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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第6部分 霊柩車(れいきゅうしゃ)

第6部分 霊柩車れいきゅうしゃ


 久しぶりだった。オレは隣の県の出身だが、今夜は珍しく高校時代のツレと誘い合わせて遊びに出たのだ。懐かしさの勢いで飯を食い、酒を呑み、ギリギリ終電に間に合って…


 よせばいいのに到着駅でラーメンを食べ、おでんをつまみにもう一杯。ここで酔いが一気に回り、体調も按配悪くなってきてしまったのだ。うっ、酸っぱい唾液が分泌されてきた… ヤバい、吐きそう…


 オレは飲酒が予想されるとき、必ず胃薬二回分を持って出る。胃の中身をリバースすると、口は酸っぱく歯はキシキシ、喉や食道がヒリヒリ傷んでしまう。


 高校の生物教師は、

『あれは胃液の酸性度が強いからだ。pH 2(ペーハー2)もあるんだぞ」

と表現していた。そのpH 2がよく解らないんだけどね、センセイ… 


 その教師はさらに続けた。

『どうせ授業の内容なんて大抵忘れちまうんだけどな、これだけは覚えとけよ』

ほほう、そりゃいったい…


『いいか、君らが将来リバースする時に思い出すんだ。吐くと気持ちモア悪くなる』

ふむふむ、ごもっとも。でもヘンな英語使うなやぁ…


『そんなときはな、どれでも良いから胃薬を飲んで、水飲んでジャンプしろ』

そんな、酔っぱらった上に気分悪いときにジャンプなどできるものか。

あ、高校生だった…


『要するに胃の中身を混ぜるんだ。胃薬の炭酸水素ナトリウムが胃液を中和するから』

炭酸水素ナトリウムは別名重曹じゅうそう、水溶液はpH 9の弱塩基性なんだそうだ。


『それから吐けば、ウソみたいにラクだから。このあともう一回分薬を飲み足しておけよ』


 これはホントだった。彼の生物の授業など予言どおり綺麗さっぱり忘れたが、この知識だけはホントに重宝している。懐かしいな、あのおハゲさん何してるだろ…


 午前三時くらいだった。フラフラと帰る途中にあの金持ちお坊ちゃまの家がある。そう、以前サイフを落としてしまった、あのあたりだ。

 裏の門のやや引っ込んだところで一休みしているとき、また以前と同じようなものを見てしまった。この場所は道路が緩い曲線になっていて、大通りからはまず見えない場所なのだ。


 ではその場所はどこか、というとオレのもうひとつのバイト先である巨大ホテルに面した一角なのである。本当はすぐ近くに別の門があるのだが、現在工事中で使えない。あくまでも臨時の出入口としてその場所が使われているようだった。

 やや大きめでゴテゴテ飾りがついたバンタイプの車が路上に止まり、今日も何かを積み込んでいる。オレはまず、オレの後ろを振り返り、誰も居ないことを確認した。そしてその車を観察することにした。その車にやがて運転手が乗り込み、ゆっくりこちらに来た後、前と同じように右折して去って行った。


 アレ、やはりこれってあの霊柩車っぽい感じだよな。


 では積み込んだのは死体なのだろうか?

前回は包みが動いたよな…でもこれと似たような車だったような…


 あはは、あれはたまたま片足を持つ手が滑っただけだよな、あははは。ちょっと変な想像をして慌てて打ち消した。


 あのときはバイトで疲れてたしな… 


 今夜も酔っ払ってるしな、あははは…


 まさか、そんなことが、ねぇ。



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