう、そうなのか?」

「ち、違いますよ!ただのご挨拶です。当たり前の社交辞令です」

「今度の式典にいらっしゃるから姫君達にはそう言っておくわね。可哀そうに」

「母上!」


からかうメアリーに怒る。


「ラクナマリア様。もしここに僕以外の男性、誰か見知らぬ他の男が来たらどうされますか?」

「追い出す」

「じゃあ、見知らぬ子供がいたら?」

「あまり気分は良くないな」

「そうですか、式典の最中。僕らが側にいられない時は申し訳ないですがうちの後輩とかを側に置いて頂きたいんです」

「何故だ」

「護衛代わりです」


従者の誰かしらは残しておくつもりだが、十分な護衛は手配出来ない。


「私からもアルエラをつけるから。迷惑かもしれないけど」

「子供を盾にする気は無い。無用だ」

「貴女の盾でもあるけど、見知らぬ誰かの盾でもあるのよ。間違って虎の尾を踏んでも子供がいたら無茶はしないでしょう?」

「ぬう。わたくしをなんだと思っているのだ」


皇子だろうが騎士だろうが、侍女だろうが容赦なく殺しそう、とメアリーやクラウスは思った。わざと怒らせて来ようとしてくる報道関係とは絶対にウマが合わない。


「わたくしに交際を申し込みたいのならお前が責任持って常にエスコートしたらどうなのだ?」

「真面目に考えて頂けたんですか!?」


ちょっと意外だった。


「言葉の綾という奴だ」

「ですよね。でも少しは特別な相手になれたのでしょうか」

「わたくしは誰とも特別な関係になるつもりはない。ドラブフォルトがどうしてもというなら形式上の関係は考えてもいいが、それで特別な関係になるわけではない。いくら通おうと庭に来る小鳥や栗鼠と変わりはせぬ」


小動物に餌をやるのと同様にクラウス達にも料理を振舞っただけ。

大差はない。

クラウスも頻繁に通ったところで無駄だと思っているが、タイムリミットを切られてしまった。


「父がいったならとおっしゃいましたが、私ではなくそこらの男、窓の向こうに見える騎士とか兵士とかだったらどうでしょう?」

「奴が選んだのならそれなりの男だろう。別に変わりはせぬ」

「そうですか・・・」


大望と女性を天秤にかける気は無いが、さすがにちょっと苦しい気持ちになった。


「はぁ・・・そんな顔をするな。どうしても、というなら見知った顔の方がマシだ」

「そうですか!」

「うちに住みついている猫を虐める近所のボス猫よりはマシという程度だ」

「そうですか・・・」


ラクナマリアは段々面倒になってきた。

別に嫌っているわけではないのに勝手に一喜一憂している。


「私は今でも野良猫扱いなのに、殿下は特別扱いなのですね。羨ましいです」

「特別嫌いになるかもしれぬ。最近は特にうっとおしい」

「うっ・・・」

「馬車の旅は好かぬ。そろそろ外に出たい」

「通行妨害になってしまいますから休憩地点までお待ちください」


フン、とラクナマリアは不機嫌さを露わにしてきた。


「あと一日こんな調子なのか」

「では、私と乗馬しましょうか?」


クラウスはそう申し出た。


「乗馬?」

「一緒に乗って教えてもいいですし、大人しく慣れた馬もいますから轡を引いてもいいです」

「あら、いいわね。習ってみたら?」


メアリーも口添えした。旅程はかなり余裕がある。

最後に船で乗り換えて目的地につくまで数日あり、少し気分転換に、と乗馬を試してみることになった。


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