33 マミー 前半
「レオル様、新しい盾ができたのですか?」
「ああ、さっき武器屋から取ってきたんだ」
ギルドのテーブルにつくと、ルリエが興味津々の様子で聞いてきたので、レオルは新しい盾をテーブルに置いて見せた。
サンダーバードの羽で作られた盾は、コハクの中に金色の羽が浮かんでいるような外見だ。
「羽の色が綺麗ですね。角度を変えるとキラキラして素敵です」
「左右の盾の色の組み合わせがいいわね。緑と金てどうかと思ってたけど、意外と相性良いわ。レオルに似合っているわね」
「かっけえな! 確かサンダーバードの盾にも特殊効果があるんだよな?」
女性陣に盾の外見を褒められたのはレオルとしても嬉しかったが、やはり性能の話もしたいところだ。
アッシュの問いに答える。
「この盾で発動した防御魔法は、反射の効果を得る。魔法の強度によって反射率が高まるんだ」
「敵の攻撃を跳ね返せるのか! 強そうだな!」
「ウロボロスの盾より汎用性も高そうね。見てみたいわ」
「二つを使い分けられるのは面白そうですね。次のクエストが楽しみです」
そんな風に和気あいあいと会話していたところ。
「白創の古の皆様、クエストを依頼させていただきたいのですが。マミーという怪物をご存知でしょうか?」
受付嬢がクエスト依頼表をテーブルに置いた。
彼女の話はこうだった。
マミーは通称『包帯男』と言われている怪物で、全身に包帯のようなものを巻いている。
その包帯を自由自在に操り、他の生物に巻きつけることで、巻き付けた対象もマミーにする能力を持つ。
「なかなか珍しい怪物ね。聞いたことがないわ」
「で、そのマミーがどうかしたのか?」
「ええ、それが……」
受付嬢の話によると、四つ隣の街『ビレジク』で、ゴブリンの集落が一体のマミーに襲われ、全員マミーにされてしまったらしい。
ゴブリンは低級の怪物だが、群れとしては中級の怪物を倒せる程度には強い。
それをたった一体で壊滅させたマミーは間違いなく特殊個体だ。おまけに大量のマミー化した元ゴブリン達を引き連れているため、危険過ぎて手が出せないという。
「新しい盾を試すいい機会だな」
「増殖するタイプの怪物は、放っておくと厄介ですからね。わたしたちで早めに倒したいです」
「あたしの呪術が通用するか怪しいわ。感情のある怪物なのかしら」
「マミーは気性が荒いから、たぶん大丈夫だぜ」
「みなさん、ありがとうございます!」
ということで、レオル達はマミー討伐に向かった。
ビレジクの街を通り抜けて、マミーが乗っ取ったゴブリンの森へ向かおうとしたところ、街の方から複数の女性の悲鳴が聞こえた。
「出たわ! 包帯男よ! 包帯男の群れだわ!」
レオル達はその声に反応し、叫び声のする方へ走り出した。
広い道の真ん中には、全長五メートルほどのマミーがいて、その周辺にはニメートルほどのマミーが三十体ほどいた。
どれも見た目は人型で、体を包帯のようなものでグルグル巻かれている。
すると、一体のマミーが両手の包帯を飛ばしてきた。
包帯はアッシュのハンマーに絡みつき、ギギギギギ……と締め付けるような音を鳴らす。
「クソ……絡めとられた……」
「任せろ」
ブンッ! とレオルが盾を振り、包帯を叩き切った。
(サンダーバードの盾は期待通りだな)
盾に通した魔力には反射性の力が加わっているため、軽い力で包帯を叩き切ることができた。
攻撃の用途では、ウロボロスの盾より使いやすい。
「サンキューレオル!」
「盾の切れ味が抜群ね。いい感じだわ」
「今回の敵にはちょうど良さそうです。わたしは包帯は打消せないので助かりました!」
ルリエが打消せるのは魔法の技のみだ。
包帯は魔力によって操作されているが、魔力が包帯の内部に通っているため、打消すことはできない。
「この程度なら問題ない。蹴散らす」
「おうよ!」
レオルはサンダーバードの盾を振り、アッシュはハンマーを振り、小型のマミーを殲滅していく。
何度かアッシュのハンマーが絡めとられることはあったが、レオルが瞬時に叩き切って助けた。
ビレジクの街の人々は遠巻きにレオル達を眺めながら、目を輝かせていた。
「小盾使いの方、凄いわ……! どんどん敵を倒してる……! 防御担当のはずなのに!」
「なんて無駄のない動きなんだ。盾など掴まれやすい武器なのに、一度もマミーの包帯に捕まっていないぞ!」
「彼らが来てくれて助かった! この数を相手に戦えるパーティなど他にいない!」
人々が勝利を確信するほど、レオル達はマミーを圧倒していた。
すると。
「十ニ剣士も来てくれたわ!」
「おおっ! 彼らも来てくれれば勝利は間違いないぞ!」
ビレジクのギルドの者と思われる剣士達十二名がレオル達の後方に並び、剣を構えた。
「シュルナクの者達ッ! 足止め感謝するッ! 我らも参戦しよう!」
レオルは一瞬振り返り彼らの姿を確認した。
十二名の武器は全てレア装備で、ローブにも金の刺繍が入っている。間違いなく一線級だろう。
雑魚マミーを狩るに手間が省けそうだと考え、ボスマミーを振り返った。
その瞬間。
バシュルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
バシュルルルルルル!
バシュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
バシュルルルルルルルルルル!
最奥にいた全長五メートルほどのマミーが、十数本の包帯を飛ばしてきた。
レオルは盾で弾き、アッシュは攻撃を避けた。
剣士達十二名は剣で包帯を切ろうとしたが、マミーの包帯は切れることなく剣に巻き付いた。
「何っ……!?」
「ぐぬ……取れん……」
「馬鹿なッ! 炎属性の剣だぞ!」
「振り払うことすらできない……! これほどなのか、特殊個体の力は……!」
剣士たちは両腕に力を込めて、地面に踏ん張っているようだったが、包帯がギチギチと締め付けるような音を鳴らし。
バキッ! バキッッ! バキッ! バキンッ! バキ! バキッッン!
剣士達の剣は全て刀身から真っ二つに折れた。
「馬鹿なっ…………」
剣士達の顔面は蒼白になり、皆慌てて道の脇に退避した。剣を失った剣士に戦う術はない。
レア武器を失ったショックを引きずらず、瞬時に逃げたことは、彼らが一線級であることの証明だった。
「なるほど、斬撃耐性か」
本来はマミーの包帯にとって、斬撃は弱点属性に当たる。特殊個体のマミーは弱点を克服するため斬撃耐性の包帯を使用しているのだろうとレオルは分析した。




