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16 ウロボロス 後編


 そんな攻防が三分ほど続いたが、ウロボロスはダメージなど受けていないかのように動き続けている。


「どうなってんだ!? オレのハンマーが効いてねえのか!?」


「おそらく、あの鱗が魔力を弾いている。大技なら通りそうだが、上手く当てないとダメージを地面に逃がされる」


 ウロボロスはアッシュの通常攻撃を十発以上受けているが、蓄積ダメージは無さそうだった。


 また、一発だけ胴体に大技が入ったが、それすらも少し怯んだ程度だった。


「動きを止めるためには、大技を頭に当てるしかない」


「あの動いてる頭をどうやって殴るんだよ!?」


「俺が隙を作る」


 そう言うと突然、レオルは目にも止まらない速さでウロボロスの首を盾で叩いた。


 ドッ……。


 ウロボロスは全く反応できず、その頭が地面で跳ねる。


 レオル以外の三人は驚愕の表情でそれを見つめ、アッシュが口を開いた。


「レオル、なんだその速さは!? 一体何をしたんだ?」


「全魔力を身体能力強化に使った」


「全魔力を!?」


 身体能力強化魔法は全身に魔力を巡らせて、体の動きを数倍に高める技だ。


 筋肉が増えたかのように身体能力が高まる一方で、繊細な動きができなくなる。


 そのため、通常は体が制御できる魔力量に抑えて使用する。


 もしも魔力が強すぎると、軽く手を前に出しただけでも強力なパンチを撃ってしまい、腕を脱臼するなどのリスクがある。


 通常は自分の魔力の一割が限度。レオルのように全魔力を使用したら、わずかな動きのミスで自らの命を落としかねない。


 そのような高難易度の技を成り立たせるためには、水中の生物が陸で動くかのような、普段とは異なる体の動かし方を要求される。


 レオルは研ぎ澄まされた感覚と脱力によって、それを実現していた。


 レオル以外の三人は「全魔力を身体能力強化に使った」という言葉に耳を疑ったような表情をしたが、すぐに真剣な表情に切り替わった。


 レオルの盾攻撃のおかげで、ウロボロスの動きが鈍っている。今が最初で最後のチャンスだった。


 アッシュが飛び出し、ウロボロスの頭をハンマーで殴る。


 ドッ……!


 鈍い音が響くと、脳震盪を起こしたのか、ウロボロスの胴体の動きがピタリと止まった。


 駆け寄ったチトセが両手でウロボロスに触れると、数十本の黒い線がウロボロスの体を包み込んだ。


 バシュッ……。


 レオルは内心、ウロボロスの鱗にチトセの攻撃が弾かれたら打つ手がないと考えていたが、どうやら呪術は有効だったらしい。


 ウロボロスが動かなくなると、ルリエが銀色の髪を揺らしながら駆け寄ってきた。


「レオル様、お身体は大丈夫ですか……!? 全魔力で身体能力を強化するだなんて危険なことを……!」


「問題ない。心配かけたな」


「はぁ……よかったです。でも、あまり無茶はしないでださいね?」


 心配そうな表情のルリエに、レオルは頷いた。

 体は問題なかったが、全力でウロボロスを叩いた盾にはヒビが入っていた。


(また買い替えなければならないな)



 * * * * *



「白創の古の皆様、ありがとうございます! お陰様で、ギルドの評判がまた一層上がりそうです!」


 受付嬢は満面の笑みでレオル達を迎え、その後ろのカウンターでは、他の受付嬢達がハイタッチしていた。


 王族の依頼を成功させたことで、今後もレア怪物の討伐依頼がギルドに回ってくるかもしれない。


「また白創の古がやってくれたぞ! ウロボロスを倒したらしい!」


「あの不死身の怪物を倒したのか!? 攻撃が全く通らないって話じゃなかったのか!?」


「目を見たら動けなくなるとも聞いたぞ。一体どうやって倒したんだ……?」


「全盛期の碧撲の徒以上の活躍だわ! 白創の古はこのギルドの誇りね」


 大いに盛り上がっているギルドの喧騒を聞きつつも、レオルは受付嬢と報酬受け取りなどの手続きを済ませる。

 そして捕らえたウロボロスを引き渡そうとすると。


「いえ、レオル様。今回は捕獲依頼ではなく討伐依頼ですので、ウロボロスは皆様のものになります」


「貰っていいのか?」


「ええ、ギルドは王族から別途報酬を貰っていますので、遠慮せずどうぞ。鱗は武器に使えますし、身は食べても美味しいそうですよ」


 貰えるのであればありがたい話だった。王族からの依頼ということで元々多かった報酬に加えて、ウロボロス一匹はその報酬と同等の価値がある。


(身の部分はルリエが調理してくれるかもしれない。以前ドラゴンでも捌けると言っていたな。

 しかし鱗の方は、このような特殊な素材を加工できる武器職人は少ない)


 どうしたものかと考えていると、体格のいい老人がレオルに話しかけてきた。


「それは……ウロボロスじゃな。鱗だけでも良いので、ワシに譲ってくれんか? 正当な価格をつけるぞい」


「老人、武器職人か?」


「ああ。この道五十年のベテランじゃ。ウロボロスの鱗で一級品の武器を作れるのはこの街ではワシくらいじゃよ」


「そうか、それなら譲る代わりに、こいつで俺に小盾を作ってくれないか」


「ふふふ、小盾とは珍しいな、腕が鳴るわい。ウロボロスの盾には特殊効果もある。楽しみに待っておれ」


 その夜、ルリエがギルドのキッチンを借りてウロボロスを捌き、ギルドにいた全員に厚切りの肉を振舞った。


 見た目のインパクトとは裏腹にあっさりした上品な味で、体がポカポカと温かくなり、力が漲ってくる肉だった。


 レオル達は同じテーブルで酒と食事を楽しみながらも、その周りには色んなパーティが代わる代わるウロボロス討伐の話を聞きに来て、その活気は朝まで止むことはなかった。


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