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55 最終章 秘めた才能


 アッシュは魔物をじっくり見ていたが、レオルの方を振り返る。


「レオル、なんで魔力増加に耐えられたんだ? 普通の人間には耐えられないんじゃなかったか?」


「この魔法『停止領域』は、魔力変換の工程を踏まず、俺の魔力をほぼそのまま放出している。だから莫大な魔力を一瞬で放出できたんだ」


 盾魔法などは魔力を固めたり、四角く形作ったりする工程が必要なため、技の発動に時間がかかる。

 停止領域はそのような工程がないため、技の発動は速い。


「それだけではありませんよ。レオル様は『魔力放出力』が誰よりも優れているのです。おそらく、世界で一番だと思いますよ」


 ルリエが補足すると、セスクも頷いた。


 レオルはこれまで、全魔力を一瞬で放出することが何度もあった。

 それは普通の人間にできることではない。


 一度に魔力を放出できる量は、魔力保有量の十パーセントが最大と言われている。

 どれほど才能のある者でも二十パーセントだ。百パーセントの魔力を一瞬で使い切るなどあり得ない。


 しかし、レオルの魔力解放量は常軌を逸していた。

 幼い頃から、使おうと思えば一瞬で全魔力を消費することができた。


 本職のメインガードより強い盾を発動できたのも、身体能力強化でドラゴンと対等に渡り合えたのも、魔力放出力に優れていたおかげだ。


 レオルの生まれ持っての能力は、運動神経、判断力、魔法のセンス、魔法の瞬発力など多々あったが、魔力放出力は世界一と言っても過言ではない。


 では、なぜこれまで騒がれていなかったのかといえば、冒険者の測定項目に含まれていないからだ。


 魔力はペース配分を考えながら使うものであり、百パーセントを瞬間解放することに意味はない。


 メインアタッカーやメインガードなら多少は意味があるものの、それらは魔法発動の測定時になんとなく判定される。発動が速いとか、盾が大きいとか、その程度の評価だ。

 魔力放出力という項目だけで評価されることはない。


 しかし、先ほどはセスクの魔力増加を付与されたことで、レオルの天賦の才能が最大限に発揮された。

 レオルでなければ、魔力消費量を魔力増加量が上回り、パンクしていただろう。


 ルリエは共に戦っていたため、以前からレオルの稀有な才能を見抜いていたようだ。


「レオル様が魔法の繊細なコントロールができるのも、魔力放出力に優れているからですよ。レオル様は普段、本来扱える魔力の一パーセント程度しか使っていませんからね」


 レオルはルリエの言葉に納得させられた。


(さすが高等魔法使いだな)


 レオル自身、魔法を繊細にコントロールできる理由など、考えたことはなかった。

 訓練によって身につけた部分もあるが、言われてみると確かに天賦の才能が大きい。


 短期間で新しい魔法を覚えたり、複雑な魔法を習得したりできた。

 普通の人にはできないギリギリのタイミングで魔力を変化させ、クリティカルな攻撃をすることもできた。


 新たな自分の発見に、レオルは新鮮な気持ちになった。


「ちょっと待って、ルリエ。『本来扱える魔力の一パーセント程度しか使っていない』っていうのは言いすぎよね? レオルは魔力保有量の十パーセントくらいは使っていたはずよ」


 チトセの疑問にルリエはきょとんとする。


「言い過ぎではありませんよ? レオル様は先ほど、普段の全力の十倍ほどの魔力放出を見せてくれたではありませんか。レオル様が扱える魔力量は、レオル様の魔力保有量を超えているのです」


 チトセははっとなり、アッシュは首を傾げた。


「それってつまり、レオルは魔力保有量の十倍……千パーセントの魔力放出力があるってこと!? 普通、十パーセントくらいよね!? そんな桁外れなの!?」


「うおっ! そういうことか! すげえな!」


「ええ、そういうことですよ。わたしには羨ましい限りです」


 ルリエはレオルとは真逆のタイプだ。

 魔力保有量はたっぷりあるが、瞬間的に放出できる魔力量は少ない。


 打消し魔法を修得した理由は、少ない魔力量で発動できるからだ。


 その結果、膨大な魔力を持ちながら、消費の少ない魔法を使用するというチグハグな状態になり、何時間も魔法を使用し続けることができた。


 それは本来の魔力保有量を活かしきれていなかったことを意味する。


 現在はジャコランタンの杖によって魔力放出力を底上げし、一般人を上回る二十パーセントほどの魔力放出力を得ている。

 それでもレオルの五十分の一だ。


「あたし達、レオルの魔力放出力のおかげで生きているのね。さすがだわ。世界中探しても、セスクの力を使いこなせるのはレオルしかいなかったってことだもの」


「まじで助かったぜ! それにしてもこの魔法はすげえな! このまま王のところまで行けるんじゃねえか?」


「そうですね。できれば倒したいところですけど、あまり時間をかけすぎるとレオル様の体への負荷が心配です。このまま最上階まで行きましょう」


 魔物一体を倒すのに二分かかるとして、部屋の中の魔物を倒すのに一時間、廊下の魔物を倒すのにおそらく三時間以上かかる。


 さすがのレオルでも身体能力の限界を超える可能性は高い。


 また、この騒ぎをきっかけに上層階でどのような動きが起きているかわからない。急いで向かった方が良い可能性もある。


(しかし、できるだけ倒したい。人型の十数体だけでも倒していくべきか……)


 魔物を放置して上層階に向かった場合、停止領域の効果が切れた頃に、魔物達がレオル達を追ってくる可能性が高い。


 再び停止領域を発動することはできるが、停止領域の効果範囲は半径二百メートルほどだ。


 それ以上離れたところから遠距離攻撃を撃たれると厳しい。

 レオルは停止領域の発動中、他の魔法を使えないし、ルリエも停止領域を打ち消すことで精一杯だ。


 遠距離攻撃を撃たれた場合は、レオルが右手の盾ですべて防ぐしかない。


 停止領域は生物の動きを停止させることはできるが、貫通力のある魔法攻撃を止めることは不可能だ。


「倒せるわ」


 チトセは首飾りを握り、俯いていた。

 しばらく何かを考えていたようだが、毅然とした表情でレオルを見上げた。


「あたしは最近、上級の呪術を修得したわ。そしてずっと考えていたことがあるの。

 ……あたしの村で上級の呪術が隠されていた理由は何? 普通の村人に教えない理由があったかしら?」


 上級の呪術を記した書は、洞窟の奥でケルベロスが守っていた。

 ケルベロスはレオル達が倒すまで、百年以上倒されたことが無いほどの強さだった。


 それほど厳重に隠されていた理由はなぜなのか。


「危険だからではないのでしょうか? 以前、チトセちゃんや村の人々がそうおっしゃっていましたよね」


「そう、危険なのよ。でもね。威力が高いから危険なのかしら」


 レオルはチトセの言おうとしていることがわかった。


 チトセの呪術は元々、上級の魔物を倒せるほどの強さだった。

 上級の呪術を修得して威力が上昇したが、倒せる敵の範囲はほとんど変わっていない。


 唯一、不死のフェニックスを倒せるようになっただけだ。

 それが危険かというと、危険ではない。少なくとも人間にとっては何の影響もない。


「複数の敵を倒せるのか?」


 レオルが問いかけると、チトセは視線を逸らしてから頷いた。


「たぶんね。試したことがないから、絶対にできるとは言えないけど。


 上級の呪術は威力が高いから、『未完成でも充分な強さ』なの。つまりね、上級の呪術を未完成のまま使用しても、魔物を倒せると思うの」


 チトセの呪術の完成には約二分かかる。


 魔力を呪術に変換し、重ねていくという工程が六十ほどあり、その工程を終えると最大威力の呪術を発動できる。


 その工程を途中で終え、未完成の呪術を使用すると、相応の威力になる。

 通常の呪術は第一工程で、生身の人間を三日麻痺させるほどの威力だ。


(となると、上級の呪術は……)


「下級の魔物なら第一工程で倒せるわ。上級の魔物でも第三工程で倒せる。一体につき二秒から六秒よ」


 上級の呪術が封印されていた理由は、大量殺戮が可能だからなのだろう。


 二秒で魔物を倒せるのであれば、希少な怪物を巣ごと絶滅させることもできる。

 人の寝込みを襲えば、一晩で百人以上を殺戮することも可能だろう。


 それほど危険な技だからこそ、正しい鍛錬をした者にのみ伝えられたと考えれば、辻褄は合う。


「わかった、チトセを信じよう。魔物を全員倒しながら、最上階の王の間まで向かう」



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