31 サンダーバード 前編
「そろそろ新しい盾が欲しい」
いつものようにメンバーでギルドのテーブルを囲んでいたところ、レオルがふと呟いた。
ルリエが首を傾げる。
「ウロボロスの盾では不満なのですか? 特殊効果もあって強力ではないですか」
「いや、それが逆に使いづらいこともあるんだ」
ウロボロスの盾を通した魔力は敵の動きを鈍らせる。
そのため、防御魔法を使用すると敵の攻撃が減速し、弾くことは難しくなる。
強い衝撃を半減するのには役立つが、敵との距離を取りたいときには不便だった。
「それで、どんな盾が理想なの?」
「ウロボロスと異なる特性を持つ盾で、上級素材の盾なら何でもいいんだ。左右でそれぞれ異なる盾を持ちたい」
「どっちの盾で技を使うか選べるようにするってことか。オレのハンマーみたいだな」
アッシュのハンマーは二つの面がそれぞれ異なる素材でできていて、片面が弾く力、片面が内に響く力を強化する。
基本は弾く方の面で敵と距離を取って戦い、動きを止める為の一撃は響く面を使用することが多い。レオルもこのような使い分けをしたいと思っていた。
そんな会話をしていると、受付嬢がクエスト表を持ってきた。
「白創の古の皆様、至急、サンダーバードを討伐していただけませんか?」
「サンダーバード?」
クエストの内容はこうだった。
三つ隣の街『シノプ』に、サンダーバードと呼ばれる雷魔法を使用する怪鳥が住み着き、大規模な停電を起こしているらしい。
サンダーバードは街の明かりとなる電気の魔法具から電力を吸収している。
「皆様ご存知かもしれませんが、サンダーバードは怪物の中で二番目のスピードを誇り、捕らえるのは不可能だと言われています。街が襲われたら過ぎ去るのを待つのが鉄則なのですが……」
「わかった、何かしら倒す方法を考えよう」
「シノプの人達は明かりの無い夜を過ごしているのね」
「酒場の方などは特に生活に困ってしまいます」
「暗い時間が長くなると、悪党が活発になるしな!」
ということで、レオル達はサンダーバード狩りをすることになった。
シノプの街は栄えている街だが、日が沈みかけている今は道が暗く、杖に明かりを灯して歩いている人がポツポツといる程度だった。
街の光源となっている最も大きな魔法具のある広場へ向かう。
「あれか」
広場の中央には、直径五メートルほどの巨大な灰色の球体があった。
専属の魔法使い達が各地から魔力を込めることで、街の主要な道へ明かりを供給する魔法具だ。
しかし現在は明かりが消えていて、近くには十メートルほどの黒い影が寝そべっている。
レオル達が近づいていくと、黒い影はのそりと起き上がり、バヂバヂッ……と音を鳴らしながら発光した。
「あれがサンダーバードですか!?」
「でかいわね……」
「アッシュ、できれば飛び立つ前に止めてくれ」
「おう!」
アッシュが瞬時に駆け出し、ハンマーを振りかぶる。
しかし。
バヂンッッッッッッッ……!
サンダーバードは電気が弾ける音と共に空高く舞い上がり、鋭い目でレオル達を見下ろした。
「速っ……すぎだろ」
「仕方ない。降りてきたところを狩ろう」
サンダーバードは体に電気魔法を纏っているため、瞬時に加速することができる。
(アッシュの攻撃が届かないのは仕方がない。想定の範囲内だ)
サンダーバードはレオル達を見ながら旋回し、三周目に差し掛かると口を大きく開く。
「ルリエ、頼む」
「はいっ、レオル様!」
バヂバヂバヂバヂッッッッ……!
レオル達の頭上に雷撃が降り注いだが、地上に到達する前にルリエが打消した。
サンダーバードは角度を変え、繰り返しレオル達に向けて雷撃を放つ。
バヂバヂバヂッッ……! バヂッッッ……! バヂバヂバヂバヂバヂッッッ……!
雷攻撃はレオル達の上空十メートルほどで消え、レオル達には届かない。
「さすがだな。ルリエ」
「ありがとうございます! レオル様!」
ルリエの打消し魔法は広範囲かつ魔力消費が少ない為、雷撃にやられる心配はない。
しかし、サンダーバードが上空にいる限り、レオル達が攻撃する手段もない。
遠距離戦では互いにダメージを与えられない膠着状態だった。
(最悪、このままサンダーバードが逃げるならそれでも構わない。向かって来るなら地上で叩く)
今回の依頼は討伐だが、真の目的は街の明かりを取り戻すことであり、サンダーバードが逃げるのであれば目的は達成する。
もちろん、その場合はクエストは未達成となるし、今後別の街が被害に遭う可能性もあるため、ここで討伐するのがベストだ。
レオルはサンダーバードが降りてくることを願いながら、盾を構え、腰を落とした。
次の瞬間。
バヂンッッッッッッッ…………!
サンダーバードは一直線にルリエに向かって加速した。
(やはり知能が高いな)
サンダーバードはルリエを倒せば雷撃が通ることを理解しているようだ。
レオルは地面を蹴って間に入り、盾で嘴を防いだ。
キィィイイン。
硬質な鋭い音が鳴り、サンダーバードは再び上空へ舞い上がった。
常人では目で追うことすら難しい一瞬の攻防だった。
レオルの動体視力と身体能力でなければ、防ぐことは難しい。
「レオル様、ありがとうございます……! あの速さの攻撃を防いでくださるなんて……! 頼もしいです! 本当に助かりました!」




