第17部分 推理
第17部分 推理
ミナの危機。助けを求めて… ん? 求めてはいないわ。
アレ? おかしいな、笑ってる…
ミナの服が徐々に切ち刻まれていくのに。
普通なら泣き叫ぶはずなのに、ミナはストリッパーみたいに微笑んでいる。
『見て、アタシを見て! どう。きれいでしょ。もっと見て、胸も腰も、触って』
Tシャツは徐々にめくりあげられて、豊かとは言い切れないながらも胸の下のふくらみがもう見えている。もうすぐ、少し茶色がかった乳輪の先の可愛い乳首さんが全貌を見せるだろう。ミナの服を切っている男は、やにわにハサミを… 殺意を持ってオレに投げつけ、ミナに覆いかぶさっていく。
危うくかわして叫ぶオレ、
「おい、なんだよ、やめろっ!」
オレは汗びっしょりで目が覚めた。全く、何なんだよ。あのあとミナは何をされたのだろう。
でも…ああ夢か。そっか、ミナは死んだのだった。
ひとまず、ここまでの疑問を整理しておこう。
Ⅰ レナはミナの死を事前に知っていた。なぜ?
Ⅱ ミナは死ぬと知っていて逃げなかったらしい。なぜ?
Ⅲ ミナの死に、S階が関わりを持っている。なぜ?
Ⅳ ホテルで人が死んだのに、裏口からそっと運んでた。なぜ?
Ⅴ S階には特別な人々がいるらしいし、ホテル業務も分業化されてる。
なぜ?
こんなところかな。なんとなく嗅ぎ取れるのは、ミナの死には納得ずくのもので、Ⅱのミナも、Ⅰ・ⅢのS階もレナも、Ⅳのホテルも みんなが関わりをもち、しかも他人には知られたくない感じがプンプン臭う。
もう少し勝手に推測すると、このミナの死には、死亡診断を出す医者や変死を扱う警察も巻き込んだ大がかりな陰謀的関わりがあるのかも知れない。しかしこの日本でそんなことは有り得ない。日本は法治国家だし、世界のどこよりも頼れる警察が誇りなんだ。
でも… でも、もしかして… もしかするのかなぁ。そうだ、一番おかしなところはどれだろう?
やはりⅡだよな。次はⅠⅢⅣだ。ⅤはⅠⅢⅣ集団が「利益共同体」なら肯くことができそうだ。何と言ってもⅡがカギだ、やはり。
いくつか仮説を設定してみよう。
ⅰ ミナは死にたがり症候群の自殺予備軍だった
ⅱ ミナは死ぬ必然性があった(妊娠中とか、ヤク中とか)
ⅲ ミナは不治の病に罹病中だった
ⅳ ミナが大好きな人を後追いした
ⅴ ミナがシャブ中毒を苦にした
ⅵ ミナが誰か(家族等)を助けるために死んだ
んんん、やっぱ、ⅰかⅱかⅴ、ⅵだろうな。けど無理だ、わかんない。
こうして考えてきて、オレは自分の立場に気付き愕然とした。改めて整理してみるとこんな形になる。無論、どのカテゴリーにも良心的なヒトとそうでないヒトとがいるはずだが、ここではどこにでも悪人がいることを想定して考えていこう。
① 法治国家である日本国代表(政府、警察、医者)
② IR周辺の金持ちの娯楽か死の欲求
③ ①②に食い込むIRおよびホテルの追及するサービスと利益
④ 庶民代表(の中のオレ)
このうち、法律と良心を度外視して利益を重視すれば、①②③はひとつに結集できるではないか。④を相手にしても利益はでないから、『④には黙ってようなぁ』という協定を作るだろう。
もし④がそれに気付いたら… 奴らがおとなしく逮捕される… ワケがない。そもそも国家権力を背負うヤツもグルでなければ、こんなことはできはしない。
とすると… 奴らはみんな相利共生の関係にあり、いわば三位一体であるはずだ。 とすると…
邪魔者はオレだ…
これはまずい。どうにかしなければ…
少なくともオレが気付いたということを、奴らに悟られてはならない。さもなければ奴らの中にしっかり食い込んでしまうしか助かる道はない。
オレが怪しまれるとしたら…
1つはサブチーフの電話のとき、次に軽部との泥酔宴会のとき、そして以前霊柩車を見たときだろう。
たとえばあの車に、ドライブレコーダーが付いていたとすると… やばいな、そこまで考えてなかったっけ。それに…疑う気なら、レナだってそうだ。ミナのこと、S階のことなんかをレナとは話してるもんな。
見回せば、身の回りはいつもと同じ平常の世の中である。でもなんか、オレは急に落ち着かなくなってきた。
ここはいったん身を隠すのが正解かもしれない。おれがホテルでバイトしているときに「こっそり」拘束されたら…
ヤツらにはオレをバラす理由も場所も、死亡検案書を書ける医者も、火葬できる施設も持っている可能性があるんだぞ。あとはみんなで示し合わせてオレを行方不明にすればコンプリートだ。
そしてそれは、オレの完敗を意味する。かと言って、オレの勝利は、たぶんない。奴らを根こそぎやっつけるなんて不可能過ぎる。
イヤだイヤだ、オレはレナを連れて逃げる。逃げなくちゃ。気付いたことを気付かれぬうちに、素早く冷静にきちんと準備しなくっちゃ。
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