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51 最終章 王城


 内壁は十メートルほどの高さがあり、およそ一キロ四方ほどの敷地を囲んでいる。王城はこの向こう側だ。


 アッシュが一足先に壁を駆け上がり、少しすると、上にいた兵達が塀の上から落ちてきた。


 ドサッ…………。ドサッ…………。


(倒したようだな)


 兵達は芝生に背を打つと気絶した。監視役のため、戦闘力は低かったようだ。


 レオル達は再び魔法で浮かび、塀を越えて、敷地内へ侵入した。


 一般市民が足を踏み入れたら問答無用で極刑にされてしまうほど危険なエリアだ。

 敷地内は王の趣味なのか、多くの草木が生えている。


 木々の隙間から王城と兵の姿を確認すると、全員が目を見開いた。


「そんなっ……!」


 ルリエの小さな悲鳴が聞こえた。


 無理もない。


 内壁の中にいた兵は人間ではなく、魔物だった。


 肌の色は紫や緑色だ。

 拳が異常に大きかったり、四足歩行だったり、身体的な特徴が人間とは異なる者も多い。


(なぜ王家の敷地に魔物が……?)


 答えは出なかったが、事前に立てていた作戦通り、ルリエが音を消す魔法を発動した。


 この魔法はレオルがルリエと出会ったときに知った思い出深い魔法だ。戦場の雑音を消すことで、味方の声を聞き取りやすくすることができる。


 その発想に好感を抱いたレオルはルリエとパーティを組んだ経緯がある。


 これまでルリエは宣言せずに消音魔法を使用していることが多かった。


 打消し魔法を使用するときの『打ち消します』という宣言は、消音魔法を解除しますという意味も持っていた。


 合図無しに消音魔法を解除すると、口頭で連携を取れなくなり、混乱するリスクがある。

 言い換えれば、それほど有用な魔法ということだ。


 かつては音を軽減する程度の効果だったが、現在はジャコランタンの杖により、完全に消音できるようになっている。一定の空間を膜で覆うようなイメージだ。膜の外から内、内から外への音は一切漏れない。


 魔物達は侵入者の存在に気づいているようだが、消音魔法のおかげで、レオル達の位置までは特定できていないようだ。


「なぜ魔物が王城にいるのですか……!? しかも見えている限りで十体。見えないところにもっといるということですよね……!?」


「王家は魔物に支配されていたということだろう。王が王女から隠そうとしていた秘密はこれだな」


「でも、世界は問題なく回っているわよね……。魔物が支配しているのになぜ……?」


「ややこしい話は王様に聞いてみようぜ」


 レオルはアッシュの提案に頷いた。


「できるだけ魔物に気付かれないように突破しよう」


 レオル達は全速力で城に向かって走った。ルリエが音を打ち消しているため、草木で擦れる音を立てても問題ない。

 レオルはチトセを背負いながら先導し、魔物の死角を駆け抜ける。


 音は消えているが、風圧は消えていないため、至近距離に近づくのは危険だ。最低でもニメートルの距離を保つ。


 距離さえ保っていれば、堂々と後方を駆け抜けても気付かれない。

 魔物も人と同じく、音が無ければ背中側は意識の外になるようだ。


 レオルは魔物の紫色の肌や鋭い爪を間近で見て、改めて人間とは異なる生き物なのだと感じた。


 一体一体が上級の怪物と同等以上の強さを持っている。

 もしも気付かれてしまったら勝ち目はない。


 訓練によって恐怖に蓋をしていたレオルだったが、漠然とその圧を感じた。


 レオルはその蓋を固く閉じると、慎重かつ大胆に駆け抜け、城に辿り着いた。

 魔物はわずか五十メートルほどの距離にいる。レオル達は木々に隠れているが、いつ気付かれてもおかしくない。


「アッシュ、予定通り頼む」


「おう! 任せろ!」


 アッシュはハンマーをクルっと反転させた。

 大きく振りかぶり、何もない真っ白な壁へ振りぬく。


 ドゴッッッッッッッッッ!


 壁が砕け、白い粉が舞い、壁の破片がガラガラと音を立てて城の中に転がった。


「よっしゃ! 入り口ができたぜ!」


「いいぞ。先へ進もう」


 レオル達は穴をくぐり、城の中に侵入した。


 綺麗な大理石の床に瓦礫が転がっていて、靴がジャリジャリと音を立てる。


 廊下には誰もいなかった。


 左右には部屋が並んでいて、五十メートルほど先に広いスペースがある。そこまで行くと誰かと鉢合う可能性がありそうだ。


「地下への道を探している時間はないな。アッシュ、床に穴を開けてくれ」


「おう!」


「えっ、本当に?」


 チトセが驚きの声を上げた。


 床は人の体重を支える為、壁よりも頑丈に作られている。ハンマーで壊せるかどうかはわからない。


 レオルも半信半疑だったが、やって駄目なら次の手を打とうと考えていた。


 アッシュは両手でハンマーを持ったまま三メートルほどジャンプし、両腕を振り上げた。


 重力に遠心力を乗せて、地面に叩きつける。


 バキンッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!


 大理石に大きなひびが入り、小さな穴が空いた。


 その後も何度か叩いて穴を広げ、人が通れる大きさになった。


「よっしゃ! 案外壊せるもんだな!」


「ホントに開いたわね。すごいわ」


「よくやった」


 レオルが真っ先に下りて、三人が後に続く。


 地下は薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。


 一本道の廊下が続いているが、左右に部屋は無い。

 針の落ちる音すら聞こえそうなほど静かだ。


(この通路の存在自体が魔物に知られていない可能性もあるな)


 錬金術師が王家の切り札なら、魔物から居場所を隠そうとするだろう。

 レオルは考察しながら駆け出した。


「重要人物は緊急時、城に出入りしやすい場所にいるはずだ」


「城の出入り口の真下辺りですね!」


 城の中央の真下辺りに辿り着くと、廊下に一つだけドアがあった。


「入ろう」


「ええ、緊張しますね」


「錬金術師がいるといいわね……」


「魔物は出てこないでくれよ!」


 レオルは盾を握ったままドアノブをひねり、勢いよく押し開けた。


 バンッ!


 中は広々とした空間だった。

 他の部屋がないことから予想はついていたが、すべての部屋を繋げたほど広大なスペースだった。


 室内に何本も柱が立っている。部屋が広すぎるため、柱がないと天井を支えることができないのだろう。


 室内にはほとんど物が無かったが、部屋の奥、三百メートルほど先に男がいた。

 ソファに座って本を読んでいたようだが、レオル達を見上げると立ち上がった。


 レオル達は小走りで男に近づいていく。


 四十代の男だ。無造作な灰色のロングヘアで、顔の彫りが深く、金色の方眼鏡をかけている。

 服装は高級感のあるローブだ。地味なグレーを基調としながらも金色の刺繍が豪華な印象だ。


 男はレオルをジロジロと眺めると、フム……と渋い声を出した。


「王国の者ではないねぇ……。僕に何の用だい?」


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