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第19話 ホスタとラクナマリア

「さて、ホスタ」

「はい」


住み込みで働くようになった後、ホスタには改めて館の決まり事を教えなければならなかった。


「どうせ気になって知りたくなるだろうから聞かれる前に言おうと思う」

「あ、王妃様から無理に伺ってはいけない、と申し付けられていますから探ったりしません!」

「それは無理だろうし、知っておいて貰った方が暮らしやすい」

「はい」


居住まいを正して聞く。


「勝手に門や扉が開くのは精霊の仕業だ。私の意に反して動くこともある」

「精霊、ですか?」


ホスタは子供の時、御伽噺でしか聞いた事が無い。


「信じられぬか?」

「い、いえ。ラクナマリア様がおっしゃられるのでしたら」

「ふむ。神や幽霊は信じるのに何故精霊を信じる者が少ないのであろうな」

「申し訳ありません」


まぁ、よい、と改めて話を続ける。


「特に夜は勝手に動く。水浴びしている時に勝手に扉が開くかもしれぬ」

「お客様がいる時だと困りますね」

「夏に池で涼んでいる時も困るだろう。わたくしは構わぬが」


9月の暑かった頃はホスタも池に足を投げ出して涼んだり、水浴びしていた。


「そなたの部屋には立ち入らぬよう申し付けたから夜に怖い事があったらすぐに部屋に帰るがよい」

「はい」

「夜になると霊の影響が強くなってわたくしもおかしくなる」

「の、乗っ取られたりしているのでしょうか!?」


お祭りの時はいつもと変わらなかったが、アルエラが泊った時は少し人が違っていた気がする。


「そうではない」


苦笑する。


「朱に交じるようなものだ。わたくしはわたくしであることに変わりない」

「でしたら良かったです」

「時々、無言で動かない事があるが、精霊と話しているだけだ。気にする必要は無い」

「はい、何かのご病気かと」

「むう、そんな風に思っていたのか」

「お医者様に聞いてみたりしました」

「そうか。もっと早く言えば良かった」

「いえ、静かにお暮しになっているのに私なんかが入り込んで申し訳ないです」

「うっとおしくしなければ構わぬ」

「はい!」


とはいえ、どれくらいならいいのか分かりづらかった。


「大抵精霊たちの方がしつこい。まあ、お前はそれほど悪くはない」

「有難うございます!」

「あまり返事はしてやれぬが、世間話がしたいのならしてもよい。聞いてはいる」


ホスタは苦笑する。

返事がないのに世間話をするのはつらい。


「あの女官達の噂で夜になると歌声が聞こえるとか幽霊と話していたとか、願い事を叶えてくれるとかいう話があったのですがご存じですか?」


後宮の不思議な出来事を全部ホーリードール宮の主に押し付けていただけなので、信憑性の無い噂ばかりだった。


「確かに時々歌ってはいるが・・・。他の話はなんだ・・・?」

「さあ」

「確かに冥界へ送る為に霊の悩みを聞いて解決してやったことはある。しかし、それを近所の者達が知っているとは思えぬ」

「どういうことでしょう」

「その者らは本当に人間だったか?お前は彷徨う霊にでも会ったのではないか?」

「えっ!」


ホスタは恐ろしくなって自分の体を抱きしめて飛び上がった。


「はっはっは」


どうやら悪ふざけだったらしい。


ホスタとラクナマリアは楽しく過ごしたのだが、ホスタはある日、むしろ自分だけ人付き合い?が減った事に気が付いた。


 ◇◆◇


「陛下の使いで帝国の特使の方がラクナマリア様にお目通りを願っているそうです」


ある日、女官がそんな話を持ってきてホスタが伝えた。


「来たければ勝手に来るがいい。害意が無ければ人形達は通すだろう」

「では、ご承諾なさると言う事でよろしいですか」

「うむ」


女官は返事を持って帰った。それからホスタが問いかける。


「よろしかったのですか。マヤ様が注意せよ、と」

「何をだ?」

「帝国が血筋を欲しがるかもしれない、と」

「あぁ、あの時も言ったが欲しいなら与える。願いが叶うまでここから動くつもりは無いが」

「さ、左様でしたか」

「うむ。まあドラブフォルトが認めているなら悪いようにはなるまい」

「はい」


ホスタは懐に短剣を用意した。

彼女は帝国人の道徳観を信じていなかった。


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