39 フェニックス 前編
「白創の古の皆様、貴族の証が届きましたのでお渡し致しますね」
レオル達がギルドのテーブルでくつろいでいたところ、受付嬢が小さな箱を人数分持ってきた。
「そういえば、そんな話があったな」
白創の古は王の裏山にいたウロボロスを討伐し、ドラキュラから姫を守り、年に一度しか現れないジャコランタンを討伐した。これらの実績を積み重ねたことで貴族階級を与えられた。
高級感のある黒い布製の箱を開けると、太陽のような印の掘られた金色のバッヂが入っていた。
「綺麗ですね。わたしは本物の金を初めて見ました」
「さすが貴族の証ね。この重さからして、素材のほとんどが金よ」
「小さすぎて無くしそうだぜ。気を付けねえとな」
皆胸元にバッヂをつけて、少しすると満足して箱に戻した。
「皆様は正式に貴族として認められましたので、さっそく王族の歓迎パーティに招待されています。クエストを優先するなどの理由があれば断ることもできますが、いかがいたしましょう?」
「クエストは一日くらい休んでも構わないさ」
「はいっ! せっかくですから、参加したいです!」
「そうね。こんな機会滅多にないもの。一生の思い出になるわ」
ということで、レオル達は王族のパーティへの出席が決まった。
その後、受付嬢に当日のことについて説明を受けた。
「ちなみに、王はパーティを盛り上げるため珍しい食材を募っているそうです。メインの食材に選ばれると、ご褒美を貰えるそうですよ。こちらはあくまでも自由参加ですが」
「珍しい食材か。何か良さそうなクエストはあるか?」
「では、候補になりそうなクエストをお持ち致しますね」
受付嬢が持ってきたのは、クラーケンやサラマンダーといった難易度の高い怪物の討伐クエストだった。
その中でも一際目を引いたのは。
「フェニックスの討伐クエストか」
「そ、それは一応持ってきたのですが……討伐不可能の怪物です」
受付嬢の話した詳細はこうだった。
とある洞窟の奥に住んでいる怪物『フェニックス』は、別名『不死鳥』と呼ばれている。
これまで数々の冒険者が討伐に挑んだが、倒しても復活するため、討伐に成功した者はいない。
洞窟で休もうとした冒険者が襲われることも多いため、できれば退治したいとのことだった。
「ねぇ、レオル。このクエスト受けさせてくれない?」
チトセがレオルを真っすぐ見つめる。
「あたしはもっとレオルの役に立てるように、呪術の修行を続けていたの。最近、強くなってきた感覚があるわ。成長したあたしが不死鳥に通用するか、試してみたいの」
レオル達がチトセの故郷でケルベロスに勝利したとき、チトセは呪術の書を入手した。
呪術は魔力を『呪』に変換し、必要な『呪』を順番に重ねていくことで完成する。
チトセの村に広まっている呪術はその手順が省略されているが、チトセが入手した呪術の書には未省略の手順が載っているという。
(チトセが言うなら八割方は通用するだろう)
レオルはチトセの才能や努力を評価していた為、すぐに頷いた。
「クエストを受けよう」
「ありがと! レオル!」
「よっしゃ! 久しぶりの高難易度クエストだぜ!」
「もしも狩ることができたら、パーティでも目立ちそうですね」
ということで、レオル達のフェニックス狩りが決定した。
レオル達は四つ先のヨズガドの街へ行き、フェニックスが出現したという洞窟へ向かった。
洞窟の中は暗く、ひんやりしている。
しばらく歩いていくと、徐々に温度が上がっていき、広い空間の中央にフェニックスがいた。
全長は二メートルほどの中型で、全身に炎を纏っている。
ギギャアーーーーーーーーー!
フェニックスはレオル達に目を向けた瞬間、ルリエに向かって一直線に飛んだ。
バヂッ…………!
瞬時に進路に入ったレオルが反射性の魔力で弾くと、フェニックスは五メートルほど後方へ吹っ飛び、地面を転がる。
ムクリと起き上がると、威嚇するようにバタバタと翼を動かす。
「レオル様、ありがとうございます! 助かりました!」
「あんなに吹っ飛ぶなんて。やっぱり反射の盾は強いわね」
「近づくだけで熱いぜ……! 思ったより厄介そうだな!」
フェニックスは身長ニメートルとはいえ、空を飛ぶため、ニメートルの地上の生物より体重は軽い。
レオルは瞬時に分析し、止めるよりも弾くことを選択した。
また、炎によって広範囲に攻撃されるため、魔法を使わなければ、盾だけで防ぐことは厳しいと感じていた。
「アッシュ、来るぞ」
「おう!」
先ほどより勢いよく飛んできたフェニックスを、レオルは再び防ぐ。
バヂッ………………!
弾かれたフェニックスは空中でデタラメに回転しながら、アッシュの方へ吹っ飛び。
ドゴッ!
ハンマーがフェニックスの腹の辺りを捉えた。
フェニックスは壁にぶつかり、地面に落ちる。
「やったぜ!」
「勝ちましたね!」
「一撃?」
と三人が安堵した直後。
ボッ…………。
フェニックスの体は炎に溶け込み。
ボォオオオッ…………!
燃え上がる炎の中から再び姿を現した。
「やはり蘇生したか」
フェニックスが不死鳥と呼ばれる所以を考えれば、アンデッドのように蘇生することは予想がついていた。
しかし、アンデッドの蘇生であればルリエが打消すことができる。
打ち消さなかったということは。
「ルリエ、フェニックスの蘇生は打消し無効か?」
「はい、打ち消せませんでした。あれは蘇生魔法ではありません。チトセちゃんの呪いのような……いえ、もっと人知を超えた何かです」
高等魔法使いのルリエに理解できないのなら、普通に倒すことは不可能だろう。
倒せる可能性があるとしたらチトセの呪術しかない。
レオルはそう結論付け、次なる一手を考え出す。
「アッシュ、フェニックスは死ぬと蘇生する。軽い脳震盪を起こす程度に攻撃してくれ」
「難しい注文だな! そんな器用なことできるかわかんねーけど……やってみるぜ!」
再び飛び掛かってたフェニックスをレオルは左手の盾で防ぐ。
アッシュがハンマーを短く持って振りぬいた。
ドッ!
フェニックスは地面に転がり、ダメージを負った様子でよたよたと起き上がる。
次の瞬間。
ボッ…………。
再び体が炎の中に溶け込み。
ゴォオオオオオオッ……!
先ほどよりも大きな炎の中から姿を現した。
レオル達を睨み、ギィギィと声で威嚇する。
「任意で蘇生できるようだな」
「怪我すら直せるってことか!」
「なんだか、さっきよりも大きくなっていませんか?」
「一回り大きくなってるわ。本気を出し始めたってことなのかしら」




