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15 ウロボロス 前編


「レオル、また新しい盾買ったの?」


 朝一、いつも通りギルドに集合したところ、テーブルにつくなりチトセがレオルの装備に興味を示した。


「ああ、前の盾は壊れてしまったんだ」


「わたしと会ってから五回ほど買い替えていらっしゃいますよね。わたしは盾について詳しくないのですが、消耗品なのでしょうか」


「いや、そんなことはないんだが……」


 レオルが盾を買い替えたのはきっちり五回。よく覚えているなとルリエに感心しつつ、どう答えるか考える。


 盾は物理攻撃を防ぐ他に、魔力を効率的に魔法へ変換する役割を持つ。


 たとえば防御壁を展開するには魔力を壁の形に変える必要があるが、盾に魔力を通せば自然と魔力は平らな壁のような形に展開される。


 技の発動時間の短縮と魔力の無駄を無くす二つの効果があった。


 レオルは先日のラフレシア盗賊団戦では、本来大盾で使用する技を小盾を用いて使用したため、盾が膨大な魔力に耐えきれずにヒビが入った。


 魔物と戦ったときは魔物の強力な攻撃を受け続けたことで持ち手が壊れたし、ジャイアントオークを盾で殴ったときは盾が歪んだ。


 レオルは盾を大切に扱っているが、短期間で五回壊した事実を正直に言うと誤解を受けそうな気がした。


「もっとレアな盾に買い換えたらどーだ? 特殊効果付きのとかいいじゃん。オレは詳しくねえけど、強いんだろ?」


「手に入れられるなら欲しいが、一般市場には出まわっていないんだ」


 同じく武器を頻繁に買い替えているアッシュの問いに、レオルは小さく首を振った。


 武器の中には、一度魔力が武器を経由することで特殊な効果を得るものがある。


 わかりやすいのは魔法使いの杖で、魔力が炎に変換されたり、毒効果のある毒魔法へ変換されたりする。


 そのような武器は希少な怪物の牙などを素材としていることが多く、経済力があっても運が無ければ手に入らない。


 特にレオルが使用する小盾は、一般的にパーティーでの重要度が低いとされているサブガードの武器のため、特殊効果のあるものが少ない。


 希少な怪物の素材は基本的に、大盾や剣や杖に使われてしまう。


「白創の古の皆様、少々よろしいでしょうか。どうしても受けていただきたい依頼があるのです」


 受付嬢が緊張した面持ちでレオル達に声をかけてきた。


「クエストの依頼なら歓迎だ。こちらから依頼がないか聞こうと思っていたところだ」


「ありがとうございます。実はここだけの話、王族から当ギルドへ直々に依頼されたクエストなのですが」


 受付嬢の話した内容は、ウロボロスの討伐依頼だった。


 ウロボロスは人を丸のみできるサイズの蛇の怪物だ。

 伝説級の怪物と恐れられていて、自らの尻尾を噛み『輪』の形になっているシンボルで表されることが多い。


 意味は循環。


 あまりの防御力の高さに不死身と恐れられていて、警告の意味でそのシンボルが作られた経緯がある。


「そのウロボロスが王族の城の裏山に巣を移したため、皆さまに討伐していただきたいのです」


「こりゃまたすげえ依頼だな」


「王族は当ギルドが魔物を討伐した実績を評価して、このクエストを依頼されたそうです。つまり、白創の古の皆様にしかクリアできない難易度のクエストだと思われます」


 王族からの依頼を成功させれば、ギルドの評判は急上昇する。逆に失敗した場合、二度とこのようなクエストは依頼されないだろう。


「もちろん、受けよう」


「ありがとうございます!」


 先ほどまで不安に押しつぶされそうな表情をしていた受付嬢だったが一転、喜びに満ちた表情に変わった。レオルは彼女から依頼表を受け取ってサインをする。


 その後、レオル達はウロボロスについて知っている情報を共有したが、伝説の怪物のため情報が少なく、防御力が高いということしかわからなかった。


 ウロボロスの巣は森の深くにあった。


 レオル達は木々の間を進み、途中で湧き水を飲んだりして休憩しながら、目的地付近まで辿り着いた。


 あとは標的が現れるまで待つだけだと思ったそのとき。


「あ……」


 チトセの声に全員が振り返った。


 全長が見えないほど長い蛇、頭だけで一メートル近くある。その白い目は怪しい光を発していた。


 チトセはウロボロスと向かい合ったまま動かない。


 本来なら逃げるはずだが、微動だにせず、声も発さない。

 チトセがそれほど怯えるのは不自然だ。


 チトセは魔物との戦闘経験があり、この程度の怪物を見ただけで足が竦むとは思えない。


 その違和感に、レオルは答えを出した。


「ルリエ、打消してくれ。ウロボロスは特殊な魔法を使用している可能性が高い」


「はいっ! レオル様!」


 ルリエが白い杖を振ると、チトセは硬直が溶けたように走り出し、後方へ下がった。


 荒く呼吸をしている。


「なんなのあいつ……睨まれたら呼吸もまともにできなかったわ」


「おそらくあの目から見えない魔法を放っている。ルリエは打消しに専念してくれ」


「はいっ、レオル様」


 全員が基本の立ち位置に付くと、まずはアッシュがハンマーを振りかぶって飛び込んだ。


 しかし、ウロボロスは細長い体をうねらせてアッシュを軽々と躱し、ルリエに飛びかかる。


「すまねえっ! 逃がした!」


「問題ない」


 レオルが魔力を込めた盾で蛇の突進を防ぐ。

 そのときレオルは盾が軋むのを感じた。


(魔力を貫通している)


 盾の前面には青色の魔力壁を展開していたが、ウロボロスはその壁を突き破っていた。


 鱗は魔法をほとんど通さないのだろうとレオルは察した。


 その後も攻撃を防ぎ続けるレオルだったが、魔力を貫通されるため盾の傷が増えていく。


 さらに、それよりも深刻だったのは、アッシュの攻撃が一度も当たっていないことだった。


 ウロボロスは動きが素早く、足を持つ生物とは異なる動き方をする。

 その対応にアッシュは苦戦していた。


「アッシュ!」


「すまねえ!」


 レオルがしっ責するとアッシュは勘違いしたのだろう。

 しかし、レオルが言おうとしていることは違った。


「アッシュ、俺の身を気にするな。俺に攻撃を当てるつもりで構わない。敵の動きだけに集中するんだ」


 その言葉にアッシュはハッとなった。


 レオルの目から見て、アッシュはレオルに攻撃が当たらないように気を遣っていた。


 しかし、そのような制限がある限り、不規則な動きをするウロボロスに攻撃は当たらない。


「んじゃ、遠慮なく!」


 アッシュはレオルの発言をすんなり受け入れると、大ぶりにハンマーを振り回した。


 レオルがハンマーを難なく躱すと、ウロボロスの胴体に当たる。


 ドガッ……!


「やったぜ!」


 ウロボロスは少し怯んだが、再びルリエ達の方へ突進した。


(させるか)


 ガキンッ……!


 レオルが間に入り、盾で防いだ。


「信じられないわ。アッシュの攻撃を避けながらウロボロスの攻撃を防いでる……どれだけ器用なの?」


「実質、二対一で戦っているようなものですね……すごい盾捌きです。わたしはレオル様に出会ってから、何度も驚かされていますよ」


 後衛で余裕のあるチトセとルリエは目を丸くして、レオルに対してそんな感想をこぼしていた。


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