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30 ケルベロス 後編


「戦闘歴の長い者ほど円の動きをするものじゃが……彼はさらにその上をいくようじゃ。これほどの対応力を身につけられるとは……」


「でも、ケルベロスにはまだアレが……」


「そうだ、ケルベロスはまだじゃれて遊んでいるだけだ……! アイツが本気を出したらこんなものではないぞ!」


 誰かがそう言った直後、ケルベロスは再びうなり声をあげ、首を後ろに引いた。


(来るか)


 レオルは魔法攻撃のモーションだと悟る。


 後衛にいたルリエも少し遅れて反応し、ケルベロスに杖を向けた。


「打消しますっ」


「いや、駄目だルリエ」


 ケルベロスの三つの口から魔法攻撃が放たれる寸前、レオルはその口から漏れ出る魔力から、三属性の魔法攻撃だと察した。


 ケルベロスの三つの頭は、レオルから見て左から順に、炎、雷、氷の魔法を放とうとしている。


 ルリエが一度に打消せる魔法は一種類だ。三つを同時に撃たせたらまずい。


 そう判断したレオルは、ほぼ全力に近い防御壁を展開した。


 十メートル四方の防御壁が炎と雷と氷を同時に受け、複雑な破裂音が洞窟内を満たす。


「「「うわああああああああああああ!」」」


 村人達が悲鳴をあげながら、ある者は頭を押さえ、ある者はしゃがみ込む。


 しばらくするとその音が止み、レオルは盾を向けて、ケルベロスと睨み合っていた。


 村人たちは声も出ない様子だったが、ルリエとチトセとアッシュは口を開く。


「と……止めたの……? あの威力の攻撃を盾一つで……? 今のはケルベロスも本気だったわよ……」


「さすがレオル様です! 三種類の攻撃はわたしでは止められません! 一瞬で属性の違いを見抜いて防御壁を発動してくださるだなんて……!」


「炎と雷と氷って、こんなのアリかよ。怪物三体みたいなもんじゃねえか。レオルがいなきゃオレら死んでたぞ」


 レオルの使用する防御壁は魔力を固めて物理的な壁を作るような魔法だ。たとえ複数種類の魔法でも同時に止めることができる。


 ただし、ルリエの打消し魔法のように効率的に敵の攻撃を相殺するわけではないので、魔力消費は大きい。


 レオルは先ほどの防御でほぼ全力を出していた。

 同じような攻撃をもう一発撃たれたら止められない。


 三属性の内、一つは確実にルリエに打ち消してもらう必要がある。


「ルリエ、これからはケルベロスの炎を打ち消してくれ」


「えっ……炎でよいのですか!? 氷に触れたら、盾が使えなくなってしまいますよ!? それに足場だって……」


「問題ない。炎で頼む」


 炎は近づいただけでも熱でダメージを受けるため、一番厄介だとレオルは考えていた。他の二つもそれぞれに特徴はあるものの、レオルには対抗できる自信がある。


 その後、レオルは一分ほどケルベロスの攻撃を防ぎ続けた。


 雷はスピードがあるものの、直線的な軌道で攻撃範囲も狭いため、魔力を使用せず盾だけで防いだ。


 氷は盾で受けたら凍り付ついて使用不能になってしまうため、ケルベロスの頭をアッシュに殴らせ、影響のない方向へ軌道を変えた。


「準備できたわっ!」


 チトセの声が洞窟内に反響した。


 レオル達の勝利を目前に、村人たちは驚愕の表情を浮かべている。


「なぜあの盾使いは全ての攻撃を防ぐことができるんだ……?」


「氷でどんどん足場が悪くなっているのに、まるで意に介していない……」


「靴の裏に目がついているのか……?」


 レオルの足元には、ケルベロスが吐いた氷がところどころに散らばり、尖っていたり滑りやすくなったりしていた。


「グルルルルル…………」


 唸り声を響かせるケルベロスをレオルは静かに見つめた。


 四つ足のケルベロスは二足歩行の人間よりも安定感がある。


 しかし、サブガードは怪物よりも速く動かなければならないため、レオルは幼少期から誰よりも足運びの鍛錬をしていた。


 ケルベロスが吐いた氷は、ケルベロス自身の足場も悪くしている。


 同じ条件下で勝負した結果、レオルはケルベロスを上回った。


「機動力でなら俺に勝てると思ったか?」


「グルルルルルァアアアアアッ!」


 獰猛な声を上げ飛び掛かってきたケルベロスの足を、レオルは盾で横なぎに払った。


 ケルベロスは氷の上に着地し、滑って転ぶ。


「ナイスだぜレオル! っしゃああああ!」


 アッシュがケルベロスの首元にハンマーを撃ちこむと、ケルベロスの動きが止まった。


 チトセがスタスタと前に出て、ケルベロスの尻尾に両手で触れる。


「信じてたわ、レオル」


 バシュッ…………!


 数十本の黒い線がケルベロスを包み込む。


 揺らぎを見せる黒線は、ケルベロスの体内に吸い込まれるように消え、しばらくするとケルベロスはゆっくりと立ち上がった。


「え……あれ? 効いてないの?」


 驚くチトセを後目に、ケルベロスはスタスタと洞窟の隅に移動して、奥への道を開けると座り込んだ。


「通っていいということらしいな」


 レオルが呟き、三人はホッと息を吐いた。


 どうやら洞窟の番をしていた怪物ケルベロスは、呪術に耐性があるようだ。


 レオル達は奥へ進み、石段の上に置かれていた一冊の本を手に取った。


 * * * * *


 レオル達は村で一番大きな長老の家に案内され、村人たちと豪勢な食事を囲みながら、盃を交わしていた。


「レオル殿と言ったな! 素晴らしい腕前だ! チトセを任せるに相応しい男がついに現れたようだ」


「最初は疑ってしまい申し訳ない! あなた方の強さは本物だった! 是非これまでのクエストの話を聞かせてくれないだろうか」


「ワシが生きているうちにケルベロスの攻略を見れるとは夢のようじゃ。今日は良い日じゃの」


「いい仲間に恵まれたわねチトセ。アンタが楽しそうで何よりだわ」


 祭りのような騒ぎの中、この地特有の麦を炊いたものや野菜や魚や味噌を中心とした食事を堪能する。


 素朴な味わいながら栄養豊富な食事で、体の奥から疲労が抜けていくようだった。


「そういえばチトセ、さっきの本の中はもう見たのか?」


「ええ、呪術の上級技が書いてあったわ。すぐに強くなれるわけではないみたい」


 チトセの話では、呪術は魔法と違い、修行をすれば際限なく技の発動までの時間を縮められるらしい。


 現在、村には呪術の初級技しか広まっておらず、最低限の狩りをして生活するにはそれで十分だった。


 強すぎる力は悪用される恐れもあるため、正しき鍛錬を重ねた者のみ上級技の修行方法を知れるように、ケルベロスが門外不出の書を守っていたらしい。


「レオル、あたしはもっとあなたの役に立つわ。あたしが成長するまで気長に待っていてね」


「今でも役に立っているさ」


 チトセが向けてきたアイスティーの入ったグラスに、レオルは酒のグラスをチンッと合わせた。


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