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58 最終章 攻略法


 おそらくこのハーピィは頭が切れる。

 強力な固有魔法に加えて、高い参謀能力があったからこそ、魔王を倒すことができたのだろう。


 ハーピィが何を考えているのか、全てを読み取ることはできない。


「ルリエちゃん。王をどうするつもりと聞いたわね。それこそ最も愚かな質問よ。

 私は王の声を真似して議会で発言することで、人間社会をコントロールしている。魔物をこの敷地内に匿ったり、魔物に有利な法を通したりね。だから王を殺したりはしないわ……今はまだ」


「んな馬鹿なことがあるかよ! 魔物に有利な法って何だよ!?」


 アッシュが叫んだ。

 ハンマーを強く握りしめているが、ハーピィに振り下ろすことはできない。


「魔物のための食料をこの城に集めたり、あとはそうね……冒険者パーティの人数制限を推奨したりね」


 その言葉は衝撃的だった。

 冒険者パーティは効率よく魔物を倒すため、五人構成が推奨されている。世界中のギルドで五人パーティを前提としたクエスト依頼やパーティ登録の制度が確立している。


(起案者はハーピィだった……? とすると、魔物側に有利な仕組みだったということか……)


「冒険者パーティは五人が丁度いいわ。五人なら遠出する時も目立たないし、報酬も分けやすい。戦うときには連携しやすくて、魔物を倒すフォーメーションも組める。初心者から上級者まですべての冒険者に推奨される人数…………なーんていうのはね、私が作った方便よ?」


「実際に冒険者たちは、五人パーティで上手くいっていますよ」


 ルリエが反論したが、ハーピィはニヤリと笑った。


「それは魔物が一体ずつしか出現しないからでしょう? 魔物が軍を組織したらどうなるの? 百体、千体が一度に襲ってきたら、軍を組織していない人間に勝ち目はあるのかしら?」


「そんなっ……」


 ルリエの表情は蒼白になった。

 確かに魔物が百体や千体で襲ってきたら、人間に勝ち目はない。


 人間は五人単位で戦うことに慣れている。パーティをかき集めて数万人の軍を組織したとしても、まともに連携できないだろう。


 軍を組織するなら、防御の仕方も、攻撃の仕方も、時間の稼ぎ方も、根本的に変えなければならない。


「つまり、お前は魔物を一体ずつ街に出現させることで、『魔物は一体で行動する』と人々に印象付けたということか。さらに王の声で五人パーティの法案を通すことで、人間が軍を組織するのを阻止していた」


「盾使いのあなたは話が早くて助かるわね……フフフフ」


 魔物はレオルを挑発的に見上げる。

 顔は人間とまったく差異が無いが、黒い翼や局部を隠す黒い羽根は彼女が怪物であることを感じさせる。


「魔物は繁殖に時間がかかるのよ。人間と全面戦争できる数まで増やすには、あと数年がかかるの。だから今はあえて弱いフリをして、人間を油断させて、王の敷地内でコツコツと軍隊を作っているのよ」


 王の敷地内にいた大量の魔物達は、ハーピィが組織していた軍隊なのだろう。

 ハーピィはその存在を城の者達から隠していた。


 ふと、レオルの脳内で点と点が結びついた。


「オーブリー王女を殺そうとしたのはお前だな?」


「殺そうとした? 死んでなかったのね。ああ、王を少し自由にさせすぎたかしら」


 やはり王女を殺そうとしたのはハーピィだったようだ。


 王女は王の秘密を探っていたため、王がハーピィの支配下にあることや、魔物が軍を組織していることをいずれ知っただろう。


 そうなる前に、ハーピィは王の声で魔法兵を動かし、王女を消そうとした。


 しかし、魔法兵はオーブリー王女を殺せなかった。


 ハーピィの命令は王の命令と同等の効力を持つが、裏を返せば、王にできないことはハーピィにもできないということだ。


『もしも王がオーブリー王女を殺せと命令したら、魔法兵は王女を殺すか?』


 その答えは否だったということだ。


 運良く王女は城から脱出し、そのことを隠すために本物の王が王女の死を公表した。


(王女を殺そうとした者も、王女を救おうとした者も、王のような人物だと想定していた。あながち間違いではなかったな)


 城に王が二人いるかのように感じた理由は、王と同等の影響力を持つハーピィがいたからだ。


 ハーピィは盾をじっと見つめると、顔を上げた。


「ああ……思い出したわ。盾使いのレオル・アクレス。私が偵察に送った魔物を何度も倒していたのはあなたのパーティだったわね」


 ハーピィはこれまで街に送り込んでいた魔物から情報を集めていたのだろう。


 つまり、ハーピィが魔物を街へ送り込んでいた理由は少なくとも二つあった。


 一つは魔物が一体で行動していることを人間に印象付けるため。

 もう一つは、人間の力を把握するため。


 ハーピィは魔物と人間の力量差を分析し、魔物が優勢になった時点で、全面戦争を仕掛けるつもりだったのだろう。


 しかし、その企みはレオル達が大幅に遅延させた。


「確かに、俺達はこれまで何度も魔物を倒してきた。つい数分前も、下の階にいた魔物を二百体ほど倒した。お前の組織していた軍は半壊している」


「あら……そうなの? 最上階まで来たからまさかとは思ったけど、彼らを倒してきたのね…」


 ハーピィは瞳に怒りを携えていたが、口調は冷静だった。


「でもいいわ。倒された分の戦力はすぐに補うから」


「強がりね。魔物は繁殖力が低いんでしょう? 戦力を整えるにはまた何十年もかかるわ」


 チトセが反論すると、ハーピィはフンと鼻を鳴らした。


「知らないのね? 魔物の死骸を怪物に食べさせれば、怪物は本来よりも遥かに強くなるのよ。そんな凶悪な怪物を人の街に放り込めば、それなりの被害を出してくれるでしょう……フフフフ」


「それってまさか……特殊個体……!?」


 チトセは一歩後ずさった。


 レオル達はこれまで、同種族よりも遥かに強い怪物を『特殊個体』と呼んでいた。

 その特殊個体を作っていたのはハーピィだったようだ。


 しかもその作り方は簡単だ。

 先ほど倒した魔物の死骸を回収しなければ、新たな強い怪物が二百体ほど生み出される。


(万が一俺達がハーピィに負けたら、人類は近い内に滅ぼされるな)


「お前も魔物を食べて、その力を得たのか?」


「ええ、私の場合は偶然だけどね。たまたま魔物の死骸が転がっていて、それを食べて力を得たのよ。その後も何度か食べて、最大限の力を得たわ。当然、無防備なあなたを殺す程度の魔法は使えるわよ……フフフフ」


 ハーピィは近づいてくると、レオルの胸に手を当てた。


『ルリエがレオルの胸に手を当てたら、レオルは手を振り払うか?』


 答えは否だ。

 だからレオルはハーピィの手を振り払うことはできない。


「いくら天才盾使いでも、盾を持たずに攻撃されたら死ぬわよね? 打消し魔法の使い手も、ゼロ距離の攻撃を打ち消すことはできない……フフフフ」


 ハーピィの言葉は事実だ。


『ルリエがレオルの胸に手を当てていたら、レオルは防御魔法を使えるか?』


 答えは否だ。

 防御魔法を発動したら、触れている相手にダメージを与えてしまう。


 仮にルリエがレオルの体に触れていたら、レオルは防御魔法を使わない。


 だから、ハーピィが攻撃魔法を使用することがわかっていても、レオルは防御魔法を発動できない。


(声の力、厄介だな……。攻撃にも防御にも有効なのか)


「終わりにしましょう……レオル・アクレス」


「レオル様っ! 逃げてください!」


 ルリエが叫び、レオルはバックステップで二歩下がった。


『ルリエがレオルの胸に手を当てていたら、レオルは逃げることができるか?』


 答えは正だ。

 手を乱暴に振り払うことはできないが、後退して逃げることはできる。


 しかし、それが解決策にならないことにレオルは気づいていた。


「待って。レオル・アクレス」


 ハーピィの声にレオルは立ち止まった。


『ルリエが呼び止めたら、レオルはその声を無視できるか?』


 答えは否だ。

 ルリエの待ってという言葉を、レオルが無視することはあり得ない。


 逃げるべきだとわかっていても、ハーピィから逃げることはできない。


「レオル様っ……! 駄目です! 逃げてください!」


「フフフフ……無駄よ。私が声を模倣している限り、あなたの言葉よりも私の言葉が優先される。動かないでじっとしていてね。レオル・アクレス。そろそろ終わりにしましょう」


 ハーピィの手に赤い魔力が灯った。

 血のような色が広がり、禍々しい渦になる。


「させませんっ……!」


 ルリエが杖を振りかぶった。

 今はハーピィがレオルからニメートルほど離れているため、打消すことができる。


 しかし。


「杖を置いて、近づかないで。ルリエちゃん」


 ハーピィはレオルの声を模倣した。

 ルリエの動きがピタっと止まった。


 大人しく地面に杖を置き、その場で立ちすくむ。

 青い瞳には涙が浮かんでいた。


「レオル様…………」


 ハーピィの魔法は一人に対して一つの声が有効になるようだ。


 レオル、チトセ、アッシュ、セスクにはルリエの声が有効になっている。

 ルリエにはレオルの声が有効になっている。


 誰も手が出せない状況だ。


 レオルはルリエに視線を合わせ、フッと小さな笑みをこぼした。


「問題ない。ルリエ、顔を上げてくれ」


 レオルの両手には、ハーピィと同じような魔力の渦が沸き起こっていた。

 青色の魔力は静かに回転している。


「レオル様……?」


「レオル、一体何をしているの……?」


「特大魔法、使えたのか?」


「ああ、散々見てきたからな」


 レオルには天賦の魔法の才能がある。

 見たことのある魔法を真似することなど造作もない。


 メインアタッカーが使用する特大魔法は何度も見てきたため、再現するのは容易だった。


 敵は特殊個体と言っても、下級怪物のハーピィのため、低い威力の特大魔法でも倒せる。


 レオルは盾魔法で培ってきた魔力操作で、魔力の回転速度を上げて、威力を強化した。


 魔力のサイズや軌道はアッシュの特大魔法のイメージを思い浮かべる。


「フフフフ……馬鹿ね。何をしているのかしら? あなたはまだ私の魔法の影響を受けているのよ。私を攻撃することはできないわ」


「いや、できるさ。俺はルリエを信じている。ルリエは俺が絶対の信頼を置いている『打ち消し魔法使い』だ」


 レオルは左右の手のひらを合わせた。

 青い渦が合体し、ゴゥゴゥと静かな轟音が鳴る。


『レオルはルリエを特大魔法で攻撃することができるか?』


 答えは正だ。

 ルリエはドラゴンやサンダーバードの魔法攻撃すら、楽々と打ち消してきた。


 レオルの特大魔法など、杖を持っていなくても、難なく打ち消すことができるだろう。


 レオルはルリエの実力を信じている。

 だからこそ、魔法攻撃を放つことができる。


「そ…………そんな……馬鹿なッッッ…………!」


「終わりだな」


 レオルが両手を前に突き出すと、青色の魔力は爆発的に広がり、ハーピィを包み込んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、それぐらい出来ないと、サブガードでメインガードの役割なんて出来ないもんな。 所謂自爆攻撃(但し自分達には打ち消される)だよな。 詰めが甘かったからこそ、出来る最大の攻撃手段だよな。…
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