18 ダークドラゴン 中編
ドラゴンと戦う上で、これほど相性の良い防御技は他にない。
しかし、ルリエは全力で打消し魔法を使用しているため、長期戦になるとやや分が悪い。
「やはり降りてきませんね」
「魔力の打ち合いなら人間に勝てると考えているのだろう。予定通り、落とすしかない」
「よっしゃ! オレの出番だな!」
とアッシュが赤い髪をかき上げる。
人は魔力を使用すればゆっくりと宙に浮くことはできるが、魔力消費量が激しいため、他の攻撃技を併用することができない。
空中で人とドラゴンが戦った場合、蚊と鳥くらいの戦闘力の差がある。
つまり、レオル達がまともにドラゴンと戦う為には、地上戦に持ち込む必要があった。
アッシュは全身を魔力で包み、防御力を高めた。
レオルは盾に魔力を込め、斜め下に振りかぶる。
「準備は良いな?」
「おうよ」
「ではいくぞ。三……二……一……」
ゼロの合図と同時に、アッシュが軽くジャンプし、その足をレオルが盾で上へ弾いた。
レオルが使ったのは、ジャイアントオークを殴り倒したときの技だ。それを上に向けて発動した。
アッシュは打ち上げ花火のように上空へ浮き上がる。
「地上戦に付き合ってもらうぜ!」
ハンマーをブンッと振り回すと、ドラゴンの羽に当たった。
アッシュはそのまま落下し、塔の下に着地する。
バランスを崩したドラゴンは斜め下に向かってグラグラと飛び、アッシュより少し手前に着地する。
ドラゴンは魔力で空を飛んでいるわけではなく、魔力で体を軽くして翼で飛んでいる。
そのため、片方の翼を攻撃すればバランスを崩して飛べなくなる。
また、飛行時は体を軽くしているため体重ほどのパワーはなく、アッシュのハンマーでも撃墜することができた。
(ここまでは順調だ)
レオルとルリエは塔の天辺から飛び降り、七メートルほど落下し、魔力によって難なく着地する。
「アッシュ、引き続き翼を狙ってくれ」
「まかせろ!」
おそらくドラゴンは先ほどの攻撃を学習しているため、次に羽ばたかれたら再度撃墜するのは不可能だ。
そのためアッシュが左右どちらかの翼を攻撃し続けることで、飛行を阻止する。
ドラゴンは咆哮しながら、再び火炎攻撃を繰り出す。
しかし、ルリエが打消す。
「ゴアアアアアアアア!」
この場で厄介な人間が誰なのか理解したのだろう。ドラゴンはルリエに向かって突進してきた。レオルはすかさず前に出る。
「俺が止める」
「無茶ですっ! ドラゴンの力ですよ!?」
ドラゴンの全長は十メートルほど。二本足でしっかり地面についているため、人間の十数倍のパワーを出せる。怪物の上位三位以内とも言われるその力を、生身の人間が止めることはできない。
しかし、レオルは受け止めた。
ドラゴンの突進の勢いで振りかざされた爪を、ウロボロスの盾で止め、一歩も後退していない。
ドラゴンは前へ出ようとするが、一歩も進めない。レオルが力で勝っている。
「な……なぜ……そんなことができるのですか?」
「盾のおかげだ」
レオルがドラゴンを止められた理由は二つあった。
一つはウロボロスの盾の特殊効果。
ウロボロスの盾に通した魔力は、触れたものの動きを鈍らせる特殊効果が発生する。
以前チトセがウロボロスと目を合わせたとき、全身が硬直し呼吸すらできなくなったが、盾にも類似の効果があった。
本来のウロボロスの効果ほど強力ではないが、ドラゴンの勢いを半減させることができた。
さらに、レオルは残りの魔力を身体能力強化に使用しているため、力は十倍以上に跳ね上がっている。
二つの合せ技がドラゴンの力を上回った。
しかし、レオルは全力を出しているため、この状態は一分と持たない。
「ルリエ、俺は一歩も下がらない。だから常に俺の側にいてくれ」
ルリエはわずかに頬を赤らめ、「はいっ!」と返事した。
レオルの側にいてくれというのは、前衛にいてくれという意味だ。
このような戦法を取るのには理由がある。
ドラゴンは炎を吐きながら『首を振る』からだ。普段のようにルリエが後衛に下がったら、ドラゴンの炎が打消しの効果範囲外になる危険がある。
開けた場所ならそれでも良かったのだが、今戦っている場所は街中だ。
街を守るため、ルリエはドラゴンの目の前で炎を打ち消し、そのルリエを守るため、レオルは一歩も引かずにドラゴンの攻撃を受け止める。
「ゴガアアアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンが首を振りながら咆哮した。
はた目から見たら咆哮にしか見えないが、炎を吹こうとしてルリエに打ち消されたのだろう。
レオルはその後も三十秒ほど、ドラゴンの攻撃を防ぎ続けた。




