表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/59

42 白創の古 vs 碧撲の徒②


 レオル達は二線級クエストを難なくクリアし、半日でギルドへ帰還した。


「クリアしてくださったのですね! ありがとうございます! 本当に助かりました」


 受付嬢は嬉しそうにレオル達のクエスト報告を聞き、討伐したコボルドの棍棒を受け取る。

 そして手続きを済ませていると、隣から声がした。


「おい、レオル。二線級のクエストを受けるなんて随分と落ちぶれたもんだな? 俺達はついさっき一線級のクエストをクリアしてきたところだぜ?」


 別の受付嬢にクエスト終了報告をしていたジョゼが誇らしげにゴーレムの首を見せてきた。

 その後ろには碧撲の徒のメンバー三人もいる。


 細身で長身のキエルはフフフッ……と不気味に勝ち誇っている。若き魔女のブリエルはニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべている。低身長のダルフォンはレオルに敵意のある目を向けている。


(一応、クリアしたらしいな)


 碧撲の徒はレオルが抜けた直後、自分たちの戦力ダウンに気付かず混乱していたようだが、最近はなんとか持ち直し、一線級にしがみついていた。


 元々一線級のパーティなのだから、当然といえば当然だが。


 レオルはジョゼを相手にせずクエスト報告を続けていると、ギルド内にいた他の冒険者達がざわめき出した。


「白創の古はコボルドの群れを倒したんだろ? 碧撲の徒のゴーレム一体と大差ないんじゃないか?」


「そもそも、白創の古はもっと上級の怪物を何度も狩っている。今回は彼らの厚意でギルドの穴を埋めてくれただけだろう」


「クエストの難易度に差はないし、重要度でいえばむしろレオル達の方が上だったぞ」


「碧撲の徒の最近の成果はパッとしないからな。レオルが抜けてから上級の怪物を狩ったことがあったか?」


 そんな噂の声に、ジョゼは怒りの形相で振り返った。


 ギルド内を見回すが、しーんと静まり返っていて、噂の主達は見つからない。


「今噂してた奴らは新人冒険者か? 俺達の実力をわかってねぇようだな! 俺達は国中に名を知られている『碧撲の徒』だぞ!」


 ジョゼは大声を張り上げ、レオルの方へ近づいてくる。


「おい、レオル! 前からてめえの態度は気に食わなかった! そろそろ白黒はっきりつけようじゃねえか!」


「何を言っている」


 怒りに満ちたジョゼの目をレオルは冷静に見つめ返す。


「決闘だ! お前達と俺達でパーティの名誉を賭けて戦おうじゃねえか! どっちが強いかハッキリさせるぞ!」


 ジョゼの言葉にギルド内は「うぉおおおおおおおおおおおお!」と盛り上がった。


 碧撲の徒は腐っても古豪であり、かつての伝説によって根強い人気がある。


 現在のトップは名実ともに白創の古だが、「調子を取り戻せば碧撲の徒の方が強い」という声も稀に上がる。


 両者のどちらの方が強いかという議論は、冒険者達の酒の席などで頻繁に交わされている。


 ときには双方の派閥がヒートアップして喧嘩になることもあった。


 実際には起こり得ないと思われていた『白創の古』と『碧撲の徒』の決闘に、冒険者達が歓喜の声を上げたのも無理はない。


「絶対に勝つのは白創の古だ! 最近の成果を見れば一目瞭然! フェニックスすら狩ったんだぞ!」


「碧撲の徒には絶対防御のジョゼがいる! お前達はかつての伝説を知らないからそんなことが言えるんだ! あの伝説が蘇るぞ!」


 そんな盛り上がりを無視して、レオルは冷静に答える。


「断る。俺達に何のメリットもない。決闘よりもクエストをこなした方が有意義だろう」


「逃げるつもりか? ああ、お前の仲間は足手纏いばっかりだもんなぁ!? 物理攻撃を防げねえ打消し魔法使いに、ノロマなハンマー使い、極めつけは遠距離攻撃ができねえメインアタッカーだ!」


 レオルは怒りを覚えたが、くだらない挑発だと心の中で一蹴した。


 すると、ジョゼ派と思われる冒険者達が盛り上がり始めた。


「ジョゼの言う通りだ! 白創の古は得意不得意の激しいメンバーばかりだぞ! 総合力なら碧撲の徒の方が上に違いない!」


「確かに、改めて聞いてみると、あんなメンバーで色々な怪物に対応できるわけがないぞ! きっとこれまで得意な怪物ばかり狩っていたんだ!」


「対人戦をすれば実力差がハッキリしてしまう! だからレオルは対戦を避けようとしているんだ!」


 レオルは安い挑発には乗らず、はぁ……とため息をついた。


 ギルド内にはレオルを慕う者は多く、一部のジョゼ派から悪く思われていようとあまり影響はない。


 そもそも、ギルドの全員から好かれようというのは無理だ。

 ジョゼ派に好き勝手に言わせた方が、彼らの毒気が抜けていいだろう、くらいに思っていた。


 しかし。


「ジョゼ、俺の仲間を悪く言うな」


 気づくと、レオルの口からはそんな言葉が出ていた。


 やはりジョゼの言葉には怒りを感じていて、その怒りの炎は徐々に大きくなっていた。


「てめえの仲間が無能じゃねえと言うなら、決闘で証明してみやがれ!」


 ジョゼの言葉にギルド内が再び盛り上がり始める。


 碧撲の徒のメンバーは優勢だと思ったのか、すでに勝ち誇ったような表情でニヤニヤしている。


 アッシュとルリエとチトセが前に出て、レオルの横に並んだ。


「レオル、やるならオレは文句ねえぜ!」


「わたしはどちらでも構いません。レオル様の意思を尊重しますよ」


「決闘なんてくだらないけど、あまり好き勝手なことを言われたくはないわね」


 アッシュは好戦的で、チトセはどちらに転んでもおかしくない、ルリエは中立だ。

 レオルはリーダーとしてどのように判断すべきか考えていた。


 すると、若き魔女のブリエルがレオルの方に近づいてきた。派手なピンク色の尖がり帽子が左右に揺れる。


「ねえレオルー、やっぱりコイツら足手纏いなんでしょー? 特にこの黒服のちんちくりんなんて役に立たないでしょ? あたしの方が絶対強いよー」


「ちんちくりん……?」


 チトセの黒い瞳に怒りが生まれたのをレオルは感じ取った。

 チトセはあまり怒りを表に出さないが、沸点は低い。


 ブリエルの暴走は止まらない。


「ねぇねぇ、レオル。やっぱあたしらのパーティに戻っておいでよー。前のことは水に流してさー。いつでも歓迎するよー?」


 ブリエルがレオルの腕を掴んで、ぎゅっと引っ張った。


「前にも言ったが、俺に戻る気はない」


「そんなこと言わないでさー。私達のところに来た方が美味しい思いできるよー?」


 ブリエルはグイグイと近づいてきて、レオルの腕を強く引っ張る。

 すると、ルリエが間に割って入った。


「レオル様、やっぱり意見を変えてもいいでしょうか? わたしも決闘には賛成です。以前の盗賊戦のように、対人戦が今後発生することも考えられます。普段わたしたちは対人戦の訓練をしていないので、このような機会は貴重ですよ。相手が『碧撲の徒』の皆様なら相手にとって不足はありません」


 ルリエが淡々と長文を話したが、声音は冷たく、青い瞳は氷のようだった。


(なぜ急にやる気になったんだ……?)


 レオルは首を傾げたが、三人ともやる気のようだったので、断る理由は無くなった。


「わかった。引き受けよう」


 うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 レオルの一言にギルド内の全員が盛り上がり、受付嬢達ですらキャーキャーと悲鳴をあげた。

 ジョゼは満足そうに鼻を鳴らす。


「明日、中央の広場に来い。ルールは実践を想定して『メインアタッカーが戦闘不能になったら負け』だ」


「構わない」


 実践ではメインアタッカーという攻撃手段を失ったら、勝利は不可能になる。


 しかし、対人戦ではサブアタッカーがいれば攻撃は成り立つ。


 決闘はどちらを想定したルールも存在するが、いずれにせよ、レオルは仲間を一切傷つけさせないつもりだ。


 白創の古の三人も自信満々の表情だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど、ここまで馬鹿だとは思わなかった。 「メインアタッカー」がやられたら負けって、要するに、遠距離攻撃が出来る攻撃役がやられたら負けって事だよね? 魔法を打ち消…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ