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44 白創の古 vs 碧撲の徒④ ※ざまぁ回


 一方的な展開に、観客はどよめいている。

 残るはブリエル・サーキンただ一人だ。


(さて、こいつをどうするか……)


 レオルは彼女を攻撃するかどうか迷っていた。

 戦闘開始前、レオルはブリエルから「私に攻撃したら、大げさに痛がってイメージを悪くする」と脅されている。


 正当な決闘の場と言えど、四対一になった状況で、男のレオルやアッシュが彼女を殴り倒すのは、あまり良い絵面ではない。


 レオルはしばらく考えた後、チトセに任せることに決めた。


(実力的には十分勝てるだろう)


 チトセはブリエルから「ちんちくりん」と馬鹿にされていた。自分の手で決着をつけたい気持ちもあるだろう。


 チトセはスタスタとブリエルに近づいていく。

 その両手は黒々とした光を纏っている。


「ハッ! アンタみたいなちんちくりんに何ができるの? それ以上近づいたら撃つからね! 大人しくしてなよ!」


 ブリエルの杖の先端はチトセの手よりも大きな光を纏っている。

 光の大きさで威力を比べることはできないが、見た目のインパクトはブリエルの方が上だ。


 ブリエルは尖り帽子の下で、余裕の表情を浮かべた。


「ほら、止まりなよ。本当に撃っちゃうよ? メインアタッカーが倒れたら負けなのに、近づいてくるなんて馬鹿だねー!」


「撃てるものなら、撃ってみなさいよ」


 チトセは意に介さず歩き続ける。

 二人の距離は二十メートルほどに縮んだ。


「ちょっ、撃つって言ってんでしょ!? 馬鹿じゃないの!? 本当に撃つよ!」


「馬鹿はどっちよ。この距離で撃てるの?」


 チトセの指摘にブリエルはぐ……と言葉に詰まった。


 ブリエルの特大魔法は広範囲攻撃のため、近距離で撃ったらブリエル自身も巻き込んでしまう。


 ブリエルは必要以上に多くの魔力を練った上で、チトセに接近を許すという致命的なミスをしていた。

 怪物戦と対人戦の違いを理解していなかったことが原因だ。


 一方で、チトセはブリエルの弱点を見抜き、特大魔法に近づくという大胆な戦法を取った。対人戦経験の浅さを、胆力と冷静さでカバーしている。


(やはり、チトセの方が上だな)


 冒険者としての経歴はブリエルの方が長いものの、戦況はチトセが優勢だ。


「ねえ、『ビビッて半泣きしながら降参するのがオチ』って言ってたわよね。あたしを臆病者扱いしてくれたこと、忘れてないわよ」


「ホントのことだよ! アンタは本当はビビってんでしょ! 私はアンタに負けるくらいなら、自滅覚悟で特大魔法を食らわせてやるんだから!」


「それなら早く撃ちなさいよ。あなたが撃っても撃たなくても、あたしはこの呪術を食らわせるつもりよ。呪術はあなたの魔法と違って、自滅する心配はないもの」


 チトセは両手を構えた。

 その瞬間、ブリエルは泣きそうな表情になる。


「ま、待って! 嘘嘘嘘! ごめんなさい! 降参! 降参するから!」


「聞こえないわ」


 チトセはゆっくりと両手を近づけていく。


 ブリエルはガタガタと震えながら、杖を落とした。

 地面にコロンと音が鳴り、先端の光が消える。


「嘘でしょ!? お願い! 許して! ごめんなさい! 馬鹿にしたことは謝るからぁ! 私が間違ってましたぁ! 許してくださいぃ……!」


 ブリエルは泣きながら、怯えた目でチトセを見つめた。


 チトセがあと数センチ手を伸ばすだけで、ブリエルは大ダメージを受けてしまう。


 呪術の威力を知らないブリエルには、気絶する程度なのか、再起不能になる程度なのかわからないだろう。


 レオルからすれば、チトセが人間相手に手加減をすることはわかりきっている。


 しかし、チトセの怒りを買ったブリエルは、チトセが全力で攻撃すると思っているのだろう。


 ブリエルは小動物のように怯え、チトセの両手を見つめている。


「ごめんなさいぃいぃいぃ…………。許してくださいぃいぃいいぃ…………。私の負けですぅ……キミにもレオルにも二度と手を出さないからぁ…………」


 ブリエルは震える唇で、情けない言葉を発しながら、地面に座り込んだ。


(演技ではなさそうだな)


 完全に戦意喪失していることを見抜いたレオルは、客席でヨタヨタと起き上がったジョゼを振り向く。


「俺達の勝利で構わないな?」


 ジョゼは頭を抑えながら、ガクンと首を折って頷いた。


 その瞬間。


「うおおおおおおおおおおおおお! 白創の古が無傷で勝利したぞ! 圧勝だ! 彼らの強さは本物だ!」


「さすが新世代のエースパーティだ! 碧撲の徒をこれほど圧倒するとは! 一人一人が強すぎるぞ!」


「レオルは碧撲の徒を抜けて、一人でこのパーティを作ったのか! なんというリーダーシップだ!」


「やはり強者の元には強者が集まるのだろう。実力的にレオル・アクレスは抜きんでているが、パーティメンバーも並の一線級ではない。全員がハイレベルの実力者達だ」


「クッ……碧撲の徒が負けるとは…………! しかし、これほど圧倒的な差を見せつけられたら、認めるしかない……。白創の古が上だと…………」


「サブアタッカーのキエルを瞬殺されたのが痛かった。白創の古は剣士に弱いメンバーが二人いたのに……。レオル・アクレスが強すぎるんだ……! あいつは反則級だ」


「さすがレオル様達です! ギルドを支えてくださっているエースパーティです! 皆さんが勝つと信じていました!」


 決闘によって、曖昧だった両者の実力差は明確になった。


 これまでは、戦闘に疎い一般市民は両者の実力を知らず、耳にした噂から漠然としたイメージを持っていた程度のはずだ。


 冒険者達は両者のクエスト実績を知っていたものの、両者の戦闘を生で見たことはなく、やはり想像でしか強さを測ることができなかった。


 公衆の面前で決闘したことにより、誰の目にも、両者に勝敗以上の実力差があることが明らかになった。


(ジョゼの自滅だな……)


 馬鹿げた喧嘩を吹っ掛けなければ、ジョゼ達はまだ尊敬される存在でいられたはずだ。


 ジョゼ達は自ら評判を落としたようなものだ。

 レオルは彼らにやや同情しながらも、呆れていた。



 * * * * *



 白創の古の皆は、レオルの新居に集まっていた。


 天井は吹き抜けで二階の天井が見える。広い空間にはヒノキの香りが漂っていて、窓から入る風が心地よい。


 中央のテーブルには、ルリエが調理した料理の数々が並んでいた。


「今日はパーティの成長を再確認するきっかけになったな」


「ええ、直前までは『碧撲の徒』に勝てるかどうか不安もありましたが、わたしたちは本当に強くなっていたんですね」


「あたしはあのピンク帽子に決着をつけられて良かったわ。戦わせてくれてありがとう、レオル」


「オレもジョゼに勝てて自信がついたぜ! サンキュー、レオル!」


 レオル達は皆でグラスを合わせて、レオルの家や決闘の話をしながら食事をした。


 レオルはこれまで、ルリエに奇抜な料理ばかり作るイメージを持っていた。

 しかし、それは普段レアな怪物ばかり調理しているからだったようだ。


 レオルの家にあった食材で作ったルリエの料理は、木の家の温もりに合った家庭的な味だった。


 心安らぐのを感じながら、レオルは仲間と半日の休息を堪能した。



中盤の山場まで読んでいただき、ありがとうございます。

もしも面白かったら☆を頂けると嬉しいです。

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