第4部分 特別立法
4節 特別立法
ある外国のグループが日本のIRが東京・大阪・沖縄にできたときの市場規模を1兆5000億円と見積もったという。これは世界第2位(1位はマカオ)に相当するとのことだが、本当だろうか。だいたい実施前はホラを吹くものだし、外れてもいくらでも理屈はつけられるものだ。
またその当時は以下のようなことを考慮して特別立法したと言うが、本当にその趣旨は守られているだろうか。
刑法によると、賭博行為は、
「勤労などの正当な理由ではなく、確率的な偶然の事情によって金銭などを獲得するために人と争うもので、勤労意欲を削ぎ、射幸心を煽り、副次的な犯罪を助長するから社会の風俗を害する行為として処罰する」
と規定されている。もう少し細かく刑法の規定を引用してみよう。
刑法第185条(賭博)
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
この「一時の娯楽に供する物」とは「一時娯楽のために消費する物で、飲料や食事などまたはその購入資金」を指すもので、金銭そのものはダメなようだ。
刑法第186条
1.常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2.賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
見れば、相当な重罪であることがわかるが、逆にその分旨味もあることなのだろう。
これに対して刑法第35条には、「法令又は正当な業務による行為は、罰しない」という規定があり、法律の規定に従っているならば、違法性は問われることはないのだ。
公営競技等は、財政上または経済上の政策的理由があるから、本来違法であるはずの「行為の違法性を解除している」のだと言う。それが競輪、競馬、競艇、オートレース、宝くじなどの公営ギャンブルの根拠ということになる。
ついでだから、宝くじに関する刑法も挙げておこう。
刑法第187条
1.富くじを発売した者は、2年以下の懲役又は150万円以下の罰金に処する。
2.富くじ発売の取次ぎをした者は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
3.前2項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、20万円以下の罰金又は科料に処する。
なんと宝くじという名称ではなく、古式ゆかしい「富くじ」として記載されている。
「富くじ行為」とは「番号札等を販売し、その後抽選など偶然的な方法で不平等な利益を分配すること」と規定されている。賭博罪との区別に関する判例もあるが、ここでは触れないでおこう。
2016年12月には「IR推進法)が国会を通過し、2018年7月には「IR整備法(通称カジノ法案)」が成立した。その背景としてこういった法律があることを紹介してみたかった。
また野党の国会議員の『刑法が禁じている賭博行為のカジノをあえて特別法を制定して認めるということは、非常に慎重かつ丁寧な議論が求められると考える』みたいな意見を強引に踏み越えてきた上で成立していることも頭に入れておきたいことだ。
従来の日本では禁止されてきたカジノなどを解禁する法案について、本当に慎重かつ丁寧な議論があったのか、それはオレにはわからない。しかし既にできてしまっている現実も知っておいてほしいものだ。
当初カジノ法案では以下のようなことが決められたという。
・IRは当面3か所(7年後に見直し)
・入場は3回/週、または10回/月
・カジノ税は、カジノで得た収入の30%(国に15%、地方自治体に15%)
・本人確認はマイナンバー
・入場料は6000円/回
実際ここのIRでも、入場回数を数えるための専用入り口兼出口が3か所にある。みんな仕方なくマイナンバーのカードを作って表向きおとなしく出入りはしているが、出入りの業者に顔が利くならば、いろいろ便宜が図ってくれるとも聞いている。
IR・カジノ制度においては、刑法の賭博に関する法制との整合性が図られる制度設計となるよう、今後も十分な検討を行う必要があると思う。当時の政府のお約束も列記しておきたい。
そう、時の政府は
「必要となる法制上の措置を講じるに当たり、特定複合観光施設区域の整備の推進に係る
① 目的の公益性 ② 運営主体等の性格
③ 収益の扱い ④ 射幸性の程度
⑤ 運営主体の廉潔性 ⑥ 運営主体の公的管理監督
⑦ 運営主体の財政的健全性 ⑧ 副次的弊害の防止等
の観点から、刑法の賭博に関する法制との整合性が図られるよう十分な検討を行う」と約束していたのである。
果たして… 合格と言える現状なのだろうか?
みなさまもしっかり考えてみていただきたい。
現実、すでに逮捕者も出ていることだし、ということで…