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50 最終章 王家の敷地内


 レオル達は翌日に旅立ち、十日間ほどの馬車移動の後、世界の中心『トレド』に辿り着いた。

 トレドは世界を治めている国であり、世界を意味する言葉でもある。


 栄えた街をそのまま馬車で進み、王の敷地の付近まで辿り着いた。


 高さ五メートルほどの塀が見渡す限り続いている。その内側が王家の敷地内だ。


 冒険者なら塀を飛び越えることは容易だが、不法侵入が見つかった場合は極刑もあり得る。それほどのリスクを負ってこの塀を飛び越える者はいないだろう。


「この辺りは門が遠いから警備が手薄だ。ここから入ろう」


 レオルが提案すると、王女が頷いた。


「どなたか私を運んでいただけますか? 魔法を使えませんので」


「王女様、わたしが浮かせます」


「ありがとう」


 ルリエが杖を下に向け、王女とチトセを浮かせた。

 レオルとアッシュは自身の魔法を使って塀を駆け上がり、一足先に塀の上まで上る。


 目に飛び込んできた光景は、見渡す限りの広い敷地と、それに見合わない少数の家だった。

 王家の関係者だけが住むことを許されている敷地のため、建っている家はどれも豪華だ。


 レオルは振り返り、人に見られていないことを確認した。


(監視の目は無いな。やはり都市ほどの広範囲は見張れないか)


 後から上ってきたルリエ達と一緒に塀の内側へ降りる。


「この辺りはまだ閑散としていますが、王城に近づくほど人や警備が増えます。王城に辿り着くまで、ある程度の戦闘は避けられません」


 レオル達は数十キロほど歩き、次第にレオルは王女の言葉を意味を理解した。


 敷地内の人口は数万人で、街の人々は不審者に敏感だ。誰もが王家に忠誠を誓っているため、不審者を王に近づかせたくないのだろう。


 レオル達は何度か住民に声をかけられたが、オーブリー王女が王家に働く家庭教師を名乗って対応した。


 疑い深い住民からは、敷地内の関係者にしか答えられない質問をされることもあったが、元々住んでいたオーブリー王女は難なく答えた。


 そうしてようやく街を抜けると、建物のない平坦な敷地が広がっていた。中央に内壁がある。内壁の向こう側に王城があるらしい。

 魔法兵が等間隔に数百メートル単位で立って見張っている。


「これ以上近づいたら身分証の提示を求められます」


「あらゆる魔法に対応できる監視だな。正面突破するしかなさそうだ」


 数キロ遠くから見渡している兵士達全員の目を欺くことは不可能だろう。たとえ遥か上空を飛んでいても気付かれる。


 身分証を住人から奪うという方法も考えたが、罪を犯していない人に手荒な真似はしづらい。

 また、身分証を奪ったとしても、そのことが発覚した場合、後方から兵士が迫ってくるというデメリットがある。


「王女はここまでで構いません。後は俺達で」


「わかりました。錬金術師は王城の地下にいます。彼に出会ったら、手筈通りに」


 レオル達は事前に王女から直筆の手紙を預かっていた。

 彼女の高い教養と知性を感じさせる文面で、レオル達の目的が記されている。錬金術師の信用を得るための切り札だ。


 王女がレオル達から離れ、レオル達は魔法兵に近づいていく。


 魔法兵は王直属の証である白と青のローブを着ていて、千年樹のレアな杖を持っている。歳は三十歳くらいとまだ若い。


「身分証のご提示をお願いします」


「ああ」


 レオルは懐に手を入れ、身分証を探っているふりをする。

 その隙にチトセが魔法兵の背後に回り込んだ。


「ごめんなさいね」


 バシュ………………。


 魔法兵は驚愕の表情で口を開いたが、声を発することはできず、黒線に包まれて地面に倒れ込んだ。


 チトセは人を殺さない程度に力を加減していたが、相手は王直属の魔法兵のため、最弱より二段階ほど高火力にしていたようだ。


 ここからは時間との勝負になる。レオル達が捕まるのが先か、錬金術師に辿り着くのが先か。そういった戦いだ。


 遠くに散らばっていた魔法兵達がレオル達へ向かってくる。見えている範囲で十名。

 向かってくる全員が一線級のため、油断したらやられる可能性もある。


「行こう」


「はいっ!」


「わかったわ」


「おうよ!」


 レオルとアッシュとルリエは自身に身体能力強化魔法をかける。魔法を使えないチトセはレオルが背負った。

 城までの距離はおよそ三キロメートル。全員で一直線に駆け出した。


「来るわ!」


 近くにいた魔法兵二名が左右から魔法攻撃を放ってきた。


 このような攻撃は想定済みだ。どこから包囲網に侵入しても挟み撃ちにされる配置だった。


「打消しますっ!」


 ルリエが右からの攻撃を打ち消し、レオルが左からの攻撃を盾で弾く。

 すかさず前方三百メートル辺りに三人の魔法兵が立ちふさがった。


「アッシュ、頼んだ」


「おうよ!」


 アッシュは一足先に突っ込んでいく。


「ハンマー使いだと?」


「馬鹿なことをっ!」


「止まれっ!」


 三人の魔法兵は一斉に杖を振り下ろす。


 アッシュは突然スピードを上げ、攻撃を躱し、魔法兵達の間に入り込んだ。


「なっ……速…………」


 ハンマー使いのスピードを想定していると、アッシュを捉えることはできない。


 通常のサブアタッカーの倍以上の身体能力強化だ。


 さらに、普段レオルと共に前線で戦い、一流の動きを目に焼き付けてきた経験もある。


 ドガガッ…………ガッ…………!


 回転しながら一振りで二人を倒し、もう一振りで最後の一人も倒した。


「よっしゃ!」


「視界良好だな」


 レオル達はルリエのペースに合わせて速度を落として走っているが、魔法兵達より速いため、追いつかれる心配は無さそうだ。


 一日の大半を見張りに割いている魔法兵と、一線級のクエストを日々こなしているルリエの差だろう。


「止まれっ! 貴様ら!」


「ここは通さんぞ!」


 前方の左右から別の魔法兵が近づいてくる。奥にいる者ほど年配のようだ。


「右だ」


「おう!」


 レオル達は斜め右に進路を取り、アッシュが右にいた魔法兵を倒す。


 左の魔法兵が魔法攻撃を放ってきたが、レオルが盾で防いだ。


「放っておくと厄介だな。チトセ、左を倒してくれ」


「わかったわ」


 レオルは左に進路を変えると、魔法兵に近づいた。


 熟練の風格のある魔法兵が杖を振ったが、レオルは難なく躱して背後を取る。


「ごめんなさいね」


 チトセが魔法兵に触れた。


 バシュ………………。


 魔法兵は倒れ、レオルはスピードを上げて元の進路に戻る。


 その後、無事に三キロほどの道のりを駆け抜け、内壁に辿り着いた。


「正面突破成功ですね!」


「なんとかなったわね」


「思ったほど強くなくて助かったぜ」


「まだ息をつく間はない。塀を越えよう」


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