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ロシアン ルーベッド  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
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第2部分 発端2

第2部分 発端2


 気付いたら目が覚めていた。いつのまにか眠ってしまったらしい。

「いま何時なんどきだろ… うへ? 朝三時?」


 なんか… ヨーグルト飲みたいな。


 冷蔵庫にヨーグルトはない。面倒だけど、どうしてもヨーグルトを飲みたい。寝てしまえと理性は命じるのだが、身体が、胃袋がヨーグルトを欲しているのだ。頭の中はすでにヨーグルトを飲みたい気持ちでいっぱいなのである。オレのしは、某メーカーのドリンクタイプのアレだ。アレじゃなきゃ…

 コンビニは三軒向こうにある。仕方ない… 買いにいくか。あのまま着替えてないから、このまま行くことにしよう。


 おおお、夜明けも近いと、少しは肌寒さを感じちゃうな…

コンビニって(まぶ)しすぎるんだよな… でも暗くてもなんとなくアレだしな…


 こういうときのアレっいうのは、本人にしかわからない感慨かんがいである。


 オレは大抵の場合、右回りで店を一周して回りながら目的のもの以外の何かを捜すことにしている。しかし今夜はまだ眠いし、買いたいのはヨーグルトだけなのだ。無駄遣むだづかいしないように、冷蔵コーナーのたなに直行した。


 よし、コレだよ、あった。

さてお会計…


 あれっ? サイフが… ない。スマホはたしか家にあったが、サイフがないのは困る。

いつものズボンの、いつものポケットに入ってない… 大変だ。

 店員に「サイフ忘れたんで、もう一度来ます」と断って、ヨーグルトを元に戻して家までさがしに帰った。


 しかしどこにもない。おかしいな…

ま… まさかの… おいおい、お坊ちゃんちかよ?


 裏口でつまづいて転んだのを思い出したのである。仕方なくオレは捜しにいくことにした。どうせそんなに遠くはないんだし。


 財布、サイフっと…


 サイフはあった。通りから少しだけ引っ込む形の裏門、その電柱の影に落ちていた。拾おうと腰をかがめ、手を伸ばしてのひらつかんだちょうどそのとき、クルマのライトが見えた。オレは裏門の影に身をけ、わずかな光を利用して中身を確かめ始めた。二万一,二,三千円。おおまかにあってりゃ良いのだ。銭はいくら入っていたかなど、もともと覚えてなどいない。


 それより、カードは?


 不意に押し殺した声が聞こえた。

『おい、人は居ないな?』


 なんだ? 


 これはヤバい匂いがする。オレは居るけど「あ、います」とか、これで名乗り出るアホはいないだろう。


 心拍が一気にあがった。自分の鼓動こどうが相手に聞こえそうなくらい動悸どうきが激しい。距離はざっと20mくらいかな。


 『はい、OKです。』

小声で応答があった。


 あの車はエンジンを切っている。

時折オケラの

『びぃーーーーーーー』

という単調な声がするだけなので、小声でも周囲によくひびく。門の陰にいるオレは、あちらからは見えないらしい。それに今は夜中の三時で、むしろヒトが居る方がおかしいはずだ。


 オレは怖いもの見たさに負けて、門と電柱の隙間から彼らを観察してみた。

「ん? あれは… 何だろう?」


 二人で持った重そうな布かシートの包みは、ひもで二か所をしばってあるようだった。その布包みが、むくっと動き、

「ううっ…」 

と、うめき声が聞こえたのだ。


『あんだよ、しぶてぇな』

『早くしろっ!』

小声だが鋭く叱咤しったする声が聞こえた。


 そのクルマは布包みをハッチバックに飲み込み、ゆっくり移動を始めた。

ヤバイ、こっちに来る! 


 オレは門の影にぴったりと寄り添おうとしたが、その必要はなかった。お坊ちゃんちのへいに沿って、右に曲がっていったからである。そのシルエットは霊柩車れいきゅうしゃのようにも見えた。


 あれは何だったんだろう?


 考えながら家に向かった。少なくとも良いことではなさそうだが、オレには関係ないさ、と決めながらも迷っていた。もうヨーグルトのことなど、綺麗きれいに忘れていた。


 そうだ、カード、カード。

家でカードの紛失がないことを確認してから、ようやくヨーグルトのことを思い出した。すぐ近くだけど、け足で二度目のコンビニ御入店。


 会計のとき、顔見知りの店員がニヤリと笑ってから、あわてて大真面目な顔に戻った。ずいぶん遠くの家から急いで走ってきた…と考えたのかも知れない。


 まあ仕方ない、笑わば笑えだ。

生まれて初めての「遠くて疲れるヨーグルト」だった。


 しかし… わからない。

あれは何だったんだろう?



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