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23 リザード 前編


 昼頃レオルがギルドに行くと、他のメンバーは全員揃っていた。ルリエが首を傾げる。


「レオル様、珍しく遅かったですね。どうかされたのですか?」


「すまない。盾の効果を活かすため、新しい魔法を練習していた」


 ウロボロスの盾を通した魔力には、触れたものの動きを鈍らせる効果がある。


 レオルはこれまでその特性を通常の盾魔法の追加効果として使用していた。


 今回練習していたのは、特殊効果を積極的に活かせる魔法だ。


「練習していたってことは、技はもう編み出したの?」


 チトセがパンで膨らんだ頬をもぐもぐしながら言う。


「技の発想は三日前からあった。ようやく先ほど形になったところだ」


「新技かぁ……オレも何か考えてえなぁ! レオルのはどんな技なんだ?」


 アッシュの言葉で、皆の視線がレオルに集まった。


「そうだな。詳しく説明しておこう」


 レオルは新技の効果や弱点、使用する状況などを三人に伝えた。


 白創の古では、各自の能力を詳細に教え合うようにしている。それによってクエストでのスムーズな連携を可能にしていた。


 三十分ほど話し込んだところで、受付嬢が声をかけてきた。


「白創の古の皆様、一つ情報提供があります」


「情報提供? クエスト依頼ではないのか」


「はい。まだ口外しない方がいいかもしれない情報なのですが、白創の古の皆様は特別ですので、知っていただいた方がいいかと思いまして」


 受付嬢の話はこうだった。


 最近、下級の怪物の中で、上級の怪物に匹敵するほど強い個体が確認されている。


 突然変異なのか、きっかけがあって強くなったのかはわからない。


 ただ、そのような個体は共通して、同種とは比べ物にならないほど膨大な魔力を持っているという。


「下級の怪物ですら、特殊個体は一線級パーティと互角の力です。見た目に騙されないようにお気を付けください」


「その情報なら、たとえ不確かでも早めにギルド内に周知した方がいいだろう」


 レオルがそうアドバイスし、ルリエが隣でうんうんと頷いていたそのとき。


 バンッ……。


 ドアが乱暴に開かれ、血相を変えた男が飛び込んできた。


「白創の古の皆様……来てください。街中に……怪物が……他のパーティでは手に負えない……」


 レオル達は立ち上がると、互いに顔を見合わせて、武器を手に取った。


 男に案内されて街まで行くと、店の前の階段にリザードが座っていた。


 リザードは二足歩行のトカゲのような外見をした中級の怪物だ。皮膚は全身緑色で、鱗に覆われている。


 比較的知能の高い怪物のため、人間のように座っていることに違和感はないが、懐に剣を携えているのは不自然だった。


「オマエらがこの街で一番強いパーティか」


「会話ができるのか。先ほど聞いた特殊個体のようだな」


 レオルが冷静に分析すると、リザードは苛立ったような表情を見せた。


「質問に答えろ……」


 次の瞬間。


 リザードから三メートルほど離れたところにあった歩道沿いの木が、居合いで切られたかのように二つに分かれ、ズズズ……と斜めにスライドすると、重量感のある音を立てて倒れた。


「え……何が起きたの……」


「オイ、まさか……今のって」


「レオル様、見えましたか……?」


「ああ」


 ルリエの問いに、レオルは頷いた。


 リザードは一歩も動いていないように見えるが、一瞬で歩道に飛び、剣を振り、木を両断してから元の位置に戻っていた。


 目を凝らしていれば常人でも視認できるスピードだが、あらゆる地上の怪物の最高速度を上回っていたため、目を疑うのも無理はなかった。


「ナァ……オマエらは考えたことがあるか? ニンゲンは身体能力強化魔法を使って、怪物と同等の力を出してる。それなら、怪物が身体能力強化魔法を使ったらどれくらい強くなるのか……その答えがオレだ」


 その場にいた街の人々は、恐怖の表情で立ちすくんでいた。


 リザードのスピードを見た後では、逃げる気が失せるのも無理はない。逃げようとしたらリザードの怒りに触れ、瞬殺される危険もある。


「ニンゲンが偉そうにしてるのはおかしな話だ。貧弱な体、貧弱な魔力、オレに敵う部分が一つもない。この街で一番強いオマエですら、オレが本気を出せば、お前が瞬きする間もなく首を刎ねられる」


 レオルの表情に動揺は見られなかった。


 圧倒的なスピード差のあるリザードを前にしても、レオルの心音に変化はない。


 レオルは防御に対して絶対の自信がある。


 わずかでも体が動けば、リザードを止められるだろうと考えていた。


「フン、これだけ言っても顔色一つ変えねえか……。気にいらねえ……」


 リザードは立ち上がり、突きの体勢で剣を構えた。


 レオル達も基本の立ち位置につき、戦闘の構えを取る。


「レオル、本当に大丈夫なんだろうな……? アイツのスピード、お前の身体能力強化状態より速いぞ……」


「問題ない」


 レオルはアッシュに下がるように指示して、一歩前へ出た。


 左手の盾から霧状の魔力を半径三メートルほどに放出する。


 魔力が水色のため、まるで半球状の水槽に閉じ込められているかのような見た目だ。


「なんだそりゃ? そんな薄い魔力でオレを止められると思ってんのか? 十秒後にオマエの心臓を貫いてやる」


「そうか。それなら俺は片手でお前の攻撃を防ごう」


 この言葉は仲間に向けての発言だった。


 レオルの新技は、片方の盾を魔力操作に集中する必要があるため、防御には片方の盾しか使用できなくなる。


 そのことを知っている仲間達には、新技を使う合図となった。


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