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38 ゴーレム 後編


 城に続く階段を上ると、最上段には広場があり、高さ二十メートルほどのゴーレムがいた。


 茶色の岩で人体を再現したような見た目で、関節なども存在する。


「ゲハハ……ここまで辿り着くとは驚いたナ!」


 ゴーレムの頭から、くぐもった声が聞こえた。


 レオルが見上げると、頭部の口の隙間から紫色の足が見えた。


「上級の魔物か。どうやらアイツがゴーレムを操っているらしい」


「正解ダ、冒険者達ヨ!」


 声の主が愉快そうに言うと、ゴーレムが右手を振りかざした。


 それを地面に振り下ろす。


 ドガッッッッッッッッッッッッッッッッ!


 砂煙が舞い、魔物の笑い声がした。


「ゲハハハハ! これがゴーレムの威力ダ……! 圧倒的な質量を持つ古代の怪物を、圧倒的な魔力で操作していル! 人間ごときでは止められン!」


 砂煙が収まると、ゴーレムの拳の下には隕石が落ちたような窪みができていた。


 ルリエ達は緊張の表情になる。


「まずいです……あんな攻撃、掠っただけでも致命傷ですよ……!」


「サイズの割に素早いわね。あれを両手で連打できると考えたら、絶望的だわ」


「攻撃の面積も広すぎるぜ! あれを避けて頭の魔物を殴るなんて無理だぞ!?」


 岩を三キロほど投げられるゴーレムの腕力はドラゴンの力を凌駕している。


 さらに、拳は五メートルほどあり、振り上げてから振り下ろすまでの速度は人間と変わらない。


「俺が止める。その間にアッシュは魔物を叩いてくれ」


 レオルはそう言って盾を構えた。


 ルリエ達は耳を疑ったような表情になる。


「レオル様、あの攻撃を見ていましたか!? 地面が凹んでいるんですよ!? 人なんてペチャンコになってしまいます!」


「レオル、避けるの間違いでしょ!? 止めるなんてできるわけがないもの。そうよね?」


「攻撃を遅くする程度じゃどうにもならねえぜ? 頭までの距離が遠すぎる。デカい隙を作らないと殴れねえ!」


「問題ない。完璧に止める」


 レオルはそう言って、ゴーレムの方へスタスタと歩き出した。


 ルリエ達は「は!?」と言いかけたが、すぐに真剣な表情に変わり、戦闘の構えを取った。


 ゴーレムは両手を大きく振りあげる。


「無謀だナ! 盾使い! 片手なら躱せると思ったカ? 残念だったナ!」


 ドゴゴッッッッッッッッッッッ…………!


 ゴーレムの拳が振り下ろされ、土煙が舞った。


 ゴーレムの体は不自然に斜めに傾いていて、拳の辺りにはレオルの影があった。


「と、止めたのですか……!?」


「どうなってるの!? あの拳を人間の力で止められるはずが……」


 チトセはそこまで言いかけてから、口をつぐんだ。


 アッシュはゴーレムが傾いた隙を逃さず、ゴーレムの腕を踏み台にしてジャンプした。


「やってくれたなレオル! こいつはぶっ飛ばすぜ!」


 ゴンッ………………。


 ハンマーがゴーレムの顎に入り、硬質な音が響いた。


 アッシュのハンマーの片面は内部に響く力が強化される。


 ゴーレムの頭の中にいた魔物は、口から吐き出され、力なく地面に落下した。


「サポートしますっ!」


 ルリエはサポートの対象をチトセに変更した。


 チトセは僅かな白い魔力に包まれ、同年代の男子程度の速度で駆け寄る。体が負荷に耐えられるように、微弱な身体能力強化を施されたようだ。


 チトセが魔物の体に触れると、数十本の黒い線が包み込んだ。


 バシュッ……………………。


 魔物はピクリとも動かなくなり、ゴーレムは斜めになった体勢のまま静止した。


 チトセがレオルに駆け寄る。


「レオル、大丈夫だったの!?」


「無傷だ。心配かけたな」


 チトセは黒い瞳でレオルを見上げ、ローブについている装飾品がシャランと音を鳴らす。


「身体能力強化に、身体能力強化を重ねたわね?」


 レオルはゴーレムを止めた方法を見抜かれて、少々驚いた。


 チトセは後衛のため戦況を見やすいが、よほどの動体視力が無ければレオルの動きの変化を見抜くことはできない。


「ちなみに、見てわかったわけじゃないわ。レオルならそうすると思ったのよ」


 レオルはゴーレムを止めるため、ルリエから施された身体能力強化に加えて、さらに自身の魔力で身体能力強化を施した。


 自分の百パーセントの力でドラゴンに匹敵したが、それにルリエの力が上乗せされたため、ゴーレムの拳を止めることができた。


 しかし、身体能力強化魔法は、強ければ強いほど制御が難しくなり、わずかな肉体の動きのミスが自身の怪我に繋がる恐れもる。


 ルリエとアッシュは驚愕の表情になった。


「わたしの身体能力強化魔法にご自分の身体能力強化魔法を重ねたんですか……!? なんて無茶を……!? わたしのサポート魔法だって、今日試したばかりだったんですよ!?」


「よく手足が吹っ飛ばなかったな……。相変わらずやることがすげえぜ……!」


 レオルを褒めたアッシュを、チトセは窘めるような目で見る。


「レオルが無茶するのは相変わらずだわ。でも、レオルにとっては無茶じゃないのかしら。あたしはもう諦めつつあるわよ」


「はぁ……結果的には止めていただいて本当に助かりましたからね。ですが、わたしはレオル様のことをいつも心配していますよ?」


「すまない。以後気を付けよう」


 レオルは判断が速すぎる為、思いついた瞬間に行動してしまうが、できたら次は仲間に事前に伝えようと心の中では考えていた。


 * * * * *


「白創の古の皆様、本当にありがとうございました!」


 タプロムのギルドに案内されたレオル達は、盛大なもてなしを受けていた。


 石造りの器に注がれた酒は、冷たい石の口触りのため、アルコールに微かな甘さを錯覚する。


 剣士のリウィアは凛とした表情を緩ませ、年相応な笑顔を浮かべている。


「あのゴーレムを倒してくださるとは、本当にお強い。皆様が来てくださらなければ、この街はどうなっていたことか。わたくしも冒険者としてあなた方を見習いたいです」


 リウィアは酔っていたわけではなさそうだが、嬉しそうに同じような言葉を何度も繰り返していた。


 街の人々は次から次へとギルドに入れる人数だけ顔を出し、レオル達に頭を下げる。


「この街を救ってくださり、ありがとうございました! あなた方はこの街の英雄です!」


「歴史あるゴーレムに傷をつけず止めていただけるとは……! あなた方が来てくれて本当に良かった!」


「盾使いの方! 是非握手していただけませんか!」


「おかげさまで数週間ぶりに家に帰ることができました! 白創の古の皆様、あなた方のお名前は忘れません!」


 タプロムは歴史ある街のため、保護することで国の威厳を保つこともできると、レオル達はギルドで聞いていた。


(歴史など些細なことだな)


 レオルは人々の安堵の笑顔を見ながら、柔らかい口触りの器に口付けた。


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