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52 最終章 五人目のメンバー


「錬金術師だな? 王に会うために力を貸して欲しい。俺達は王に、王城が魔物に支配されている理由を聞きたいんだ」


 レオル達が順番に名乗ると、男はセスク・フェルランドと名乗った。


 レオルは王女から預かっていた手紙を渡した。

 セスクはサラっと読むと、顔を上げる。


「王女が生きていたとは驚きだねぇ……。フッフッフ……嬉しい知らせだ。パーティでも開こうか?」


 セスクはワインセラーに手を向けた。いかにも高価なワインが三十本以上入っている。錬金術師は好待遇のようだ。


(手紙の内容を信じたような口ぶりだが、まだ疑っているかもしれないな)


 無意味な行動からレオル達の反応を見て、真偽を確かめようとしているのかもしれない。


「冗談はいい、時間が無いんだ。俺達の話を信じてくれるのか」


「君達があえて嘘をつくとしたら、こんな突拍子もない嘘はつかないだろうねぇ。王女が生きているって部分は確定かなぁ……。王女が生きているのなら、この手紙の内容は事実で、君達の目的も本当だということになるねぇ」


 セスクの緊張感のない話し方は、地下生活の弊害なのだろうかとレオルは考える。


 今は一刻を争う事態だ。とっとと結論を話して欲しい。

 そんな焦りを押し殺した。


 完全に信用を得るまでは、相手のペースに乗った方がいい。


「盾使いのキミ、一つ聞きたいんだが、王国が魔物に支配されているってのはホントかい?」


「知らないのか? ここに来るまでにも十体は見たぞ」


「僕は地下生活だからねぇ。食事を運んでくる侍女としか会話していないんだよ。城のことなんてサッパリさぁ」


「侍女は何も言わなかったのか?」


「もちろん言っていたよ。現実味が無い話だったんでねぇ、地下生活の僕をからかって遊んでいるだけだと思っていたよ。まあ、まだ半信半疑だけどねぇ」


 セスクはふざけた調子で話しながらも、金眼鏡越しに何度かレオル達の表情を確認している。


(抜け目ないな)


 侍女からしか情報を得られないセスクは、侍女の発言だけでなく、表情や仕草からも外の情報を得ようとしていたに違いない。


 知りたがるのは人間の欲求だ。それに抗うことはできない。

 地下生活だからこそ、磨かれた人間観察の眼があるのだろう。


(情報が欲しいなら、与えてやろう)


 レオルは話す時間を惜しむよりも、時間をかけて話した方が信用を得られるだろうと考えた。


「俺達は音を消す魔法を使用し、魔物の包囲網をくぐり抜け、城に穴を開けてここまで来た。穴は直に見つかるだろう。そうなれば少なくとも十体以上の魔物がこの部屋に押し寄せてくる」


 セスクは前のめりになった。その目は輝いている。

 魔物の恐怖を知らないセスクにとっては、冒険譚を聞くような気分なのだろう。


(食いついたな。これでいい)


 冒険者の口から紡がれる生々しい冒険譚だ。しかも物語は現在進行している。


「俺達はクレーシュ国を代表するパーティで、数々の伝説の怪物を倒してきた。王女の手紙の言葉にもあるように、世界を救う可能性があるとオーブリー王女に認められている。

 しかし、そんな俺達でも複数の魔物と戦った経験は無い。二体や三体なら勝てるかもしれないが、十体が相手ならまず間違いなく負ける。あんたも含めてここにいる全員、死亡確定だ」


 レオルが初めて敗北を口にしたことで、ルリエ達は不安げな表情をした。


 しかし、レオルは不安を吐露したわけではなかった。

 セスクの反応を見るためだ。


 王女の言葉を信じるなら、セスクは世界を滅ぼすほどの力を持っている。


 しかし、それはポテンシャルの話かもしれない。

 セスクが百パーセントの力を今ここで発揮できるとは限らない。条件付きの可能性も十分ある。


 セスクの表情、発言から、魔物と戦う鍵になるかどうか見極める必要があった。

 もしもセスクが役立たずなら、部屋の天井に穴を開けて離脱し、戦力を整えてから出直した方がいい。


 最悪の事態を考えていると、セスクは余裕の表情で笑った。


「フッフッフ……僕の力を図ろうとしているのか。面白いなぁ。僕は魔物の強さを知らないし、僕自身が他のサポーターと比べてどれほど強いのかはわからない。いくら僕から情報を探ろうとしても無駄だよ?

 それに、戦うのは僕じゃない。君達だ。君達の強さが僕の運命を左右する」


「一蓮托生ということだな。それなら互いの能力を明かすべきだ。セスク、お前の能力は何だ?」


「金を生みだすんじゃないの?」


 チトセが口を挟んだ。


 セスクはぷっと吹き出すと、声をあげて笑い出した。


「金を……生み出す……ハハハハハ!」


 セスクはヒーヒー言いながら涙を流している。


 チトセはむっとした表情になる。


「すまんすまん。馬鹿にしたつもりじゃないんだ。けど、金を生みだすなんて能力は、戦闘でクソの役にも立たないだろう? それで戦うところを想像したらおかしくてねぇ」


「錬金術師は金を生みだす職業ではないのですか? 一般的な伝説では、そのように言われていますが……」


 ルリエが問いかけると、セスクは金眼鏡を掛け直した。


「『金を生みだすほど価値がある』という意味でつけられたのさ。実際に金を生みだすわけじゃあない。この世でただ一人、僕だけが使える固有魔法がある。その魔法は金を生みだすほどの価値があるんだよ」


 セスクはもったいぶってタメを作ると、仰々しく言った。


「『魔力を増やす魔法』、それが僕の使える固有魔法だ」


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