表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/59

53 最終章 王家の切り札


「なっ…………なんだそりゃ!? 強いのか!?」


「えっ、凄くないですか?」


「凄い魔法だけど、期待したほど強くないわ。魔物十体には敵わないわよ。撤退ね」


 三人はそれぞれ異なる反応をしていた。


 具体性が無さすぎて、まだ能力の評価はできない。


 しかし、レオルが想像している通りなら、『世界を滅ぼすほどの力』という王女の言葉にも頷ける。


「魔力を増やす魔法は、消費量よりも増加量の方が大きいのか?」


「当たり前だろう。そうでなければゴミだ。僕の魔法は、わずかな魔力消費で、対象の魔力を倍に増やすことができる。自身を対象にすることもできる。つまり魔力は無限なんだよ」


 チトセはそれを聞いても納得のいかない表情だ。


「確かに凄いけど、想定の範囲内なのよ。魔力切れが起こらないという話でしょう。それだけで城の魔物と戦えるとは思えないわ。

 庭で見ただけで十体、庭の見えないところに百体、屋敷の中に百体以上いてもおかしくないのよ。それこそ王女の言葉通り、『世界を滅ぼすほどの力』でなければ勝ち目なんてないわ」


「だから最初から言っただろう? 戦うのは僕じゃない。君達だ。君達の強さが僕の命を左右するんだよ。君達が無限の魔力で勝てないのなら、勝てないさ」


 そう言った瞬間。


 ヒタ……ヒタ……ヒタ……。


 ヒタ……ヒタ……ヒタ……。


 ヒタ……ヒタ……ヒタ……。


 廊下を素足で歩く音が聞こえた。


 その足音は徐々に近づいてきて、やがてドアの側で止まった。


「ギィ」という声と共に、室内に魔物が入ってきた。


 紫色の人型……緑色の四足歩行……灰色の一つ目……紫色の巨漢…………。

 次から次へと室内に入ってくる。その列はなかなか途切れない。


 魔物たちが足を止めたとき、室内にいる数は三十体を超えた。

 廊下からはまだ無数の声や足音が聞こえている。


 地下だけでおそらく百体ほど、その上や城の周りにはもっと多くいると考えられる。


(逃げるタイミングを逃したな)


 セスクを味方につけることを優先し、長話に付き合っていたが、裏目に出た。


 入口は魔物に塞がれている。


 天井に穴を開けて逃げるには時間がかかる。魔物たちは攻撃を待ってくれないだろう。


 アッシュが重力を上乗せしたハンマーで地面を破壊したとき、数回の打撃が必要だった。重力に逆らって天井に穴を開ける場合、その倍以上の時間がかかるはずだ。


「セスク、俺の魔力を増やしてくれ」


 ルリエ達は当然のようにレオルの発言に頷いた。


 ルリエとアッシュは魔力保有量に余裕があるし、チトセは魔力消費量が少ない。セスクの魔力増加を最も有効に使えるのはレオルだ。


 勝てる見込みは無いが、諦めるにはまだ早い。


 実際に魔力増加の効果を得れば、何か打開策が思い浮かぶかもしれない。


「ああ、構わないさ。僕に選択肢は無いからね。僕の命を君に託そうじゃあないか」


 セスクはそう言って、レオルに手のひらを向けた。


「ちなみに一つ言っていなかったことがあるよ。この魔法は一瞬で魔力を二倍に増やす。そして、倍になった魔力を次の一瞬で二倍にする。一秒も立たずに対象の魔力は千倍を超えるんだ。

 普通の人間には耐えられないねぇ。魔力保有量の限界を超えて、二度と魔法を使えなくなることもあるよ」


「えっ……そんな…………」


 ルリエ達の表情は絶望に染まった。


 レオルの魔力保有量は決して多くない。一般的な冒険者よりは上だが、メインアタッカーやメインガードをこなすには心許ない程度だ。


 セスクの魔法を受けたら、おそらく一秒も経たずにパンクする。


「そんな魔法……使えるわけがないじゃないですか…………」


「ストップだストップ! 自爆するだけだ! 役に立たねえ! 素の力で戦った方がマシだぜ!」


「オーブリー王女が『世界を救う力』ではなく、『世界を滅ぼす力』と言った意味がわかったわ」


 チトセは頭痛のように、目頭を押さえた。


 そうしている間にも、魔物たちはヒタヒタと近づいてくる。


 部屋があまりにも広いため、歩行で近づいてくる分にはまだ多少の猶予はあるが、新たな案を生みだすには短い時間だ。


「セスク、あなたの力は人間相手には使えないわ。魔力が二倍や四倍なら漏れ出る程度だけど、八倍以上になった時点で、普通の人間に耐えられるはずがないもの」


 チトセの言葉を受け、セスクはハハハと自暴自棄な笑い声をあげた。


「気付いてしまったようだね、賢いお嬢さん」


「ええ、気付いたわ。あなたが『世界を滅ぼす力』と呼ばれた理由、そしてこの地下に匿われていた本当の理由に」


 レオルもその答えに気付いていた。

 王家が何を恐れ、セスクを地下に匿っていたのか。


 魔力増加が有効な能力なら、大々的に世間に公表し、使いこなせる冒険者を募れば良かった。


 そうしなかったことには理由がある。


「あなたの力は、魔物なら使いこなすことができるわ。あなたが魔物の手に渡ると、人類は滅びる」


 ルリエが口を手で押さえ、悲鳴を漏らした。


 チトセが言った最悪の事態は想像に難くない。

 万が一セスクが魔物に脅されたり操られたりして、魔物に協力することになった場合、魔物一体とセスクで、半年もかからず地球を更地にできる。


 特大魔法を連発できる魔物なら、セスクの魔力増加に耐えられるだろう。


「そうさぁ。この窮地を乗り越えられないなら、魔力増加は使わない方が良いかもしれないねぇ。僕が力を隠して死んだ方が人類の為になるよ」


 セスクは目を見開き、金眼鏡で大きく歪んだ金色の瞳でレオルを覗き込んだ。


「決断するのはキミだよぉ。諦めて死んだ方が人類の為になるかもしれない。キミが命惜しさに悪あがきすれば、人類の余命はあと三か月になるかもしれない。どうするぅ? 盾使い」


 レオルは想像してみた。

 自分の魔力がコンマ一秒で二倍になり、コンマ二秒で四倍になり、一秒で千二十四倍になる感覚。


(限界はコンマ二秒から三秒の間か)


 コンマ一秒で平常時の全魔力を放出することができれば、理論上はパンクしない。

 しかし、それではこの数の魔物に有効な魔法は発動できない。


「問題ない。コンマ三秒になる寸前で、平常時の七百パーセントの魔力を消費する」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ