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34 マミー 後編


「あの盾使いはなぜ武器を失っていないんだ……!?」


「盾のような平面の武器ほど巻き取られやすいはずだが……まさか弾いたのか? 凄まじい速さの振りだったぞ」


「ハンマー使いの方は攻撃を避けていた。なかなかいい判断だ。しかし二人ともマミーには不利な武器だ」


「そこの二人! 増援を待つんだ! 武器を取られる前に一旦退避を!」


 剣士達のリーダーらしき男の叫び声にレオルが振り向いた瞬間。


 バシュルルル……! バシュルルル……! バシュルルル……! バシュルルル……! バシュルルル……!


 マミーは狙いをレオルに集中して、五本の包帯を飛ばしてきた。


 レオルは振り返ることもなく、盾から五メートル四方の壁を発動し、包帯のすべてをはじき返す。


 バヂッ! バヂッッ! バヂッッッ! バヂッ! バヂッッッ!


「一枚の盾で全部防いだだと……! あの盾の反射力はどうなっているんだ!?」


「反射性の性質があったとしても、相当な魔法練度が必要だ……」


「彼はこちらを向いたまま攻撃を防いだぞ……。音だけで攻撃の方向とタイミングを把握したというのか……?」


「そんな馬鹿な……あの桁違いの怪物を目の前にして、そんな冷静でいられるはずが……」


「おい……ひょっとして彼は、元碧撲の徒のレオル・アクレスじゃないか?」


 そんな剣士達のざわめきに、一般市民たちは希望を見出したような表情をしていた。


「レオル! 準備できたわ! いつでもいける!」


 チトセが声を張り上げ、レオルは頷いた。


(マミーを倒す準備は整った。しかし、一つ問題があるな)


 アッシュのハンマーは小回りが利きずらく、マミーの包帯に掴まれやすい。


 レオルがアッシュをサポートしながらマミーに近づくことはできるが、知能のあるマミーは接近戦を避けようとするだろう。


 もしもマミーが逃げ回ったら、街に被害が出てしまう。


 レオルは逡巡の後、結論を出した。


「ルリエ、打消しは頼んだ」


「えっ?」


 時間が無かったため、レオルは短く作戦を伝えた。


 そして、マミーが十数本の包帯すべてで攻撃してきた瞬間。それを弾かず、自身の体をウロボロスの盾の魔力で包み込んだ。


 全方向のあらゆる攻撃から身を守る繭守マモリ


 レオルの体に巻き付いた包帯はギチギチと締め付けてくるが、レオルにダメージは無い。


「大変っ! レオルが捕まったわっ!」


「まさかアイツ……!」


「ええ、おそらくレオル様はわざと捕まったのだと思います」


 ルリエはレオルの意図を汲み取ったのか、杖を構え、レオルをじっと見つめた。


 視線を感じたレオルは繭守マモリを解除し、瞬時にサンダーバードの盾から魔力を解放する。


 魔法解除、魔力回収、魔法発動、三段階の早業だった。


 サンダーバードの盾を通した魔力はレオルを中心として外側に広がり、マミーの包帯がブチブチと鳴る。


 包帯が切れると同時にレオルの魔力は周囲に弾けた。


 パァァァァァァン…………!


 包帯に押さえつけられていた反動で勢いよく弾けたレオルの魔力は、周囲の建物や街の人々に向かって飛び散る。


「打消しますっ!」


 タイミングよくルリエが杖を振ると、レオルの魔力は霧散した。


「ふぅ……びっくりしました。左の盾から右の盾への魔法切り替え、流れるような早業ですね。さすがレオル様です」


 ルリエは額を拭っていた。街への被害は無さそうだ。


 レオルは地面に着地しながら、勝利を確信し、安堵の笑みをこぼした。


 包帯を失ったマミーはシュルシュルと新たな包帯を生み出し始めていたが、アッシュが距離を詰めてハンマーで殴打する。


 ドガッ…………!


「っしゃあ!」


 マミーの巨体は吹っ飛び、地面に倒れる。


 駆け寄ったチトセがその巨体に触れた。


 バシュ……………………。


 マミーは完全に静止して、街に静寂が訪れた。


 そして数秒後、街の人々はどよめいた。


「十ニ剣士ですら歯が立たなかった魔物を瞬殺したぞ……!?」


「あの包帯を千切るとは……あの盾使い、魔力放出の速さが尋常じゃない!」


「見事な連携だ。シュルナクにはこれほどのパーティが存在したのか!」


「彼らのおかげで助かった! 街の被害はほぼゼロだ!」


「盾使いさん! かっこよかったわ! ありがとう!」


「ハンマー使いの威力もなかなかだったぞ! マミーを吹っ飛ばした!」


「魔法使いも完璧なタイミングで盾使いと連携していた。素晴らしい腕前だな」


「とどめを刺した彼女は何の職業なんだ? マミーを一瞬で封じたぞ」


 レオル達は称賛に包まれ、数分後には互いの声すら聞こえないほどのお祭り騒ぎとなった。


 * * * * *


 レオル達はビレジクの街のギルドに案内され、盛大なもてなしを受けていた。


 街の人達が「是非お礼を!」と持ちこんできた自慢の食材の数々が、ギルドのコックによって調理され、次々とレオル達のテーブルに運ばれてくる。


「美味しいですね。この紫色のフルーツ、甘くて爽やかな味です」


「あたしはこの焼き魚が気に入ったわ。上に乗っている野菜がサッパリしていて、相性がいいわ」


「こっちの肉も旨いぜ。力が湧いてくる、野性の味だな」


 そんな仲間の感想を聞きながら、レオルも酒と様々な味わい深いツマミを楽しむ。


 すると、レオル達のテーブルに初老の男性が来た。


「私は当ギルドのマスターをしております。ジョージ・ブルクと申します。皆様にお一つお話があるのですが」


 レオルは酒を置いて無言で続きを促す。


「白創の古の皆様、どうか当ギルドへ移籍していただけないでしょうか? 私は皆様のご活躍に感銘を受けました。皆様が当ギルドに来ていただければ、ビレジクの街は安泰です。もちろん、移籍していただければ最大限の移籍金をお支払いいたします」


 ギルドマスターが置いた小切手には、小洒落た一軒家を買えるほどの額が記載されていた。


 通常、初見のパーティにこれほどの契約を提示することはあり得ない。いくら実力のあるパーティでも、年単位の実績の積み重ねと信頼が無ければ、移籍金の元を取れないリスクがあるからだ。


 ギルドマスターの熱意に、レオルは少し移籍を考えたが、首を横に振った。


「すまない。俺はまだシュルナクを出るつもりはないんだ」


 無名の頃から世話になっていたシュルナクのギルドには恩義を感じていた。


 それに、シュルナクのギルドはマスターが他ギルドや王族から依頼を取ってくる。最近はさらにやる気を出していて、クエストの質はどんどん向上している。


「ええ、わたしもシュルナクのギルドに不満は無いですし、移籍はちょっと控えたいです」


「それに、もうすぐシュルナクの近くにレオルの家が建つしね」


「ビレジクのギルドも気に入ったけど、やっぱ慣れたシュルナクが一番だぜ!」


「そうですか……。残念ですが、仕方ありませんね」


 ギルドマスターはしょぼんとしながら小切手をひっこめた。


「では、今後どうしても我々で対応できないクエストがあった際には、シュルナクに依頼させていただきますので、是非よろしくお願いいたします」


「ああ、その時はクエストを受けよう」


 その後、レオル達はシュルナクのギルドに帰り、クエスト完了の報告をした。


 レオルは受付嬢たちの見慣れた笑顔に迎えられ、小さな笑みを返した。


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