41 白創の古 vs 碧撲の徒① ※プチざまぁ回
「昨日、家が完成したんだ」
ギルドのテーブルにつき、レオルはルリエ達に伝えた。
レオルは王族に褒美として家を建てて貰っていた。一流の職人達が最高級の木をふんだんに使用して建てた、豪華さと木の温もりを両立した家だ。
「おめでとうございます! ついに完成したんですね! 今度見に行ってもいいですか?」
「もちろんだ。いつでも構わない」
「王城を建築した職人が建てた家なのよね。どんな家に仕上がってるのか楽しみだわ」
「ヒノキは強度も高いし、湿度にも強いし、香りも良い最高級の木だぜ。家一軒丸ごとヒノキで建てるなんて贅沢の極みだぜ」
そんな会話で盛り上がっていると、顔なじみの受付嬢がレオル達のところへ来た。
「あの……レオル様、聞こえてしまったのですが、お家を建てたのですか?」
「ああ、昨日完成したところだ」
「差し支えなければ教えていただきたいのですが……建てたのはこの街ですか?」
「もちろんだ」
「そうなんですね! では、この街で……このギルドで活動し続けるということですよね!」
受付嬢が満面の笑みになっている理由がわからなかったが、レオルは「ああ」と答えた。
「ありがとうございます!」
受付嬢は深々と九十度に頭を下げると、ギルドの奥へ消えていった。
そして少しすると。
「やったわ! レオル様はずっとこの街にいてくださるおつもりなのね!」
「私達の生活は安泰だわ! 懸命に働いてきた努力が報われたのね!」
「レオル様が白創の古を結成してくださってから、シュルナクは他の街のギルドから羨ましがられるようになったものね」
「いつ引き抜かれるかと不安だったけど、安心したわ! 今日はこのギルドの記念日にしましょうよ!」
受付嬢達のハイテンションな会話が聞こえてきた。
そして一分ほど経った頃。
「やったぁああああああああああああああああああ!」
ギルドマスターの歓喜の叫び声がギルドの奥から聞こえてきた。
チトセは頬杖からずり落ち、アッシュは飲んでいた水を吹き出し、ルリエはふふっと笑みをこぼした。
レオルは「何事だ?」と首を傾げたが、特に気にせず朝食を再開した。
そんな小さな事件も収まり、昼になった頃。レオル達は次に受けるクエストを探していた。
依頼表を次々と見ているが、これといって目立ったクエストは無い。
「うーん、微妙ね。どれでもいい気がしてきたわ」
「もう目瞑って適当に引くか?」
「さすがにそれは適当すぎますよ。ちゃんと選びましょう」
「まずは候補を五つ程度に絞るか」
そんな会話をしていたところ、突然、ギルドの受付の辺りから怒鳴り声が聞こえてきた。
「俺達に二線級のクエストを勧めてくるだと!? 馬鹿にしやがって! この素人受付嬢が!」
レオルが振り向くと、声の主は『碧撲の徒』のジョゼ・グラードだった。
碧撲の徒はレオルが抜けた後、過去の栄光のおかげでギリギリ一線級に留まっている。しかし、クエストを何度も失敗しているため、いつ二線級に落ちてもおかしくない状態だった。
それでもジョゼは二線級のクエストを受けることはプライドが許さないのだろう。
「碧撲の徒に相応しいクエストを持ってこい! 一線級パーティに相応しいクエストをな!」
「申し訳ありません! ですが、こちらのクエストは二線級の中では難易度が高いのです! 二線級で安全にクリアできそうなパーティは既に出払っていまして……できるだけ早めに解決していただきたいのです」
「知ったことか! そんな低レベルなクエストなどやってられん! 経験を積ませるためにも、二線級の並のパーティにやらせておけばいいだろう!」
「いえ、それが……並のパーティも他のクエストを受けていまして……。今は二線級の下位のパーティしか手が空いていないのです」
「だからと言って、碧撲の徒が受ける理由になるのか?」
ジョゼが凄んで見せると、受付嬢は渋々引き下がった。
レオルは二人のやりとりの中で、受付嬢の『できるだけ早めに解決したい』という言葉を聞き逃さなかった。
既に怪物が出現しているような緊急度の高いクエストなのだろう。
ギルド内では公開されていないが、同ランクのパーティでも実力はバラバラで、ギルドは各パーティのクエスト達成率によってその差を把握している。
二線級の場合、もうすぐ一線級に上がるパーティと、三線級から上がってきたばかりのパーティでは、同ランクとは言えないほどの実力差がある。
受付嬢の話を聞く限り、このギルドで手の空いている二線級パーティではクリアできないクエストなのだろう。
レオルは立ち上がり、受付嬢とジョゼの方へ向かった。
「そのクエストは白創の古が受けよう」
「え…………レオル様達が!? 二線級のクエストですよ!? いいんですか!?」
「ああ、今は手が空いている。緊急性が高いクエストなら、早めに解決すべきだろう」
受付嬢の目がキラキラと輝いた。それは後ろにいた他の受付嬢達も同様だった。
「ありがとうございます! 本当に困っていたところでした! 白創の古の皆様は本当に頼りになりますね!」
レオルがクエスト用紙にサインを書いていると、そのやりとりを見ていた他の冒険者達もざわめき出す。
「白創の古が二線級のクエストを受けたぞ……もっと報酬の良いクエストをいくらでも受けられるのに、ギルドを助けることを優先したのか……」
「やはり白創の古はこのギルドの誇りだ。いつだって彼らは、俺達にクリアできないクエストをクリアしてくれる」
「レオルはリーダーとしての実力も素晴らしいが、人格も素晴らしいな。迷わずあのような行動を取れるとは」
「さすがレオル様だわ。お強いだけでなく、心に余裕があるのよ」
そんな噂の声に気を悪くしたのか、ジョゼは不機嫌な表情になる。
「チッ……レオル、首を突っ込みやがって。こんな雑魚クエストを受けて何のつもりだ?」
「緊急性の高いクエストだ。被害が大きくなる前にクリアするのは当然だろう」
ジョゼはフンッと鼻を鳴らすと、受付嬢が持ってきた一線級のクエスト依頼表に乱暴にサインした。




