8 辞令?
数日後。
僕は会社で上司に呼び出された。
「あの、話ってなんでしょうか」
「実はな、三ヶ月後の話なんだが、地方の支社に異動昇格の話がきているんだ」
「本当ですか」
「君が行くか君の後輩の山岸くんが行くか希望を取っているんだがどうかな」
昇格すると言っても地方の支社か。地元を離れるのは嫌だな。せっかく海外で働いている両親の建てた一軒家もあるし、妹や皆と離れ離れになってしまう。反抗期の妹は喜ぶかもしれないが、あんな社会不適合者の未成年を一人暮らしさせるのは危険だ。
できる事なら断りたい。
「ほら、君って今婚約者や彼女もいないフリーじゃないか。地方に移り住んでも問題ないんじゃないか」
「いえ、それは……」
「なんだ。相手がいるのか? 相手がいるなら山岸に行かせるが。彼は少し乗り気だし。でも、いかんせん彼はまだ経験が浅いからもう少しここで下積みを積んだ方がいいと個人的に考えているんだ」
「そうなんですね。しかし私には相手が……」
「なんだ相手がいたのか。相手がいるなら無理は言わない。君の将来にも関わる話だからね。例えばこれから婚約するとか、今地元を離れられない特別な事情がない限り、君を行かせる事になる。どうだろう?」
「相手はまだいないんですが、地元に意中の相手がいるので、このまま地方から離れたくないです」
「そういう事か。君もそろそろ結婚を考えてもいい年齢だと個人的には思っている。ここに骨を埋めたいのなら三ヶ月以内に決着をつけてくれ」
「分かりました」
あの五人から相手を選ばなくては元来内向的な僕が結婚できるチャンスは二度と来ないだろう。
十年友達として付き合ってくれたんだ。
本気で告白すれば、誰か一人くらいは僕の人生の伴侶になってくれるかもしれない。
こうして僕は十年ぶりに本気でラブコメをする事に決めたのだった。