7 サブアタッカー募集
レオルはルリエとチトセと共にギルドの椅子に座り、受付を待っていた。現在昼頃のため、ギルドは混雑していて、そこかしこから会話が聞こえてくる。
ときにはそんな雑談から重要な情報が手に入ることもあるため、レオルはそれぞれの会話にそれとなく意識を向けていた。
「なぁ、碧撲の徒がコカトリスを狩り損ねたって噂、本当か……?」
「本当だ。サポーターのダルフォンがクエスト失敗の申請をしていた」
「あの碧撲の徒が、何故そんな失敗を? 彼らの実力なら余裕だろう」
レオルは男達の会話を聞いても特に驚きはしなかった。
コカトリスは攻撃力に加えて、負けを察したときの逃げ足の速さもある。それなりにレベルの高い怪物のため、綿密な計画を立てて挑まなければ取り逃がすことは珍しくない。
並の一線級のパーティなら五分五分の仕事。四人構成となった今の碧撲の徒では、成功率は三割といったところだろうか。
「リーダーは鳥がザコすぎて油断したと笑い話にしていたぞ。まあ、碧撲の徒といえど人間だ。一度や二度の失敗くらいあるだろう」
「でも、最近サブガードが抜けたって話じゃないか。単純に弱体化してるってことは考えられないか……?」
「レオルとかいう奴かー。ソロでジャイアントオークを狩ったとか、三人で魔物を狩ったとか、噂になってたな。碧撲の徒を抜けてから化け物みたいに活躍してやがる。
だが、さすがにサブガードが抜けただけで碧撲の徒が弱体化するってことはねえだろう。まだメインガードのジョゼがいるんだからな」
「確かに、ジョゼがいる限りは安泰だな」
碧撲の徒は魔物を無傷で狩って以来、神聖化されているため、まだ評判は落ちていないようだ。しかし、彼らが特別でなくなる日もいずれ来るだろうと、レオルは考えていた。
(最初に挑んだクエストがコカトリスで命拾いしたな)
もっとレベルの高い怪物に四人で挑んでいたら、命を落としていた可能性もあった。さすがに彼らもそこまで馬鹿ではなかったようだ。
そんなことを考えていると、受付嬢から名前を呼ばれ、レオル達は立ち上がった。噂をしていた男たちの前を横切ったとき、男たちはギョッとしていたが、噂されるのはレオルにとって日常茶飯事なので気にしない。
「パーティメンバー募集の進捗を知りたい」
受付で要件を伝えると、受付嬢は三センチほどの紙の束を取り出し、机の上に置いた。
「あの……こちらになります。サブアタッカー三十八名、サポーター五十七名の応募がありました」
ルリエとチトセが目を真ん丸くした。
「え、ちょっと待ってください。この前は一週間でチトセさん一人だけでしたよね?」
「そうよ。なんで急にそんなに候補者が増えたのよ。あたしが入ってからまだ二日よ?」
「それはお三方が魔物を倒したからです。あれ以来、他のギルドからも応募が殺到しています」
いずれこうなるだろうとレオルは予想していたが、人の噂が広まるのはレオルの想定より早かったようだ。
ハイレベルなモンスターを狩ることができれば、それだけ多くの報酬を得ることができる。戦闘力は生活水準に直結する。噂を聞きつけた者達が募集に殺到するのは当然だった。
「それに、碧撲の徒のレオル様のお名前もありますので」
受付嬢の言葉にルリエが嬉しそうな顔をして、チトセはふふんと自慢げな顔になったが、レオルは気づいていない。
「俺の名前か」
レオルの名前は最初からあった。しかし、サブガードという役割のために、単独での実力は相当に低く見積もられていた。それが成果を挙げた途端に一転、碧撲の徒のサブガードは強いと、冒険者達の評価が変わったのだろう。
「そこでご提案なのですが、魔力測定室に候補者たちを全員集めて、審査してみるというのはいかがでしょうか」
魔力測定室は高威力の魔力を放っても壊れない作りになっている。ギルドが冒険者のレベル設定時に使用する部屋で、一般的には貸し出していないはずだが、例外的に貸し出してくれるというのであればありがたい話だ。候補者達の実力を目の前で見ることができる。
「是非お願いしたい」
「では、明日のお昼頃にまた来てください。それまでに候補者達を集めておきます」
翌日。
レオル達の前にはサブアタッカー候補者三十八名がそれぞれの武器を持って並んでいた。