表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
7/34

第7部分 経済効果Ⅰ

第7部分 経済効果


 IR(統合型リゾート、カジノ)のメリットはズバリ、直接の経済効果、およびその波及効果である。…というか、それしかない。


①邦人(日本国内)客の増加

②外国人富裕層の観光客の増加

③IRで直接働くヒトの雇用の創出

④周辺地域の宿泊業界、交通業界、物流業界等の活性化と雇用の創出


 「停滞している」と言われる日本経済を活性化させるための打開策として、IRにはこういった経済効果に対して大きな期待が掛けられている。しかし以下に挙げるような危機感も根強く残っており、「IR推進法案」成立までには国会での「審議見送り」や「廃案」が繰り返されてきた経緯があった。


 成立した法案の中での自治体の取り分(控除率に相当)は以下のようになっている。なおカジノでは現金や預金を交換した「チップ」による賭博しか認められていないが、ここでは分かり易く示すため、金銭として換算表記してある。


 また金持ち坊ちゃんから貰ったのは「チップ」だったが、カジノの「チップ」と取り違えないように「心付け」と表現していることも併せて御了承願いたい。


≪国庫納付金および認定都道府県等納付金≫

 しばらくあとの話になってしまうが、この納付金についてオレがレナに説明を試みたときの会話を再現してみようと思う。まるで予告になってしまうが、オレとレナはやがてお付き合いを始めるようになるのだ。ちなみに控除率や還元率は、説明用の仮の数字である。


 まず、≪国庫納付金および認定都道府県等納付金≫の根拠から紹介してみよう。


 『自治体から経営を委託された会社などのカジノ事業者(以下胴元と表記)は、

【① 賭金総額】+【② カジノ行為により得た利益】―【③ 払戻金】

により算出された金額④の15%の金額⑤を国庫納付金として納付し、

同じく15%の金額⑤を認定都道府県等納付金として納付しなければならない。』


 具体的に数字を入れてみよう。

「まず、【① 賭金総額】というものは、みんなが掛けるカネ全部だ」とオレ。

『一回1万円とか?』 と笑うレナ。

「一人の客が一晩で50万円使うと50万円、そういう客が100人いたらいくらだろうね」

『50万円を100人分… だよね。えっとゼロいくつくっ付けたらいいの?』

「50万円×100人=①5000万円 だね。これはダイジョブだね」

『うん、ダイジョブ。ゼロの数は適当だけど… ふふ』


「じゃ次は【② カジノ行為により得た利益】の説明ね」

『そもそもカジノ行為って何なの? パチンコとかスロットとか?』

「パチンコとかはね、金ではなく【景品】を稼ぐという扱いなんだ、事実上はさ、すぐ近くで換金できるんだけどね」

『ええっ? なにそれ? 区別がわかんない』

「カジノの定義は《偶然の事情により金銭の得喪を争う行為》。だからゲットするのが金銭なら【賭博】ってことになるね」

『えっ? まさかパチンコは景品だから賭博ではないって?… そんな、まさか?』

「その、まさかなんだよね、リアルに」

『そのさぁ、景品って何なの?』

「よくわからん透明な袋でがっちり包装している靴下とか、そういう品物さ」

『靴下もらうの? 意味わかんないなパチンコ…』

「ふふふ、その靴下をね、すぐ近くの小さい小屋みたいなとこにいるオバサンに差し出すとね」

『差し出すと?』

「なぜかね、なぜかおカネに替わって戻ってくるのさ」


『え、え? ナニナニ?』

「つまり、靴下という品物をね、オバサンが買い取っておカネにしてくれたワケ」

『え? そんな面倒じゃん。だったらお店でおカネにしてくれればいいのに』

「それだとパチンコは【金銭の得喪を争う行為】、つまり賭博になってしまうから」

『…?  …! ああ、つまり言い訳みたいな感じ?』

「そうそう、おカネじゃないよ、品物だよっていう言い訳だな。パチンコってのは、本質的には賭博という違法行為ギリギリの業界なんだ」


『じゃあさ、街のパッチ―屋さんはなんで捕まらないの?』

「そりゃね、あの業界は893屋さんだけでなく政治家やら警察やらそういうOBやらとかに食い込んでるし、献金も多いらしいしね。お近くの敵性国家とか敵だか味方だか分からんゴネゴネ国家とかも深く絡んでるというウワサだよ。」

『そんなに…? なんか、やーな感じね』

「たぶん、闇深いんだろうなぁ… 」


『あ、まるで詐欺みたいな言いワケで正当化するのね。じゃあ偶然って何? サイコロみたいなやつ?』

「サイコロ、丁半、トランプ。みんなそれぞれの確率は等しいって教わったでしょ」

『サイコロは1から6、丁半は半分ずつ、トランプはアメリカの大統領だったね』

「ははは、うまい!」 オレは続ける。


「そういう《確率で賭け事をする》のは基本禁止だったのさ、公営ギャンブル以外はね」

『え、ごめん、公営ギャンブルって何?』

「競輪 競馬 オートレース あとは競艇あたり」

『あああ、聞いたことあるよ。じゃ今は良くなったの?』

「それがカジノ法案なんだ、カジノだけで通用させるのさ」

『ホントはイケないけど、ここだけならまあ良いにしちゃおっか、みたいな感じ?』

「そうそう。それで賭け事を仕切る側を、昔は胴元、今は《カジノ事業者》って呼ぶよ」


『昔の呼び名の方がわかりやすいな』

「そだね。で、胴元は賭博のたびに手数料を取るんだ。数回の平均でも良い」

『ちょっとガメツクない?』

「手数料無いと収入も無いよ。場所代しょばだいも電気ガス代も払えないよ」

『そっか、じゃあ仕方ないね』

「その手数料の計算してみてよ。」

『任せて!』


『胴元に入る手数料は、1回2万円の賭博を160回とすると… いくら? それが②だ』

「2万円 × 160回 = ②320万円 だね。そのくらいレナでも… バカにしてる?」

「してないって。ちなみに手数料のことを昔はテラ銭と言ったよ」

『テラって… お墓有りそう。ははは』

「それ正解。昔はお寺が賭場っていう会場を貸してたんだ。それでテラ銭」

『やったぁ、レナ正解! 次行こっ! 【③ 払戻金】だよね』

がぜんヤル気を見せるレナ。たぶん褒めると伸びるタイプだ…


「そう、【③ 払戻金】はね… 例えば10人で1万円ずつ賭けを一回する。掛け金総額は?」

『10万円!』

「そうそう。で、2万円を胴元が抜くというか、持っていく。掛け金の残りは?」

『8万円… えっ、ちょっと待って、2万円ってそんなに胴元が抜くの?』

「これを控除率って言うんだ。控除率20%。これでも宝くじよりだいぶマシな設定にしてみたんだよ」

『納得いかない』

「納得いかない人は、賭け事しなけりゃいいんだよ」

『あ、そうか』


「で、さっきの8万円ね。これが【③ 払戻金】だ。この割合が還元率、この場合80%だ」

『うん、わかるわかる』

「仮に8人が負けたとすると賞金はゼロ円。勝った二人は、一人あたりいくら貰える?」

『8万円を二人で分けるから4万円、だね』

「御明算でした。ほめほめ… もうちょっと規模を大きくするよ」とオレは続ける。


「今まで予習ね、本番行くよ。今度は客100人まとめて今みたいな計算をしてみるよ」

『ああ、なんか自信ないなぁ』

「一晩で100人それぞれが勝ち負けする。合計で損したヒトも得したヒトも出るよね」

『うん、負ける人の方が多いのよね。胴元は儲けてるんだから』

「おお、さすが。で、全員分の勝ちを合計すると、払い戻した金額と同じになる」

『えっ。どゆこと?』

「ほら、さっきの8万円と同じ。10万からテラ銭2万を引いたら8万だろ?」

『ええっ? あ、そうか。その8万円を何人でややこしく分けても、合計8万円だもんね』

「さすがっ! じゃあ、還元率80%として、計算してみようか」


オレは紙に書いてみた。

【① 賭金総額】+【② カジノ行為により得た利益】―【③ 払戻金】を計算する!

①=50万円×100人=①5000万円 (50万ずつ100人が賭博した)

②=2万円×160回=②320万円 (テラ銭2万円の勝負を160回した) 

③=①5000万円×80/100=③4000万円 (掛け金の80%を還元した)


 つまり①5000万円+②320万円―③4000万円=④1320万円 になるワケだ。


『やっとできたね』

「えっ、まだ途中なんだけど」

『もうメンドイ…』

「あともうワンステップだから」


『ねえタク、寄りかかってもいい?』

「さっきから寄りかかってるじゃん」

『あ、これ無意識だった。今から意識するね』

「ふふふ、可愛い! そういうとこ好きなんだ」


『じゃ、チュってして』

「あああっ、もうちょい待ってって」

『あと何秒?』

「んんん、こりゃ重病、恋の病の熱高し、さ、もうちょっと頑張って」

『ねえ、チュっ!』


 こういうときは素直に言うことを聞いた方が良い、とこれまでの経験が語っていた。

「はいお嬢様、喜んで ぶちゅっ!」

居酒屋の店員か? オレは…


『仕方ねぇなぁ… この④は?』

レナ可愛い!


「④はこれから国と市町村自治体に払うカネの計算根拠にするカネ」

『どんな意味があるの?』

「客が少なくて流行ってないと④の金額は小さいだろ。①が掛け金、②がテラ銭だもん」

『ああ、うん!』

「逆に客が多くて流行ってると、④はとんでもない金額になる」

『だからたくさん税金を戴いちゃおうってワケね』

「まさにそれ! さすがレナ! ④の15%ずつを戴いちゃうのさ」

『えっ、誰が?』


「国と市町村自治体が、さ」

『ええっ、国も儲かっちゃうの』

「国会で審議したのはだぁれ? 国民代表でしょ?」

『そっか。レナもタクも国民だもんね』

「そう、じゃいくらかな?」


『えっと15%ね』

レナが紙に書いていく。


④の15%は、  1320万円 × 15/100 = ⑤198万円→国庫納付金(国へ)

同じく15%は、 1320万円 × 15/100 = ⑤ 198万円→認定都道府県等納付金


これでできた。レナお疲れ、よく頑張ったね。オレも頑張ったけどこれは声には出せない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ