第3部分 IR
第3部分 IR
ここは巨大IRのすぐ隣にある住宅地である。金持ちも貧乏人も住んでいる。なんらかの形でIRに関係を持つ者が多い… というか、ほとんどだ。
ここができる前、政府の方針では
「IRによって、周辺地域の宿泊業界、交通業界、物流業界等の活性化と雇用の創出」
を図ると喧伝された。たしかにそのとおりだったが、この地域の治安は日本とは思えない。若くて綺麗な女の子など、間違っても真夜中の独り歩きなどしてはならないと思う… 無事で過ごしたいなら、ね。
おおそうだ、そもそもIRとは何か?
IRとは、統合型リゾート(Integrated Resort)の略称である。それはMICE施設(下注)、ホテルなどの宿泊施設、ショッピングモールなどの商業施設、レストランなどの食事施設、その他劇場や映画館、アミューズメントパークやスポーツ、温泉やカジノサービス施設などが一体になった複合観光集客施設のことを指す。日本では、地方自治体の申請に基づきカジノの併設を認める区域を指定して設置される予定になっていた。
(注)MICE施設とは、
・会議:Meeting
・研修旅行:Incentive tour
・国際会議:Convention
・展示会:Exhibition
を行う施設の総称で、たとえば国際会議場や展示施設を指す。日本では整備がおくれているが、経済効果
が高くイノベーションやビジネスチャンスを生み出す施設だと認知されており、経済成長の原動力になる
ことが期待されている。
ここでいうIRの核とは、早い話がカジノ、つまり「賭け事、賭博」である。日本では、表向きは長らく「御法度」となっていたが、いつの時代にもウラはあるもの…
江戸時代、大名屋敷はある意味での治外法権であり、その大名の管轄下にあったのは御存知だろう。同様に寺や神社、略して寺社は寺社奉行の管轄下にあり、江戸町奉行は手を入れることができなかった。
そこに目を付けたのが博徒である。博徒とは専ら博打でメシを食う人々を指す言葉である。つまりまっとうな職にはつけないヤクザ者が多かったのだ。博徒は賭博を行う会場が欲しい。しかし御上、つまり町奉行の手が入るところは博徒も困るし、身分のある武士や大店の主人のような客も困る。むろん熊さん八つぁんのような庶民も困る。そこで、治外法権的な場所を借りる代わりに、貸主に場所代を支払う。これをテラ銭と称するのは、「寺」がある程度権威を持っおり、それでいながら賭博に深く関わっていた事情を物語っている。
藩によって状況は異なるが、大名の屋敷にも参勤交代の折に殿様が利用する上屋敷と、身分が低い小者や中間が利用する下屋敷があった。特にこの下屋敷は殿様や御家老様。御目付様の監視の目が緩く、賭博の温床になっていたらしい。
需要も供給も多いのに、なぜ賭博は陰の存在だったのか。
この辺の消息は、昔も今も変わらない。賭博で興行主である胴元が損することはない、と言われてきた。誰が勝とうが負けようが、賭けた金額の一定割合は、胴元に入るように取り決めてあるからだ。
だからみんなが胴元をやりたがる。するとその座を巡って勢力争いが起こるのが常である。犯罪と争いが増え、博打で身を誤るヒトが増え、泣く家族が増えるから、公に良いと言えない。江戸の将軍はダメと言ったが、その部下の一部が闇の勢力と結託して、私腹を肥やしたのだ。
現代は… 胴元が非合法組織、俗に言うヤクザや暴力団であってはさすがにマズい。実はいくらもあるのだが、表沙汰にならないよう巧妙に隠れたり擬装していたりするだけなのだが…
じゃあ地方自治体なら良いだろう…というのがカジノの本質なのだ。その代わりに、「公共のため」に売り上げの一部をいただくぞ、非合法組織の手に丸々入るよりはマシだろう… まあ、そりゃそうなんだが…
これは競輪競馬競艇にオートレース、宝くじに至るまで変わらぬ理屈である。
IRとは何か。
オレ流に一言で表すなら、自治体が公共の仮面で博打を仕切って儲けちゃおう、という「合法的手段」なのだ。特に人口が流入する割に、ふるさと納税で税収が減少しがちな都市部には魅力的なプランなのだろう… そこは同情してあげても良いかも知れない。
話のついでに、代表的な「カジノ行為」として、ルーレットとバカラについて、ほんの軽く触れておこう。ただし国や場所によって、細かい取り決めは異なることは御諒承願いたい。オレは貧乏だから、やったことないし… ね。
まずはルーレット(roulette)から。元々はフランス語で「小さな丸」を意味する言葉であるらしい。
そもそもカジノ行為の定義は《偶然の事情により金銭の得喪を争う行為》とある。
ルーレットの場合は、1~36の数字に加えて0(ゼロ:ヨーロピアンスタイルの場合)のいずれかに数字が決まることによって、自分の勝ち負けが決まる。
ルーレットは、37等分されたポケットの付いたホイールを回転させ、その回転の逆方向にボールを投げ入れて、そのボールがどこに落ち着くか読み合うゲームである。このホイールの扱いを仕切る人をディーラーという。以下ディーラーが合図するまでは、幾つかの方法で「賭け(べっと)|」することができる。
ポケットには赤か黒か緑(緑はディーラーの取り分)、および0~36の数字(0(ゼロ)は緑色でディーラーの取り分)が記されている。
例えば
・1目賭け:特定の数字1つに賭ける。配当36倍。
・3目賭け:横一列の数字3つ(1~3、4~6、7~9など)に
賭ける。配当12倍。
・縦一列 :一列の数字12個(36までの3の倍数など)に賭ける。
配当3倍。
・黒・赤 :黒色の数字か赤色の数字のどちらかに賭ける
(緑はディーラー)。配当2倍。
・奇・偶 :奇数か偶数のどちらかに賭ける(ゼロはディーラー)。
配当2倍。
…といったような幾つもの賭け方で気軽に遊ぶことができるのだ。
なお、アメリカンスタイルは0の他に00(ゼロゼロ)があり、ディーラーの取り分が2倍になっている。
次に「バカラ」… こちらもお印程度に触れてみよう。
バカラ(Baccarat)は、トランプを用いたシンプルなカジノゲームであるが、なぜか高額を賭けるVIP(Very Important People:重要な人物=上客)が多いらしい。
バカラでは、バンカー(仮想の胴元)またはプレイヤー(仮想の客)のどちらが勝つかを、あなたが予想するゲームである。ルールに従って進行するので、駆け引きや読み合いなどが介在する余地がなさそうに見えるが、なぜか人気なのだ。
進行を軽く紹介しよう。
①まず、バンカーまたはプレイヤーのどちらが勝つかを予想し、ベット(賭け)する。
②バンカーおよびプレイヤーにトランプを2枚配る。
③それぞれ配られたカードの数字を加算する。ただし絵札はすべてゼロとカウントする。また7+8のように、加えて10を超えたら10を減らして「5」とカウントする。
④合計が5以下なら3枚目のカードを配って同様にする。合計が6以上なら相手と比べる。
⑤数字が多い方のバンカーまたはプレイヤーが勝ちとなり、そちらにベットした客が勝つ。
ただし3枚目のカード配布については細かい規定が別途あるが、ここでは省略させていただいた。
ざっとこういう感じ、という部分だけ紹介してみたが、やらない人にとっては、「何が楽しいのか理解に苦しむ」ゲームではないだろうか。
オレはさ…カネがあったとしても、まったく興味は湧かない… と思うね。