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40 フェニックス 後編


 そんな分析をしていると、フェニックスは口を大きく開いた。


「ルリエ、来るぞ」


「はいっ、打消します!」


 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ニメートルほどの体躯からは想像できないほどの業火が噴き出た。

 レオル達の前方十メートルほどで炎は消えている。


 その後、均衡状態は十分ほど続いた。


「攻撃が止みませんね……。わたしの魔力はまだ余裕がありますが、いつまで続くのでしょう」


「暑いわ……。このままじゃマズいわね……。体力的にジリ貧じゃないの」


 四人とも熱風を浴びて、服は汗でびしょ濡れだ。


「この攻撃が止むことはなさそうだな。奴は不死鳥だ。限界という概念は無いと考えられる」


 仮に魔力の限界があったとしても、自ら死んで蘇生すれば、完全な状態に戻ることができる。


 そのような性質であれば、魔法を永久に使い続けられる。


「幸い敵の攻撃は単調だ。時間はある。これが奴の戦い方ならば、俺達の戦い方をするだけだ」


 レオルは冷静に言い、状況を打破する方法を考え始めた。


 三人は意表をつかれた表情でレオルを見つめる。


「さすがレオルね。無限の魔力を相手にしても冷静でいられるなんて。おかげであたしも目が覚めたわ」


「レオルの言う通り、考える時間はありそうだぜ!」


「わたしの力はすべてレオル様に捧げます。この時間を有効に使ってくださると信じていますよ」


 そして三分ほど経った頃、レオルは現状を打破する方法を考え出した。


 レオルは各自に作戦を伝えると、三人は驚愕の表情を浮かべる。


「レオル様、本当にそんなことができるのですか!? レオル様の魔法は打消し魔法ではないのですよ!?」


「まじで信じられねえ……。けど、最後の詰めに関しては完璧だぜ」


「問題は最初の一手ね。一歩間違えたら丸焦げよ? 大丈夫なの?」


「問題ない」


 そう言うと、レオルは全身を魔力で包み込んだ。


 そして、打消しの効果範囲ギリギリまで歩き、そのまま炎の中に入っていく。


「レオル様っ!」


 ルリエの心配そうな声が聞こえるが、レオルは気配を殺すため、何も言わずに歩き続ける。


 魔力は炎に燃やされることはないが、分厚い布程度の耐熱効果しかない。


 魔力を纏った程度で、炎の中に入るなど無謀だ。通常ならあっという間に熱にやられてしまう。


 しかし、レオルは魔力を二層にして高速で渦のように動かし、二層の間に酸素の少ない状態を作り出すことで、熱伝導率を下げていた。


 レオルは気配を殺してフェニックスの後ろに回ると、反射性の魔力を放出した。


 バヂッ…………!


 フェニックスは炎を吹くのを止め、レオルを振り向く。


(やはり行動が単純だな)


 不死身のフェニックスは深く考えなくても戦える。失敗したら死んで生き返ればいい。そのような単純な思考こそがフェニックスの弱点だと、レオルは分析していた。


 ギィイイイイイイイイ!


 フェニックスの翼が燃え上がり、爆発的なスピードでレオルに襲い掛かる。


 レオルはウロボロスの盾で遅延空間を展開しながら、右手の盾で受け止める。


 ガキンッ…………!


「完全に動きが止まりました! さすがレオル様です!」


「ありがとレオル。絶対倒してみせるわ!」


「よっしゃ、いくぜ!」


 アッシュがハンマーを振り、フェニックスの纏っている炎を風圧で吹き飛ばした。


 剥き出しになった羽にチトセが触れる。


「勝負よ」


 バシュッ……………………!


 数百本の黒い線がフェニックスの体を包み込んだ。


 フェニックスはもがきながら、小さな炎になり、すぐにまた元のサイズに戻る。


 チトセは手を翳したまま歯を食いしばり、フェニックスの動きを見つめ続けた。


 もがき続けたフェニックスだったが、しばらくすると体の炎が消え、動きがピタリと止まった。


「ふぅ……勝てたのね……」


「チトセ、不死を倒したな。他のメインアタッカーにはできない仕事だ。誇りに思っていいぞ」


 レオルが褒めると、チトセはにっこりと笑い、レオルを見上げた。


「ありがと、レオル。あなたがいつも引っ張ってくれたから、あたしも強くなれたわ」


「チトセちゃん、すごいです! 本当にフェニックスを倒しましたね!」


「呪術が強くなってたな! 不死にも効くなんてすげえぜ!」


 その後、四人はしばらく和気あいあいと話していたが、ふと思い出したようにルリエがレオルを振り向いた。


「それはそうと、レオル様。炎の中に飛び込んでいましたけど。以前、もう危ないことはしないと言っていませんでしたか?」


「言ってたわよね。あたしも覚えてるわよ」


「あの熱をどうやって防いだんだ?」


「事前に伝え忘れていたな。特に危険なことはしていない。魔力を二層にして高速で動かすことで、真空に近い状態を作り出し、断熱効果を生み出したんだ」


 三人は何を言っているのかわからないという顔になる。


「魔力を二層にするだけでも相当な魔力操作の技術が必要ですよ……? さらにそれを動かして空気を放出するだなんて……。え、冗談ではないんですよね……?」


「すごい発想ね。そんな魔法聞いたことも無いわ。実際に炎に飛び込んだところを見てるから、信じるしかないけど……本当にすごいわね……」


「断熱までできちまうのか。炎系の敵には無敵だな」


 しばらく三人はレオルの言葉が冗談ではないことを確かめていたが、やがて納得したようだった。


 * * * * *


 レオル達は王族の城で立食パーティに参加していた。


 室内では、音楽に合わせて、魔導士が色とりどりの魔力を形作って見せている。


 中央のテーブルにはフェニックスの料理があり、『白創の古』と金文字で掘られたプレートが飾られている。


「フェニックスなど初めて見た……。まさか美食家の私が、生涯食べることを諦めていたこの料理に出会えるとは……」


「これを狩ったのはシュルナクの冒険者パーティらしい。高難易度クエストを次々とクリアしている英雄だそうだ」


「貴族として初参加のパーティで、挨拶代わりにフェニックスを持ってくるとは……数十年前の王を彷彿とさせる偉業だな……」


「碧撲の徒の名は聞いたことがあるぞ。リーダーのジョゼは貴族候補だったが、まさかサブガードのレオルがここまで上り詰めてくるとは……誰も予想できなかった展開だ」


「しかし……彼らの優秀さに疑いの余地はありません。私は先ほど彼らに挨拶して参りました。彼らに顔を売り込んでおいて損はありませんよ」


 そのような噂を耳にしながら、レオルが料理を食べていると、会場が騒めきだした。


 姫がレオル達に向かって歩いてくる。


 ウェーブのかかった薄い色の金髪。白のドレス姿のナタリー・アマーリエ姫だった。


「白創の古の皆。お久しぶりです。フェニックス討伐の褒美を持ってきました」


 姫の後ろから執事がキャスター付きのテーブルを運んでくる。


 テーブルには淡く光るオレンジ色の液体の入ったグラスが乗っていた。


「フェニックスの血を王家の魔導士が特殊な技術でポーションにしたものです。真偽は不明ですが、長寿の効果があると言われています。あなた方がいつか、あらゆる脅威から国を救うと信じて、授けましょう」


 レオル達がグラスを取ると、姫は去っていった。


 レオル達は互いにグラスを合わせ、甘いポーションを飲んだ。


 体の奥から魔力が沸き上がり、レオルは僅かに魔力保有量が増加しているのを感じた。


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