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11 初陣 前編


 レオル達は受付嬢に続いてギルドの外へ出て、人気のない街の寂れた場所まで歩いた。街を出ればこのように、廃れた建物がそのまま残っている場所はいくつもある。


 レオル達が先に到着し、その数秒後、建物の影から人型の魔物が現れた。


 魔物は紫の肌で男性型、目は二つあり、鼻や口も人間の造形に近い。手足のバランスや耳が尖っている部分は人間と異なる。


 そして、魔物は片腕で人質を抱きかかえていた。


 ギルドの給仕役の女性だった。レオルは何度か彼女を見かけたことがあり、おそらく一言二言は言葉も交わしたことがある。


 笑顔の印象的な彼女だったが、今は魔物の左手に抱えられ、その表情は恐怖に染まっている。


「ウゴクナ」


 魔物は耳が痛くなるような声で、人の言葉を発した。おそらく人間と同等の知能があり、他言語として人の言葉を修得している。


 しかし、レオルを呼び出しておきながら人質を取っているということは、魔物がレオルの強さを警戒しているということでもある。四人パーティーになった今なら勝てる相手だろうと、レオルは冷静に敵を分析する。


「クソッ……卑怯だぞてめえ!」


「魔物が人質を使うだなんて……こんなの、どうしようもありません…………」


「……ねぇ、レオル。どうしたらいいの……?」


 チトセが何かを求めるようにレオルの服の裾を掴んだ。


 後方では、ここまで案内した受付嬢が泣きながら「申し訳ありません」と謝っている。彼女に非はないが責任を感じているようだ。


 そんな周囲の反応とは異なり、レオルは魔物の脅しに動じていなかった。


「問題ない。ルリエ、チトセ、アッシュ、戦闘態勢に入ってくれ」


「レオル様!?」


「何を言ってるのレオル! あの人が見えないの!?」


「オイ、そりゃ無理だぜ! この状況じゃ!」


 動揺した三人の声を聴きながらも、レオルは冷静に続ける。


「俺はサブガードだ。守ることに特化している。他の役割の者が相手なら人質も有効だっただろうが、俺相手に人質など、最も効果の薄い戦法だ」


 防御魔法のレパートリーにおいて、レオルの右に出る者はいない。このような状況を想定した技も当然習得している。


 レオルは右手から勢いよく水色の魔力を放出し、人質の女性の全身をその魔力で包み込んだ。


 絶対に人質を守ろうと考えていたレオルの動きには僅かの躊躇いも無かった。

 一方で、人質を取っているから何もされないだろうと高をくくっていたであろう魔物は反応が遅れた。


「ウゴイタナ!」


 魔物はそう叫ぶと、手を人質に向けて光線のような魔法攻撃を放ったが、今更遅い。

 水色の魔力には傷一つつかず、人質の女性はただ驚いた表情をしている。


「ナゼダ……?」


 魔物は水色の魔力をじっと見つめた。


 レオルが使ったのは、緊急時に使われる最大の防御魔法、通称ーー繭守マモリ

 

 全身を高濃度の魔力で包み込むことで、全方向のあらゆる攻撃から身を守ることができる。ただし、発動すると動けなくなるため、緊急時にしか使われない。


 今回のように元々動けない人質に使用するのなら、動けないことは問題にならない。


 しかし、別の問題があり、それに唯一気付いた者がいた。


「レオル様、まさかっ……ご自分の魔力を全て彼女に……!?」


 ルリエは驚愕の表情を浮かべた。

 それも無理はない。レオルは全ての魔力を人質の女性に使用していた。


 それは魔物を前にして、自身を魔力で守ることができないということ。戦場で自らの鎧を他人に譲るような行為だった。


 魔物は繭守を剥がそうと爪を立てていたが、攻撃が通らないと悟ったのか、黄色い目でギョロリとレオルを捉えた。


「ソウイウコトカ……」


 魔物はレオルに手を向け、次の瞬間、視界を覆うほどの特大魔法を放った。


 一瞬のことだった。


 威力、攻撃範囲ともに、先日レオル達が戦った魔物とは比べ物にならない。


 身体能力強化魔法すら使っていないレオルに、避けられるはずもなかった。


 しかし。


 バシュッ……。


 魔物の放った特大魔法はレオルの目の前で霧散した。


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