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27 ヴァンパイア 前編


「そろそろ家を建てようと思っている」


 ギルドで仲間達と雑談しているとき、レオルがふと言った。


 レオルはこれまでギルド周辺のいくつかの宿を寝床にしていたが、それならギルドの近くに家を建てた方が楽だと考えていた。


「いいですね。どのようなお家にするのですか?」


 ルリエは興味津々といった表情で、両手に顎を乗せてテーブルに乗り出した。青い瞳がキラキラしている。


「普通で構わない。安らげるスペースさえ確保できれば」


「安らげる家が欲しいのなら、木の質に拘ればいいんじゃないかしら」


 やや幼いながらも大人びた意見を言うチトセに、レオルはふむ……と納得させられる。


「あー、オレもそっちの仕事齧ったことあるけど、高級な木は加工できる職人が少ねーんだ。ちゃんと選ばねえと素材の良さを活かせねえ」


「そういうものなのか」


「家は奥が深いからな。この街にいる職人だけじゃダメだ。色んな街の職人を探すのをオススメするぜ!」


 アッシュのアドバイスをありがたく思いながらも、レオルはクエストの時間を削ってまで職人を探すつもりはなく、多少は妥協しようと考えていた。


 そんなとき、受付嬢がクエストの紙を持ってきて、スッとテーブルに置いた。


「白創の古の皆様、過去最大級のクエストがあります」


「ほう」


 受付嬢の説明はこうだった。


 最近、王族の兵がヴァンパイアと名乗る魔物に不意打ちで襲われていて、兵の数が徐々に減っている。


 ヴァンパイアは趣向品として姫の血を欲していて、王城を外側から崩そうとしているらしい。


 そこで、王族は国内で評価の高い複数のギルドに声をかけ、姫の護衛につける精鋭パーティの候補を募っている。


「白創の古の皆様なら、他の街の精鋭パーティを押しのけて選ばれるかもしれません。姫様を守ることができればとても名誉なことですし、王族との繋がりもできます」


 レオル達は王の城の近くに出現したウロボロスを退治した実績がある。当時のクエストはおそらく王にとっては害虫駆除程度の認識だったと思われるが、今回のクエストの重要度は計り知れない。


「受けよう。姫が魔物に襲われた知らせなど聞きたくはないからな」


「ええ、できることなら、わたしたちでお守りしたいですね」


「オレらが王の城に入るのかー! 緊張してきたぜ!」


「クエストが成功したらあたしも家建てようかしら」


 満場一致で参加が決定し、翌日、レオル達は王の城を訪ねた。


 城は敷地面積が広く、数十人の兵が等間隔に城を囲うように立っている。高さは四階で、毎日の掃除と細かな補修によって保たれている真っ白な壁が王の力を示していた。


「くれぐれも粗相のないようにお願いします」


 案内人の初老の執事に念押しをされて王室に通される。


 長いカーペットが敷かれた階段の上には王と姫が座っていて、カーペットの左右には魔法使いの兵が並んでいる。


「シュルナクの街より『白創の古』をお連れ致しました」


 レオル達は執事に案内されてカーペットを進む。


 左右の魔法兵達は険しい顔をしている。


 彼らの間を通り、王座まで十メートルほどまで近づいたそのとき。


 レオルは魔法兵達の杖が光るのを視界の隅で捉えた。


(攻撃魔法だと?)


 豆粒ほどの光から攻撃の意思を感じ取ったレオルは、半球型に魔力の壁を発動してすぐに閉じる。


 バヂッ……!


 左右の魔法兵達がカーペットの外側に向かって小さく吹っ飛んだ。


 ある者は転び、ある者は尻餅をつく。


「え……何が起きたの……?」


 チトセはきょとんと首を傾げていたが、アッシュとルリエの顔はみるみる蒼白になった。


「おい、レオル……まさかお前…………やってないよな?」


「レオル様……何もしてませんよね? してないと言ってください……!」


 魔法兵達が吹っ飛んだ瞬間、一瞬だけ青色の魔力が光っていた。二人はそれを見ていたようだ。


 レオルは落ち着いた声音で答える。


「防御魔法を発動した。彼らは生身の体でそれに触れたから弾かれたんだ」


「はぁ……!? レオル、何やってるのよ! 王族の兵に手を出したの!?」


 チトセが目を丸くして叫んだ。


「もうわたしたちは終わりですね……今までありがとうございました……レオル様と過ごした時間はかけがえのない時間でした……」


 ルリエはフラフラしながら呪文のように呟き。


「まじですいませんでしたッ! オレらは悪気があったわけじゃないんですッ! 許してくださいッ!」


 アッシュはパニックになったのか、王ではなく執事に向かって謝罪していた。


 王が玉座から立ち上がり、ゆっくりと二歩前に出る。


 蓄えた白髭を撫でながら、隣の姫とアイコンタクトを取り、頷き合った。


「合格じゃ」


「「「…………は?」」」


 ルリエ、チトセ、アッシュの三人の声が被った。


 魔法兵達は起き上がると、何事もなかったかのように整列し直す。


 初老の執事は王に深々と頭を下げた。


「かしこまりました、王様。この者達には後ほど私より説明致しましょう」


 レオル達は王の間を出ると、別室で執事から説明を受けた。


「先ほど王の間で実施していたのは、緊急時への対応能力のテストです」


 執事の話はこうだった。


 王はこれまで複数の街のパーティをそれぞれ王の間に呼び出し、左右に整列していた魔法兵に小さな攻撃魔法を発動させた。


 それを防ぐことができれば姫の護衛役として合格。合格者が複数出た場合は、反応が速かったパーティが合格となるルールだった。


 王の前という特殊な場で本来の力を発揮できなければ、とても姫の護衛など任せられないというのが王の考えらしい。


 魔法兵が使用したのは明確な攻撃魔法で、並の冒険者なら杖の光から攻撃魔法であることがわかる。


 しかし、魔法兵に攻撃の意思があるのか、寸止めするつもりなのか、見極めることは難しい。


 レオルは魔法兵の攻撃魔法が発動をキャンセルできないことを見極め、防御魔法を使用した。


 さらに、通常の防御魔法では、十名を超える魔法兵の攻撃すべてを防ぐことは難しいため、魔法兵の体に防御魔法を当てて、その体を吹っ飛ばすことで魔法を強制キャンセルさせた。


「レオル殿はお気づきでしょうが、この試験で重要だったのは判断力です。王直属の兵に手を出しておいて、『間違っていました』では済まされません。

 魔法兵の攻撃の意思を見極め、自らを信じて瞬時に行動できる者こそ姫の護衛に相応しい。

 あなたのようなリーダーが率いるパーティであれば、必ず姫を守り抜くことができるでしょう」


 執事の言葉にメンバーの三人は生気を吹き返した。


「レオル様は魔法兵の攻撃の意思まで見極めていたのですね! さすがです! わたしは王様の前で緊張していて、それどころではありませんでしたよ!」


「攻撃されるとわかっていたとしても、よく王の兵に手を出せたわね。その度胸には感服するわ」


「すげえなレオル……。オレは死刑を覚悟したぜ。

 このテスト、他のパーティは反応できたのか?」


 アッシュの質問に執事は愉快そうに笑った。


「他に反応できた者などいるはずがないでしょう。

 私は最初から、こんなテストは全員不合格に違いないと王に忠告しておりました。一人娘を守ることに必死になりすぎて、護衛に完璧を求めすぎていると」


 執事はレオルの目を見て、ふふふと笑みをこぼした。


「人生経験の豊かさには少々自信があったのですがね、貴方のような者がいるとは思いませんでした。老いぼれにも、まだ知らないことがあるようですな」


 レオル達はご機嫌の様子の執事に案内され、姫の部屋へ向かった。


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