第22話 帝国史
クラウスは海戦の観戦武官に混じって同乗させて貰う代わりに、家庭教師達を帯同すること、操船術なども習う事を言い渡された。
「週休三日を要求する!一日中労働だなんて違法行為だ!許せない!!」
航海を初めて数日でレドヴィルがストライキを起こした。
職場ごと移動しているようなものなので休む暇も無いのは事実だが、そんなことをいったら水兵は務まらない。
「ここでもストとか。いい度胸してる」
「いいんですか、殿下?」
「そのうち飽きるだろう。放っておけ」
船の仕事はすぐに覚えたが、親しい友人達でも一日中一緒というのはなかなかストレスが溜まる。数か月の長期航海は無理だな、と思った。
「はいはい、殿下たち。歴史のおさらいですよ。逃げ場がないので進捗も良くなって助かりますね」
「今後は船を王宮代わりにするのもいいかもしれませんね」
教師陣は船旅を歓迎していた。
帝国旗艦、といってもガドエレ家の豪華な船旅を楽しんでいる。
「さあ、まずは殿下。覚えている限りのことを書いてみて下さい」
【時代区分】
◆第一帝国期(征服期)
神々の時代の終わりに初代皇帝スクリーヴァが中つ時代、人の時代を導くものとして時の神ウィッデンプーセに指名される。スクリーヴァは帝国本土がある中央大陸を統一し古代帝国による征服事業を始めた。
東方圏の攻略はフランデアン王国に阻まれて中断するも一千年紀の終わりに、南部から迂回した軍が極東に到達し回り込んでフランデアンを追い込んだ為、講和が成立した。帝国にとっても支配地域で反乱が相次いでいた為、これ以上の拡張は限界だった。
◆第二帝国期(神聖期)
一千年かけて東西南北の大陸を制覇した人類帝国においては神殿勢力が政治の中枢に食い込んでいた。初代皇帝が神から指名を受けた為、戴冠に大神官が強い影響力を及ぼしていたのである。神殿や聖地を守る神殿騎士、聖堂騎士は巡礼者を守る名目で各地に私領を有し人が集まる場所を領有していた為、市場を開く権利を有し人々に重税を課していた。
しかし、神々の時代が遠のくにつれて奇跡の残滓も輝きが失せ、世界中から神殿勢力を恨む声が高まった。
神々の忠実な僕として動き、自ら考える能力が弱かった人類も徐々に目覚めていく。政治能力が洗練され官僚が優れた組織になっていくと皇帝の権力も増し神殿勢力は徐々に弱まっていった。
◆第三帝国期(内乱紀)
旧帝国最後の皇帝は聖堂騎士団を解体し神殿の徴税権も取り上げたが、改革は突然終わる。旧帝国の都は最後の女帝の際に疫病が蔓延し、亡者が大量発生して滅んだ。一方、各地の総督は強力な力を残し、引き続き各国に圧政を加えていた。
特にフランデアン王国には討伐軍が派遣されたが、帝国軍は再び攻略に失敗した。
帝国本土では百年かけて新都が建設され、皇帝に従わない総督達が次々討伐されてヴェーナに新人類帝国が誕生した。
旧都には亡者が大量発生し、帝国の力も衰え始め諸国の独立を許し、要衝は自由都市、帝国軍駐屯地として確保した。
◆第四帝国期(混迷期)
旧帝国においてもスクリーヴァの友人として、新帝国においても旧都の人々を導いた近衛騎士の恋人として建国に寄与した帝国宗教界最高権威であり選帝侯の一人、エイラシルヴァ天爵が唯一信教によって爆殺されその系譜が絶えてしまった。唯一信教の大司教によって犯人が古い神々を奉ずる神殿勢力とされ、愛の女神シレッジェンカーマの信徒が槍玉にあげられた。魔女狩りが横行し過激化していくと女神官だけでなく男性の神官にとっても危険な時代となった。
次々と皇帝も怪死を遂げ、エイラシルヴァ天が爆殺されたツェレス島は亡者が蔓延る島となった。この混乱を収拾したのはダルムント方伯である。彼は聖堂騎士団を再結成し、唯一信教を追放した。
支配者階級の統治が混迷し力を失っていくと相対的に市民階級が力をつけ反抗するようになる。北方圏、次いで西方圏で蜂起があったが、かろうじて鎮圧された。
一時は平和を取り戻したが、長続きせず、神話の時代に神々から離反しナルガ河の北東に移り住んだ蛮族の大侵攻が始まった。
北方圏の前線地帯が次々突破され、西部にまで到達するとその地域にあったマッサリア同盟市民連合は武装解除して蛮族に降伏し取り残された帝国軍は何十もの軍団が全滅した。南方圏の王は長年の不満からこの状況を利用して帝国に反旗を翻した。そして時を同じくして東方圏においても最大の国家スパーニア、リーアン、フランデアンらの三つ巴の戦争が始まった。
【簡易年表】
前509年 旧都建設
前27年 旧都に疫病が蔓延。各皇家間の戦争が激化し対策が進まず。
新帝国時代
0年 近衛騎士サガが市民を率いて旧都脱出。臨時皇帝に推される。
36年 新帝イシュトバーン即位
98年 南方総督ウィルシュナが皇帝に即位
124年 帝都に旧都を模してアイン・フィンタム万神殿が再建される。新都建設完了
395年 東西南北に皇帝の代理人として副帝を配置
425年 貴族の子弟に対し公教育開始
535年 オット・パンゴ火山噴火、世界の気候が変化する。南方圏貧困化
711年 蛮族大侵入時代始まる。北方、東方各地へ侵入される
730年 唯一信教による神像破壊活動多発
838年 皇帝セオフィロスが蛮族領地へ逆侵攻、大勝するが凍り付いた大地で北上に失敗し帰還前に死去
849年 皇后マグナウラの離宮を学院として女性の公教育開始
858年 政治に関与しすぎた皇后エンスヘーデを近衛騎士が殺害。一時的に女性の権利後退
868年 印刷技術が普及。本の値段が低下。製鉄所も増え森林面積が減少していく。
930年 帝国議会創設
1000年 西方諸国再編し連合軍を編成。西方諸島侵攻開始
1031年 侵入した蛮族が各地で小国を建国
1075年 皇女コムネッナが西方圏自治都市エネクシアの市長と結婚。市民階級の勢力増大が露わに
1096年 唯一信教の義勇軍が蛮族国家群を壊滅させ、勢力拡大
1198年 副帝廃止・選帝侯の時代へ 軍制変更 総督府廃止 行政区へ
1215年 帝国大法典成立 改めて信教の自由が確認される。万国法を各国が承認
1241年 イグニッカの戦い 高地地方の部族が蛮族に大敗するが、ゲリラ戦で撤退させる
1254年 唯一信教大司教の反対で皇帝選出されず。近衛騎士長が代理皇帝へ
1273年 皇帝リッドリックが即位する
1287年 ラール海で聖ヴァルマン祭の大洪水が発生
ヴェッターハーンで建設中の運河にて外海と内海が繋がる。
歴史上最後の大奇跡とされる。
以降第4帝国期と分類される
1337年 魔女狩り開始、堕落した神殿の宗教活動弾圧、エイラシルヴァ天爵死去により断絶。
1341年 ワルディン誕生
1345年 唯一信教の国教化を進めた皇帝オンスタインを親衛隊が殺害
1347年 跡を継いだ皇帝エッドウッド、奇病フルーア病により死去
フォーンコルヌ家のアウレリウス帝即位
1352年 ダルムント方伯らの活動により本土から唯一信教完全追放。帝国追放令が大陸中の全信徒に適用される。神聖期を模して聖堂騎士団再結成。巻き添えになった旧来の神殿を統廃合。
1358年
~1360年 第一次市民戦争。北方市民の反乱。各国の遠征軍により即座に鎮圧される
1376年 アイラグリア家のコス帝即位
1378年
~ 第二次市民戦争。西方市民の反乱。各国の遠征軍は勝利するも精錬技術の発達し量産さ れた現代武器の前に多くの魔術師、魔導騎士を失う。
1379年 革命軍に占拠された都市に対して帝国軍が封鎖を開始。
1380年 国内の革命勢力を撃破したブラッドワルディン即位。
1381年 ブラッドワルディンがエスペラス王国の王権派を粛清し、国外の革命軍に対しても遠征に出る。
1382年 古代に滅亡したルクス・ヴェーネ聖王国が再発見される。ブラッドワルディンが王妃プラーナを迎える。
1384年 リブテイン王国で餓死者200万人以上。反戦機運が盛り上がり、帝国にも伝播。
1385年 王妃プラーナが死産で母子ともに死亡。
滅亡したリブテイン王国で亡者が発生し、聖堂騎士団が停戦を訴える。
ブラッドワルディンが西方圏全土の革命軍と講和を結び西方選帝侯となる。
1398年 印刷技術が大きく進化し普及する。聖典の価値が100エイクから5エイクまで低下する。信頼性の高い書物が普及し始める。市民勢力の再興
1399年 通貨のサイズが小さくなり、一部の宗教家が暴動を起こす。ドラブフォルト誕生。
1406年 天杭台地で違法な実験を行っていた死霊魔術師が西方騎士達に逮捕される。
1407年 皇帝カールマーン即位
1412年 蛮族が北方圏に侵攻開始し北方軍団は大軍を喪失する。
1413年 フランデアン王国とスパーニア王国、リーアン連合王国、ガヌ・メリなどが戦争を始める。
1415年 南方候が帝国に対して反乱を起こす。
1418年 マッサリア救援に出撃したブラッドワルディン戦死。
『マッサリアの災厄』が終わる。蛮族は撤退したが、北方圏は北部西部南部まで蛮族の攻撃を受けた。東方大戦、南方大乱などこの六年間で数千万の人口を失った。
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1421年 クラウス誕生
1424年 養子に来たクラウスがラクナマリアに保護される。
1428年 ドラブフォルトが西方選帝侯となる。
1433年 ラクナマリアとクラウスが再び出会う。
「殿下・・・」