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24 リザード 後編


 事情を知らない街の人々は、レオルの言葉にざわめきはじめる。


「レオル様、一体何を考えていらっしゃるのかしら……!?」


「あの速さを見ていなかったのか?」


「いくら白創の古のレオルでも、片手で防ぐだなんてできるわけがないぞ!」


「そんな手加減して、負けたらどうするつもりなのよ……!」


「もう俺たちは終わりだ……。あの速いリザードからは逃げられない……」


 そして風が吹き、微かな砂埃が舞った瞬間。


 ガキンッ……。


 有言実行したのはレオルだった。


 最短距離で突進してきたリザードの剣を右手の盾一つで防いでいる。


「ナゼ反応できた……!?」


 リザードが驚きの声を上げ、周囲にいる街の人々もざわめきはじめる。


「本当に片手で防いだぞ!? これほどなのか、レオル・アクレスは……!」


「レオル様、噂以上にお強いわ! あの速さの攻撃を止めるだなんて!」


「あの魔法は一体なんなんだ!? ただの薄い魔力にしか見えないぞ!?」


「あんな魔法は見たことがない! レオル・アクレスのオリジナルなのか!?」


 レオルが使用した新技『遅延空間』は、周囲半径三メートルほどに霧状の魔力を放出し、その空間に入った者の動きを鈍らせる魔法だ。


 遅延の度合いは相手が魔力に触れている面積に比例する。全身が遅延空間に包まれている場合はおよそ水中の三倍ほどの抵抗力が発生する。


 スピードの速い者ほど、この抵抗を受けやすい。


 さらにこの技の優れているところは、見た目ほど魔力消費が多くない点だ。


 通常の防御魔法は強度が高い分、薄い壁を一枚作るだけでも多大な魔力を消費してしまう。


 しかし、遅延空間はレオルの魔力を薄めて霧のように放出しているため、魔力消費量が比較的少ない。


「白創の古のレオル様、本当にお強いわ……!」


「リザードが来た時は我々はもう死んだと思ったが……! この街には彼がいた……!」


「そういえば先ほど、碧撲の徒のジョゼも挑んでいたが、一瞬で吹っ飛ばされて気絶していたぞ……」


「レオル様は格が違うのね。あのリザードの攻撃を完封してるわ!」


 リザードが次々に繰り出す攻撃を、レオルは右手だけで受け止めていた。


 人々の表情には希望が見え始め、周囲はレオルを応援する声で盛り上がり始める。


「レオル様! 頑張って!」


「この街の希望だ! レオル、俺達を助けてくれ!」


「最強のサブガードだ! レオルなら絶対に勝てる!」


「白創の古がいてくれて助かった! オレ達はまだ生きていられるぞ!」


 そんな盛り上がりの中、レオルの技の特性を知っている仲間たちは、驚きの表情を浮かべていた。


 ウロボロスの盾を放出した魔力は『触れた者』の動きを鈍らせるが、その効果対象はレオルも例外ではない。


 そのため、レオルは放出した魔力を自分は触れず敵だけに触れるよう、自身と敵、双方の動きに合わせてコントロールしている。


 コントロールを誤れば自らが遅延の影響を受ける。

 そのような制限など無いかのように、レオルは遅延空間の中を自由に動き回っている。


「えっと……レオル様はさきほど、あの技は今日完成したとおっしゃっていましたよね……?」


「言ってたわ。実践で使ったのは初めてのはずよ。信じられないほど器用ね」


「どうやったら片手で魔力操作して、片手であの速さの剣を全部防げるんだ……?」


 後衛に下がっていたアッシュも含め、三人でそんな感想を漏らしていた。


 レオルにとっては魔力操作も盾の操作も体に染みついているため、心身ともに疲労は少ない。


 リザードを遅延空間の中から逃がさないようにしつつ、二分間その剣技を防ぎ続けた。


 そして。


「準備できたわっ!」


 チトセの声と同時に、アッシュがリザードの背後に飛び出した。


 ハンマーを振りかぶり、低い姿勢で地面を踏みしめる。


「ムダだ、ニンゲン……この魔力に触れればオマエの動きも鈍る。その瞬間にオレはお前の首を刎ねる。オレにとっては簡単な仕事だ」


 リザードの主張は正しかった。


 遅延空間に触れたらアッシュのスピードも遅くなる。


 同じ条件下ではリザードの方が速いため、アッシュはハンマーを当てることができない。それどころかリザードの一太刀を浴びてしまう。


 かといって、レオルがアッシュだけに影響のないよう遅延空間の形を変えることは不可能だ。


 レオルはすでに人間の限界に近い魔力操作を行っている。


 高速で動いている自身とリザードに加えて、アッシュの動きにまで対応させる余裕は無い。


 しかし。


「問題ない。俺達は四人パーティだ」


 レオルは穏やかな表情でそう言うと。


「打消しますっ!」


 ルリエが杖をかざし、遅延空間の一部を打消した。


 繊細なコントロールで、リザードにかかっている魔力だけは残し、それ以外の部分をギリギリまで打消している。


「バカな……味方の技を……!?」


「うちのリーダーはここまで想定してたんでね!」


 ドゴッ……!


 アッシュのハンマーがリザードの横腹に入り、鈍い音が響いた。


 リザードの体はくの字に折れ曲がり、ゴフっと肺の息を漏らした。


 レオルは遅延空間を解除し、チトセがリザードの体に触れる。


 バシュッ……。


 数十本の黒い線がリザードを包み込み、リザードはくの字の体勢のまま動かなくなった。


 街の人々は目を見開き、驚きの表情で固まっていた。


 レオル達の周りに人だかりができ、互いの会話が聞こえないほどの称賛に包まれたのは、数分後のことだった。


 * * *


「えっ、もう倒したのですか!?」


 レオル達がギルドに戻ると、受付嬢がクリクリの目をさらに丸くした。


「ああ、どうやらリザードの特殊個体だったようだ」


「リザードって中級の怪物ですよ……? それの特殊個体だなんて……え、え?」


 受付嬢は耳を疑ったような表情で、キョロキョロと周囲を見回すと、ベテランの受付嬢達を連れてきた。


 その後、レオル達はテーブルにつき、ドリンクを飲みながら一部始終を報告した。


「なるほど……本来魔力を持たない種類の怪物が、魔力を持っていたのですね」


「怪物本来の特性が魔力で増強されていた。魔法を使ってくるより厄介だ」


「ですが、そのような怪物も短時間で倒してしまうだなんて、さすが白創の古の皆様です」


 先ほど祭りのような称賛を受けてきたレオルにとって、受付嬢の控えめな褒め言葉は心地よかった。


 その後、レオル達は昼間から酒場に行き、まだ空いている店内で適度に賑やかな酒と食事を楽しんだ。


(たまには昼に仕事を終えてくつろぐのも悪くないな)


 日の明かりに照らされた料理を見ながら、レオルは笑みをこぼした。


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