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10 さきとデート


 数日後。


 僕はさきとデートをする事になった。


 待ち合わせは僕の家の前。


「お待たせ」


 さきが玄関前に現れた。


 いつもはスウェットにジーンズ姿なのに今日は花柄のワンピースに髪型もハーフアップにしたりとやたらとめかし込んでいた。


 そうか。これがデートか。


 彼女の出来たことのない僕はとても新鮮な気持ちになった。


 しかし、さきは浮かない顔をしてそわそわしている。


「どうしたんだ?」


「だってこんな所誰かに見られたら付き合ってるって思われるじゃない」


「まずいのか?」


「まずいわよ。会社の人に見つかったら社内恋愛してる事になるのよ、私達」


 社内恋愛。そうだった。僕達は十年前の高校生の時とは違い社会人であり同じ会社の同僚。


 社内恋愛するとなると極力、関係性を勘繰られないように振る舞わなければならない。


 社内恋愛を悪いとは一ミリも思っていないが、僕もさきもそういった事はあまり公言したくないタイプだ。


「どこ行く?」


「正直、会社の人に見られてややこしい事になるのは嫌だから街中は行きたくないな。ドライブでいいか」


「うん。そうしましょう」


 さきとのデートはドライブになった。


 さきとのドライブデートは思いの外充実していた。


 二人きりで長い時間を過ごす時間があまりなかったので、僕達は二人しか分からないアニメや漫画などのサブカル話を延々と語り尽くした。


 喉が渇いたのでサービスエリアでソフトクリームを食べ、コーヒーを買い車に戻った。


「はぁ。こんなにオタクトークしたの久しぶり」と、さき。


「そうだな。僕も社会人になってからこういう話題で語る事減ったからな」


「二十歳越えた辺りで急に熱が冷めた時があったわよね私達」


「そんぐらいの時だっけ?」


「あんたがサークル活動で飲み会ばっかり行ってて私達と全然つるまなくなった時期あったじゃない」


「そういえばそうだったな。社会人になってからまた頻繁に会うようになったけど」


「私寂しかったんだから。あの時、たかおがチャラ男のパリピになっちゃって」


「チャラ男のパリピって……」


「だってその時、童貞捨てたんでしょ」


「えっ……何故それを……」


「ひろととたかおが学食でその話してたのたまたま聞いちゃったんだ」


 七年前。僕は酔った勢いで同じサークルの女の子と付き合ってもいないのにワンナイトをした事がある。それを冗談めかしてひろとに喋った記憶がある。


「私は誰ともした事ないのに、たかおは非童貞なんだ」


「いや、悪いかよ」


「悪いわよ。私だってたかおの事が好きだし、もし付き合えたら初めて同士が良かったわよ」


 もしかしてさきは、処女厨ならぬ童貞厨?


「あーあ、私がたかおにとってエロゲヒロインだったらよかったのに」


「ちょっ急に何を言い出すんだよ!?」


「エロゲヒロインだったら学生時代からあんな事こんな事やりまくりできたのに。正直、抜きゲーの世界に生まれたかったわ!」


「ちょっとマジで何言ってるんだよ! 暴走しすぎ!」


「言っておくけど私は痴女じゃないからね。二十七歳にもなって交際歴のない処女なんて心も身体も持て余すに決まってるでしょ。あーHしたい。Hしたいなーもう!」


「盛った男子中学生か!」


「ううっ……こんな事になるなら十年前にたかおに告白しておけば良かった。このデートを最後に振られる可能性があると思ったらどうにかなっちゃうわよ」


 そうか。僕が十年間誰も選ばなかったせいで彼女にこんな精神的負担を掛けてしまっていたのか。


 このまま勢いに任せてさきを選ぶか。いや早計過ぎるか。


「僕がずっと煮え切らない態度を取ってきて本当にごめん。さきの事は好きだよ」


「でも私を選ばないかもしれないんでしょ」


 どうしよう。なんと返せば良いものか。


「暫定……」


「えっ……」


「暫定一位だよ。僕の中で今のところさきは暫定一位だ!」


「私が……一位……ありがとう。たかお」


「さき! 君が一番好きだ! 暫定的に!」


「たかおー!」


 なんとか雰囲気を誤魔化す事に成功した。


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