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2 ルリエ・マーレット 前編


 翌日、早朝に宿を出たレオルは、新たな仲間を探しにギルドへ向かった。


 ギルドは冒険者を登録してランク付けし、パーティを組むメンバーを斡旋している。


 他にもパーティを正式に登録したり、クエストの依頼に適正レベルの冒険者を斡旋したり、冒険者と希少な情報を売り買いしたりしている。


 レオルがギルドに入ると、好奇の目が向けられた。


 碧撲の徒のメンバーとしてレオルの顔は知られているが、人々からの評価はばらつきがある。


 尊敬の眼差しを向ける者もいれば、運よく強いパーティに採用されたサブガードとして侮蔑の眼差しを向ける者もいる。ときには面と向かって侮辱してくる者、握手を求めてくる者もいたため、レオルは自らの評価を知っていた。


(平和だな)


 早朝ということもあり、レオルに絡んでくる冒険者はいない。


 レオルはさっそくギルドの受付嬢にサブガードを募集しているパーティがないかと尋ねた。


「レオル様のランクに相応しいギルドはありませんが、一応紹介できるパーティはこちらになります」


「ありがとう」


 レオルは受付嬢から募集要項の紙を受け取る。


 しかし、サブガードの報酬が極端に低く設定されていたり、初心者パーティにも関わらず一線級のサブガードを求めていたり、サブガードを適正に評価しているとは思えない募集ばかりだった。


「やはりそうか」


 レオルは紙を受付嬢に返す。


「よろしいのですか?」


「ああ、急いで組む必要はない。時間をかけて探すことにしよう」


 レオルは碧撲の徒での苦い経験から、サブガードを対等に見てくれる仲間を探そうと考えていた。


 レオルの知名度があれば、妥協すればいくらでも仲間を探すことはできるが。


 しかし、レオルは余生を過ごすわけではなく、いずれは新たなパーティで一線級に返り咲くつもりだ。心優しければ無能な仲間でもいいというわけではない。


 サブガードに偏見がなく、実力も兼ね備えている。そのような条件に当てはまる冒険者は希少だが、レオルは焦らず、他のギルドも探そうと外へ出た。


 早朝の街並みは人が少なく、静かだった。


 しかし突然、女性の悲鳴が聞こえた。


「オークよ! ジャイアントオークが出たわ! 誰か助けてっ!」


 悲鳴の後には人々の叫び声が聞こえた。


 オークは人間の女を攫う習性があるため、稀に人里に出現することがある。まともな冒険者パーティであれば難なく退治できる下級の怪物だが、ジャイアントオークは通常のオークの三倍から五倍の戦闘力があるため、確実に狩るには二戦級のパーティが必要だ。


 レオルは瞬時に声のする方向へ駆け出した。街でジャイアントオークが暴れた場合、甚大な被害を被る。店や民家は何件か潰れるだろうし、人々の負傷も免れない。筋肉の塊のような生物であるオークは、決してスピードの遅い怪物ではないため、一般人が逃げ切ることは難しい。


 ザッ……。


 道の角を直角に曲がり、現場に到着すると、今まさにジャイアントオークが女性を手で掴もうとしているところだった。


 レオルからの距離は百メートル、俊足のレオルでも生身の身体能力では間に合わない。


 レオルは魔力を開放し、女性を自らの方へ引き寄せた。女性の体は浮き上がり、バックステップでもしたかのように、オークの攻撃の射程外まで遠ざかる。


 レオルが使用したのは、盾使いであれば誰もが身につけている技だった。

 攻撃を受けそうな仲間を魔力で引っ張り、攻撃の射程外まで下がらせる回避技。


 ただ一点、並の盾使いとレオルが異なっていたのは、魔力操作の精度だった。


 この技は対象者を引く力が強すぎると、対象者が後方に吹っ飛んで転んでしまう。人間は背中側に吹っ飛ぶことに慣れていないため、冒険者ですら尻餅をつくのはよく見られる光景だ。


 もちろん攻撃を避けることができれば目的達成だが、対象者が転んだ場合、追撃を避けられないし、反撃も遅れてしまう。


 そのため、適正な魔力量、適正な威力、適正な方向へ引くのが良しとされていて、冒険者の技量によって技の結果は大きく変わる。


 レオルが引いた女性は身なり体格からして身体能力の低い魔法使いのようだったが、後方に吹っ飛んだ後は音も無く着地した。


 それは、レオルの魔力操作の精度が寸分の狂いも無かったことを意味する。


 女性を見失ったのか、ジャイアントオークはキョロキョロと周囲を見回す。


 レオルは自身に身体能力強化魔法をかけて、百メートルを一瞬で駆け抜け、盾でオークに体当たりした。


 ドッ……。


 鈍い音がして、オークは片膝をついた。


 ギョロリと黄色い目玉がレオルを捉え、五メートル以上の体躯に相応しい太腕が振りかぶられる。


 しかしレオルが先に、魔力を込めた盾でオークを殴打した。


 オークは倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。


 サブガードといえど、怪物相手に通用する物理攻撃技をいくつか持っており、一線級であればオークをソロ討伐できる。


 とはいえ、ジャイアントオークをソロ討伐したのはおそらくレオルが史上初だろう。


 人々からは歓声があがり、レオルが助けた女性が駆け寄ってくる。


「レオル様っ……! 助けてくださり、ありがとうございますっ……!」


 サラサラと揺れる長い銀髪、目鼻の整った顔立ち、澄んだ声の持ち主の美女だった。服装は白のローブ、一線級魔法使いにのみ着用を許されている代物だった。


「わたしはルリエ・マーレットと申します。本当に危ないところを救っていただき、ありがとうございました」


「怪我は無いか?」


「はい、お陰様で無傷です」


「そうか」


 ルリエが微笑み、人々からは「良かったな姉ちゃん」などと声がかけられる。中には「サブガードってあんな強いの?」と疑問を口にしている青年や、ぽかんと口を開け羨望の眼差しを向けている子供もいた。


 レオルは悪くない心地に包まれながらも、オークをギルドに届けようと、魔力で引きずりながら歩きだした。


 ルリエは後ろからパタパタとついてきた。


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