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47 トレント ~王子の謝罪編~


 魔物はトレント達の群れに紛れて攻撃魔法を使用した。

 それはつまり、このまま空に浮かんでいれば交戦を続けられるということだ。


 魔物の位置がわかっているため、再び地上戦をやり直すよりも勝算があるとレオルは考えた。


「ルリエ、速度を落としてくれ」


「え、いいんですか? また魔物に攻撃されてしまいますよ?」


「問題ない。俺が防ぐ」


 ルリエは杖を斜め下に向けて速度を落とした。


 アッシュとチトセも首を傾げる。


「本当にいいのか? オレ達が空にいる限り、敵は狙いたい放題だぜ?」


「次はレオルの防御を破るために、もっと大きな攻撃をしてくると思うわ。球壁だと破られちゃうかもしれないわよ」


「ああ、それでいい」


 レオル達の斜め下辺りから魔力がブワッと広がる気配があった。


 レオルは魔力の位置を把握し、盾を構える。


「来ましたっ! 近いです!」


「まずいわ……特大魔法よ……」


「本当に大丈夫なのか!? レオル!?」


「狙い通りだ」


 敵は射程の短い特大魔法を使うため、接近してくるだろうとレオルは予想していた。


 近距離なら、攻撃を反射して当てることができる。


 そして、一瞬でも魔物を怯ませることができれば、魔物と直接戦うことができる。


 ゴウッ………………。


 地上から黒く渦巻く特大魔法が近づいてきた。


 レオルはサンダーバードの盾から五メートル四方の『反射壁』を発動した。


 五メートル四方の金色の壁に敵の特大魔法が衝突する。


 バヂッッッッッッッッッッッッッン!


 黒い渦は反射壁で跳ね返り、地上に墜落した。


 ドッッッッッッッッッッッッッッ……。


「弾き返したの!? すごいわ! こんな体勢の悪い空中で、反射壁を当てたの!?」


「トレント達を三十体くらい倒しましたよ! レオル様、さすがです!」


「魔物があそこにいるぜ! チャンスだな!」


 トレント達が吹っ飛んだことで、隠れていた魔物が姿を現した。


 防御魔法を発動していたらしく、無傷だが、やや怯んでいる。

 

「ルリエ、俺にかけてる飛行魔法を解除してくれ。先に地上に行く」


「わかりましたっ!」


 フッ……と足元の感覚が消えて、レオルは急降下した。


 十メートルほど落下して、魔力で衝撃吸収して着地する。


「クソッ……! ニンゲンめェ! 仕切り直しだァ!」


「逃がすかっ」


 レオルは半球壁を発動し、魔物と自身を包み込んだ。


 半球壁は外側からの攻撃はもちろん、内側からの攻撃も通さない。


 魔物は半球壁を破らない限り、外に逃げることはできない。


「クヒヒヒヒ……オマエは馬鹿なのかァ……? ニンゲンは一度に一つしか魔法を使えない。オレを捕えるために魔法を使ったら、どうやって攻撃を防ぐんだァ?」


 魔物は緑色の顔にニタリと笑みを浮かべながら、指先の蔓をシュルシュルと動かした。


 レオルはフッと余裕の笑みで返す。


「盾で防ぐだけさ」


「防げるものならなァッ!」


 魔物は指先の蔓を伸ばしてきたが、レオルは横っ飛びで躱す。

 さらに、魔物が手のひらから放った攻撃魔法を左手の盾で防ぐ。


 三十秒ほど、レオルは盾のみで魔物の攻撃を防ぎ続けた。


「クヒヒヒヒ……さすが噂のレオル・アクレス……やるなァ……! だが、オマエに攻撃手段は無いッ……! このまま戦い続けていれば必ずオレが勝つのさァ……!」


「攻撃手段ならある。お前はもう終わりだ」


 レオルは魔物の後方を指さした。


 魔物がハッとなり、後ろを振り向くと、そこにはハンマーを振りかぶったアッシュがいた。


「な……なぜ内側に…………」


「入り口は作れるんだぜ」


 アッシュの後方には、杖を構えたルリエがいた。

 半球壁の一部が打ち消されていて、ぽっかりと丸い穴が開いている。


 アッシュは横薙ぎにハンマーを振り降った。


 ドゴッッッッッッッッッ!


 魔物の体がくの字に折れる。


 すかさず、半球壁の穴から駆け込んできたチトセが魔物の緑色の背中に触れた。


 バシュッ……………………。


 魔物は硬直すると、コテンと地面に倒れた。


「やりましたねっ! レオル様、反射壁からの大逆転ですっ! 素晴らしい作戦でした!」


「レオルが魔物を足止めしてくれたおかげね。魔物と追いかけっこしていたら、狩るのに何か月かかっていたかわからないわ。半球壁にこんな使い方があったなんて、さすがの対応力ね」


「さすがレオルだぜ! 圧勝だったな! トレント達が逃げていくぜ!」


 生き残っていたトレント達は、森の方へ向かってゾロゾロと歩いていく。

 魔物の操作から解放されたらしい。


 レオル達がトレント達の大移動を見届けていると、城の方からエマ姫とアルバート王子が駆け寄ってきた。


「そんな馬鹿な……!? トレント達が去っていく……! お前達が元凶を倒したのか……!?」


「何を言っているのですか、アルバート。あなたも見ていたでしょう」


 エマ姫はレオルを見つめ、ふっと柔らかい笑みをこぼす。

 

「あなた方の戦い、城から観させていただきましたよ。思わず心が躍ってしまうほど素晴らしい戦いでした。国を救ってくださり、心から感謝申し上げます」


 エマ姫はそう言うと、深くお辞儀をした。


 顔を上げると、アルバート王子を窘めるような目で見る。


「アルバート、彼らに言うことがありますね?」


 王子はバツの悪そうな表情になり、レオル達に頭を下げた。


「はい…………あなた方を侮辱したこと、心からお詫び申し上げます。私が浅はかでした。あなた方は立派なパーティです。私のような未熟な剣士には、あなた方がこれほどの実力を備えていらっしゃるとは想像もできませんでした……。申し訳ありません……」


 一国の王子が冒険者に頭を下げて謝罪するなど、あり得ないことだった。


 ルリエ達は驚愕の表情で、頭を下げる王子と謝罪を受けるレオルを交互に見る。


 エマ姫は柔らかい表情を浮かべながらも、王子の頭に手を置き、頭を上げられないようにした。


「弟の無礼をお許しください。国を救うために来てくださった英雄にあのような態度を取るなど、王家の恥です。私から折檻しておきます。王からも厳しい罰を与えて貰いましょう」


 レオル達が執事に案内されて城の中に入るまで、姫は王子の頭から手をどけることはなかった。



 * * * * *



 レオル達は王城の一室に招かれ、食事をご馳走されていた。

 専属のシェフが運んでくる料理はどれも凝っていて味わい深い。


 しばらく経つと姫が一人のシェフを連れてやってきた。

 シェフは黒ラベルに金字の入ったボトルのワインを持っている。


「皆様にお詫びの品をお持ち致しました。ぜひお飲みください」


 シェフがレオル達のグラスに赤ワインを注いでいく。


 姫に「どうぞ」と言われて一口飲むと、極上の香りが鼻孔を通り抜けた。


 繊細な舌触りとは裏腹に、強烈な主張がある。


 まるで、上品さと高貴さを兼ね備えている姫のイメージが浮かぶような味だった。


 人生で飲んだことのある最上級のワインを三段階ほど上回る衝撃だった。


「このワインは……?」


 敬語も忘れて尋ねると、エマ姫は何気ない口調で言った。


「アルバートが命の次に大切にしていたワインです。シャトー・ラフィット・ロートシルト。最高傑作と呼ばれていて、値段をつけられるような代物ではありません。十年以上かけて奇跡的に手に入れましたが、もう二度と手に入ることはないでしょう。

 彼への折檻とあなた方へのお詫びを兼ねています。これに免じて、愚鈍な弟をどうかお許しください」


 レオルはすでに謝罪を受け入れていたつもりだったが、エマ姫はまだ王子の無礼を許していなかったようだ。


「もちろん、これは私からアルバートへの罰です。王からの罰はまた別にあることでしょう」


 一国の王子は一つ一つの行動に責任を取らなければならない。

 エマ姫の容赦の無さは、弟を想うが故なのだろうとレオルは思った。


 レオル達は食事と共に極上のワインを楽しみ、食後の一杯で最後の一滴まで飲み干した。


「この度は、国を助けてくださりありがとうございました。強力な魔物を倒し、百体以上いたトレント達を追い払ってくださったことは、メールス国の歴史に刻まれることでしょう。クレーシュ国とは今後も仲良くさせてください」


「俺はただの冒険者です。国のことはナタリー姫に」


 レオルが答えると、エマ姫はふっと笑った。


「ええ、そうですね。ですが、あなた方はこの国の王子よりも立派な方々です。特にレオル殿、これほどのパーティを纏めているあなたには王の資質があります。今度メールスでパーティを開く際には、是非ナタリー姫と一緒にいらっしゃってください」


「是非、参加させていただこう」


 レオルが答えると、エマ姫は約束を強調するかのように、レオルの手に両手を重ねた。


 彼女は酒を飲んでいなかったが、そのオレンジ色の瞳はとろんと溶けてるように見えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] レオルの戦略があるからこそ、討伐出来たようなもの。 これが碧撲の徒だったらそうは行かないよね。というか、途中で分断されて各個撃破されるんじゃないかな? あと、対碧撲の徒③は「プチざまぁ」…
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