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20 アンデッド 前編


「レオル、見てくれ! ついに新しいハンマーが出来たぜ!」


 いつも通り皆がギルドのテーブルに集まっていたところ、アッシュが漆黒のハンマーを持ってきた。


 先日狩ったダークドラゴンの素材で特注したらしい。


「いい色だな。暗闇で使用すれば敵に視認されにくい」


「うん、いいんじゃないかしら。普通のハンマーは初心者っぽい見た目だったもの」


 チトセが見た目に関するフォローを入れると、アッシュは満足げに頷く。


 これまで持っていたハンマーは見た目だけでなく、性能も初心者向けだった。


 市場には安価な素材で粗悪な作りのものしか出回っていないため、レアなハンマーを手に入れるには特注するしかない。


「レオル様と同じお店で作ったんですよね。そちらのハンマーも何か特殊効果があるんですか?」


 ルリエの問いにアッシュが待ってましたとばかりに答える。


「このハンマーは片面はダークドラゴンの尻尾で、片面は腕の鱗を使ってんだ。こっちは『バーン!』で、こっちは『ズドン』だ!」


「バーン……ズドン?」


「敵の体表にダメージを与えるか、体内にダメージを与えるかの違いだな」


 レオルが補足すると、ルリエは「なるほど」と頷く。


 素材が魔力の性質を変化させるため、尻尾の鱗を使用している方は敵を吹っ飛ばす力が強化され、腕の鱗を使用している方は敵の体内に響く力が強化される。


 用途に応じた力のみを発揮できるため、通常のハンマーよりも遥かに高威力だ。


「前回のクエストんとき、足止めはオレの役割なのにレオルに頼っちまったからな。今度からはコレできっちり仕事するぜ!」


 アッシュがドラゴンに有効打を与えることができないと判断したレオルは、盾を捨ててドラゴンの油断を誘うという危険を冒した。それについてはルリエとチトセが心配していたが、実はアッシュも気にしていたらしい。


 そんな会話をしていると、受付嬢がレオル達のテーブルに来た。


「白創の古の皆様、一つクエストを依頼させていただきたいのですが……アンデッドを退治していただけませんか?」


 受付嬢はそう言いながら、クエスト依頼表をテーブルに置いた。


「アンデッドは比較的下級の怪物だが、どんな内容だ?」


 魔力がある限り死なない怪物アンデッドは、人型の怪物で、一匹なら二線級の冒険者がソロ討伐できる程度の強さだ。


 魔力が尽きるまで何度も攻撃するか、特大魔法で原型が無くなるほど吹き飛ばせば倒せる。


「いえ、それが実は…………」


 受付嬢の依頼はこうだった。


 最近街にアンデッドが発生していて、どうやら山奥の廃墟が発生源になっているらしい。


 廃墟には少なくとも三十体以上のアンデッドがいて、並の冒険者では倒せない。


 そこで、アンデッドを討伐しつつ、大量発生の原因を探って欲しいとのことだった。


「なるほど、調査クエストを兼ねているのか」


「アンデッドが増えるなんて不気味ですね。嫌な予感がします」


「大量のザコならオレの得意分野だぜ」


「あたしは今回役に立たないわよ? 感情のない生き物に呪術は効かないもの」


 と消極的だったチトセも緊急時に備えて参加することになり、全員でのクエスト参加が決まった。


 廃墟は山奥にあった。周囲は木々の影で薄暗く、廃墟の年季も相まって不気味な雰囲気が漂っている。


 廃墟には庭らしき場所があり、そこにはすでにアンデッドが五体ほど歩いている。


 アンデッドはおおよそ人の形をしているが、粘土のような体で、身長ニメートル前後だ。


 人を体内に取り込む習性があるため、レオル達は遠巻きに眺めながら作戦を立てていた。


「三十体と聞いていたが、五体しかいない。残りは廃墟の中だろう。まずは地道に数を減らす」


「はい、わたしの出番ですね」


 全員で正面から堂々と庭に侵入し、ルリエが杖を地面に立てる。


「打消しますっ!」


 ルリエはアンデッドの自己再生能力を打ち消した。


 すかさずアッシュがハンマーを振り回すと、アンデッドは簡単に吹っ飛び、地面に吸い込まれるように消えていった。


「ハンマーの威力が上がってるぜ! これまでなら一体につき三発は必要だったけど、一撃だ!」


「本来はそれを数十回繰り返す相手だ。打消し魔法の効果も大きいな」


 レオルの言葉にルリエはふふんと嬉しそうな表情をする。


 すると突然、レオル達の頭上から声がした。


「あァ、厄介だ……打消し魔法。そういえばそんな魔法がありましたねェ……」


 メンバー全員が廃墟を見上げると、三階の窓から顔を出す男がいた。


 顔は紫色。造形は人間と大差なく、やや特徴的な凹凸のある顔だった。


 男は窓から飛び降りると、スタリと着地する。


「私の芸術作品にとっては……天敵……ということなのでしョう……」


 三人は武器を構え、チトセはルリエの背後に隠れた。


「上級の魔物だな」


 レオルは冷静に敵を分析する。


 魔物は人に近いモノほど強い。


 打消し魔法を理解し、流暢に話している魔物は、間違いなく過去最強だ。


「あァ……四人……四人だ……。いつの世でも、数は力……。無力な兵でも構わなィ……増えやすい方が扱いやすィ……」


 魔物は両手を地面についた。


 次の瞬間、辺り一帯の地面が盛り上がり、ボコボコと数百体のアンデッドが現れた。


「まさかっ……あいつがアンデッドを生み出してるの?」


「次々湧いてきやがる! 何体いるんだこいつら!?」


「この数は危険です。レオル様、どうすればいいのでしょう……!」


 本体の魔物を倒さなければ勝てないことに、レオルは気づいていた。


 しかし、アンデッドを放置していたら圧死してしまう。


 レオルは瞬時に考え、決断を下した。


「ルリエはアンデッドの蘇生を打消し、アッシュは数を減らしてくれ。魔物は俺とチトセで倒す」


「本気か!? 上級の魔物だぞアイツ! 特殊魔法まで使ってやがるんだぜ」


「そうよレオル、いくらなんでも無茶よ! 魔物の元に辿り着くことすら難しいわ」


「それにアンデッドも襲ってくるんですよ? そんな中で、一人でチトセちゃんを守るだなんて……」


「問題ない」


 レオルは盾で左右のアンデッドを殴り飛ばし、魔物に向かってゆっくりと歩き始めた。


 チトセは目線を左右させると、覚悟を決めた表情でその後ろをついてく。


 ルリエは心配そうに見つめながら打消しを再開し、アッシュはがむしゃらにアンデッドを倒し始めた。


「あァ……強いねェ……。でも、たどり着けるかなァ……? ここまでの距離は、見た目より遠いィ……よ?」


 レオルから魔物までの距離は五十メートルほどだった。


 しかし、全方向からアンデッドが襲ってくるため、一気に距離を詰めることはできない。


 じわじわと距離を詰めていると、突然、アンデッドはアッシュに右手を向けた。


(やはり、アンデッドを蹴散らしているアッシュを狙うか)


 バヂッ……!


 レオルは瞬時に反応し、魔物の魔法攻撃を盾で弾いた。


「反応が速いなァ……!」


 レオルは魔物ではなく、背後のアッシュとルリエの動きを感じ取ることで、攻撃の軌道を先読みしていた。


 常軌を逸した集中力と、それによって生み出される反応速度に、チトセは目を丸くする。


「レオル、あれに反応できるなんてすごいわ……! いつも後衛から見てたけど、間近で見るとこんな速さなのね……!」


「さすがレオル様です! もうあんなに距離を詰めていますよ!」


 遠巻きに見ていたルリエの表情には希望が見え始め、アッシュも横目でレオルを見るとニカッと笑った。


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